136、悪魔はレクシフォンで働く
連続投稿2話目です。
「ギョオオォォッッ!?」
魔物が悲鳴をあげてその巨体を地面に沈めた。
両足の腱を切られて腹を横一文字に裂かれて、大きく痙攣しながら腹から血や中のものがデロデロとこぼれていく。
そのグロテスクな様子を見て、俺は眉を潜めた。
「・・・ふん。裂かれたくらいでうるさいですねえ。それに、なんとも汚い。」
そう言って魔法剣を振ると剣はヒュンッと鳴って、辺りに血が飛び散った。
俺は森の奥に佇んでいた魔物をサーチで探しだし静かに近づいて、腰の短杖1本を刃を刀のように細長くした魔法剣にして、背後から魔物に襲いかかり両足の腱を素早く切って驚いている間に正面に回り込み、腹目掛けて切りつけて裂いて倒したのだ。
「ミャー!」
その様子を木の枝の上で見ていたクロ助が機嫌よく鳴いた。
「それにしてもトリズテンでのオークもそうですが、こんな人型のグロいハイオークがいい豚肉として世界中に流通しているなんてさすがファンタジーというかなんというか・・・。」
俺はそう1人でぶつくさ言いながら討伐証明部位の豚っ鼻を切り落として血抜きをして、ハイオークの死体をアイテムに放り込んだ。
ハイオークは体長約2メートルで豚の頭に人間の体に簡素な鎧を着た姿で、ハイオークがレベル40を越えると全身鎧のジェネラルオークか魔法特化のマジシャンオークになって、レベル50を越えるとオークキングになるようだ。
そしてこれらオーク肉はレベルが高いほどいい豚肉として世界中に流通しているそうだ。
そうなると、以前フラヴィーナで倒したオークキングの死体はどうなったんだろう。
食べてみたかったが、惜しいことしたな・・・。
そしてオークの特徴として、オークは必ず雄のみで人間の女性を拐って子を産ますというのがラノベで有名だ。
トリズテンのオークは冒険者の多くが倒せるレベルだったので被害も少なかったが、イルヴァルナスのハイオークはレベルが少し高めだから倒せる冒険者が少なくてイルヴァルナスでは毎年多くの女性が犠牲になっているそうだ。
因みにハイオークのステータスはこうなっている。
種族:ハイオーク
属性:土
レベル:37
HP:1000
MP:50
攻撃力:171
防御力:110
智力:46
速力:44
精神力:55
運:40
戦闘スキル:中級棍棒術
魔法スキル:初級土魔法
HPが高いし攻撃力が高めだからなかなか倒しにくいんだろうなあ。
俺の能力が高すぎて俺にとってはいい運動で他のことを考えながら倒すほどなんだよなあ。
因みにジェネラルオークとマジシャンオークはまだ俺は見たことない。
どっかにオークの村とかないもんかね。
突撃して倒しまくらないと運動した気にならなくなってきたんだよな。
そんなことを考えながら、俺はイルヴァルナスでハイオークを狩って肉を調達していた。
俺はルナメイアの馬車に乗ってカサブラの町に移動した後、翌日には町を出て人目のつかないところに移動してクロ助のドラゴンで宗教国家イルヴァルナスに入った。
そして町や村を経由して国に入って3日ほどで首都レクシフォンにやって来たのだ。
移動中は暇だったのでドラゴンの移動距離について測ってみると、ドラゴンで1時間移動した距離は馬車では1日、人間の徒歩で2日の距離とわかった。
しかしこれは道の上を移動した距離であって、道が曲がりくねったり高低差があったりや道なき道だった場合はドラゴンは飛んで移動しているだけに更に距離は広がるだろう。
実際、イルヴァルナスに入る道やレクシフォンに繋がる道はかなり悪路があったりしたので早い馬車で移動したとしても国に入って3日で首都はあり得ないくらい早いのではないかと思う。
首都に入った俺は宿屋をとって、国や首都の雰囲気を見るためにギルドでしばらく依頼をこなす日々を送ることにした。
宗教国家というので、宗教はどんなものか知っときたいのもあったからだ。
独特な教えとかあった場合、気付かず宗教に失礼なことをしてしまったりして目をつけられたりしたら面倒臭いしな。
そうして数日、買い物ついでにそれとなく店主とかに聞いたりして、この国の宗教のことが大まかながらわかってきた。
この国の宗教である国教は「魔法真教」という名の宗教なのだという。
あらゆる生き物は唯一神の加護の象徴である魔力を持って産まれるとされ、この世に生を受けた瞬間に神によってその人の魔力は決まるそうで、魔力が高く強い魔法を使いこなす者ほど死後に楽園に行けると言われているそうだ。
逆に犯罪を犯したり魔力が高くない者ほど地獄に落ちると言われていて、魔力を高めるには教会で祈ったり寄付などの善行を行ったり犯罪を犯さないことで魔力が高まるとされている。
この国には国王がいてちゃんと政治をやってるのだが、それと同時に国王は「魔法真教」の敬虔な信者であるそうで「魔法真教」のトップである教皇に国の政策をたびたび助言してもらうのだそうだ。
なので実質、教皇がこの国のトップの地位にいると考えていいようだ。
この国で「魔法真教」の信者はおよそ8万人いるとされ、国内の人口の70%ほどが信者と言われていて、それ以外は無宗教がほとんどだそうだ。
さて、この国内で悪魔教の信者は何%いるのかな?
それを1人ずつ暴いていくのも面白いかもしれない。
・・・が、そうするには少し時間が足りない。
あのじいさんとマスティフが恐らくこの国に向かっている可能性が高いからだ。
まあ、追ってくることを想定してルナメイアに行き先を教えたのもある。
ルナメイアが俺を好いているのをマスティフは知っているから、じいさんとマスティフがルナメイアに俺のことを聞きに行くだろう。
その時、ルナメイアが俺がイルヴァルナスに向かったことは言うだろう。
・・・元々俺とじいさんらには14日の移動日数の差があった。
それからさらに俺がイルヴァルナスに向かったと話を聞いてカサブラを出てイルヴァルナスの国境に着くのが恐らく7日、イルヴァルナスに入って首都に来るまででざっと2ヶ月はかかるはず。
つまりは俺の首都の滞在は3ヶ月くらいと限られてくる。
この間に悪魔教の幹部や最高指導者を探しだして悪魔を呼び出してもらわないといけない。
・・・とりあえずはイルヴァルナスの国境に「じいさんかマスティフがイルヴァルナスに入ったら俺に合図が来る」という発動条件の罠魔法は張っているから事前にわかるはずだがな。
「お疲れ様です、ユウジンさん。」
ギルドに報告のため訪れると、受付の若い女性職員がにこやかに迎えてくれた。
「こんにちわリズさん。今日も報告書いいですか?」
「ありがとうございます。毎日たくさんのハイオークをとってきていただいて助かります。今日は何体ですか?」
「今日は25体です。」
そう言ってハイオーク25体分の討伐証明部位の入った袋を渡した。
ちょっと重たかったようでリズさんは重そうに受け取っていた。
「す、すごいですね!昨日は15体だったのにそんなにとってきて下さるなんて・・・。ソロでハイオークを倒せる自体すごいことなのに、25体なんて複数のパーティーが1日中かけて倒す数ですよ。」
そう言いながらニコニコして報酬を渡してきた。
リズさんはこのギルドの看板娘的な職員のようで、ほぼ毎日受付をしている。
20代の黒のゆるふわの長い髪に青のつぶらな瞳の美女で、いつもニコニコ笑顔で受付をしているため冒険者の間でファンがいるほどの大人気の子だ。
俺はこの首都に来た初日に早速ギルドに来たのだが、リズさんは初対面の俺にもにこやかに対応してくれて、俺がとある理由で毎日ハイオーク討伐依頼を受けてたくさんのハイオークを狩ってきても引くこともなくニコニコ対応してくれている。
「あ、リズさん。ちょっと道を尋ねたいのですが。」
「はい。私でわかるところでしたら。」
「この近くの教会はどこでしょうか?寄付をしたいのですが。」
「寄付、ですか?・・・もしかして、ユウジンさんって信者なんですか?」
信者というのは、「魔法真教」の信者ということだ。
俺はニコリと微笑んだ。
「そうなんです。今回の報酬の一部を寄付したくて。」
言わずもがな、俺は無宗教だ。
だが、「魔法真教」の信者のフリをする必要があるので嘘をついた。
するとリズさんはパアアっと明るい表情になった。
「素晴らしい心がけですね。実は私も信者なんです!この近くに素晴らしい神父さんのいる教会がありますから、そこをオススメします。」
そう言ってリズさんはその教会までの地図を手書きで書いてくれた。
ふふふ、あなたが信者だなんて知ってたよ。
初対面の時に鑑定魔法かけてたからね。
「ありがとうございます。剥ぎ取り小屋でハイオーク売ったら行ってみようと思います。」
俺はリズさんにお礼を言うと早速その教会へと向かった。




