133、悪魔は去った後
マスティフ視点です。
ユウジンがスクリュスクから去って10日経過しています。
俺たちはヴェネリーグ王国から2週間ちょっとかけて、トリズデン王国へと帰ってきた。
首都スクリュスクに着くと、じいさんは国王から依頼された形でヴェネリーグに行っていたので報告のために城に向かい、アシュアとレフィは即行で警備兵に城に連れ戻されていた。
ぽつんと1人残った俺はとりあえず、じいさんと泊まる宿屋を確保するために馴染みの宿屋に行って部屋を確保した。
「お前がいない間に面白いことがあったんだよ。」
と、俺がこの首都に来てから馴染みにしている宿屋の主人のおっさんはそう言ってニヤニヤしていた。
「え?なんかあったのかよ?」
「それがな、聞いて驚け!なんと冒険者ギルドにルナメイア姫様が通ってたんだよ!」
「はあっ!?」
俺は思いもよらぬその情報に目が点になった。
「ルナメイア様って・・・あの?なんで冒険者ギルドに?」
「それが誰かを待ってたそうで、3日間くらいかな?毎日冒険者ギルドのテーブル席に座ってたんだよ。俺、思わず見に行ったぞ。めっちゃくちゃきれいだったぞお~!」
誰かを待ってた?
考えられるのは・・・妹のアシュアか?
「すげえ野次馬がいっぱいで、ギルドの中も外もえらいことになってたんだよ。けど3日目くらいに待ち人が来たみたいでな、それからはぱったり。それが・・・2週間前くらいだったかな。」
2週間前と言えば、俺たちがヴェネリーグの首都を発った日だ。
だとしたら、待っていたのはアシュアじゃないってことか。
そんなことがあったのか。へえ。
「ふうん。その待ち人ってたのはどんな奴なんだ?」
「俺は一瞬しか見えなかったけど、若い男だったぜ。肩に黒猫を乗せてた。」
「はああっ!?」
俺はその言葉に大きな声をあげてしまった。
あまりにも大きな声だったので、おっさんが驚いていた。
肩に黒猫を乗せているなんて、思い当たる人物は1人しかいない。
「そ、そいつは確かに肩に黒猫乗せてたのか!?白いローブを着てて、茶髪だったか?」
「えっと・・・そういえば確かにそんな感じだったかな。優男な感じだったな。」
俺は思わずぽかんとしてしまった。
・・・そういえば、ルナメイア様はユウジンに助けられて惚れてたな!
ユウジンは否定していたけど、ルナメイア様はユウジンの想像以上に惚れていて、冒険者ギルドで待ってたのか。
・・・はっ!待てよ!
ユウジンとルナメイア様が会ったということは、ユウジンはこの街にいるかもしれない!?
俺は慌ててユウジンが泊まっていた宿屋"銀狼の遠吠え"亭に向かった。
「あらあら、お久しぶりマスティフ。」
宿屋の入り口でローズさんが掃き掃除をしていた。
「お、お久しぶりっす・・・!ユ、ユウジンは戻ってきてますか!?」
「おや?マスティフ、ユウジンと仲良かったのに知らないのかい?ユウジンは2週間前に戻ってきてまたうちに数日泊まってってくれたけど、またどっか行く用事ができたって、10日くらい前に首都を出てったよ。」
「えっ!?・・・そ、そうっすか。」
そりゃそうだよな、さすがにいないか・・・。
それよりは、どこに行ったのかが気になる。
「あの、どこに行くと言ってましたか?」
「それは言わなかったよ。でも、冒険者の旅なんてそんなもんだろう?」
ローズさんはあっけらかんとそう言った。
ま、まあ、確かに冒険者の中にはまったくどこに行くかも決めないで適当な馬車に乗って旅する人たちもいるからな。
・・・いや、ユウジンがわざと言わなかった可能性が高いな。
あいつのことだ、追われたくないのだろう。
俺はローズさんに礼を言って移動した。
向かったのは、姫様が待っていたという冒険者ギルドだ。
ギルマスのサルフェーニアに、どこに行くか言ってるかもしれないと思ったからだ。
「久しぶりね、マスティフ。」
「おう、マスティフ。」
「久しぶり、サルフェーニア。って、あれ!?じいさん!?」
冒険者ギルドに行き、ギルマスの部屋に通されて入ると、そこにはゆったりと座って紅茶を飲んでいるじいさんとサルフェーニアの姿があった。
「じいさん、もう城に報告はすんだのか?」
「簡単に説明するだけで終ってのう。詳細は報告書にまとめて国王に渡したらいいことになったんじゃ。それでサルフェーニアに首都でその後、なにか変わったことがあったか聞きに来たんじゃよ。」
「そ、そうか・・・。じゃあ、ルナメイア様がギルドに通ってたのは聞いた?」
「今聞いたところじゃ。・・・ユウジンがギルドに現れたというところまで聞いていたんじゃよ。」
じいさんはニコニコそう言っていたが、目は真剣だっだ。
やっぱりユウジンがここに戻ってきていたのか。
俺も思わず真剣な顔をした。
「え?え?・・・どうしたの?2人とも?」
サルフェーニアは事情をわからず俺とじいさんの雰囲気に戸惑っていた。
「―――――・・・そ、そんなことがあったの・・・。ちょっと・・・正直、信じられないわ・・・。」
俺たちはヴェネリーグ王国であったことを話した。
サルフェーニアは話をとても驚きながら聞いていて、聞き終わった後は戸惑った顔をしていた。
無理もない。
ユウジンは真面目に依頼はやっていたし、特に箱の依頼をやっていたこともあって悪い印象はまったくない。
それにあの虫も殺せないような柔らかい笑顔の見た目で、本性を聞いたところで信じる方がおかしいくらいだ。
因みにユウジンがテスターであることは話してない。
これはユウジンが去った後、じいさん・俺・アシュア・レフィ・ヒースティ王の間で秘密にしようと話し合ったからだ。
「絶望を見るためだなんて、なんて恐ろしい・・・。2週間前に会った時は特に変わった様子もなくていつも通りの笑顔だったわよ。ルナメイア様に迫られて困ってた様子だったけど。」
「ユウジンは戻ってきてからどうゆう行動していたか、知っておるかの?」
「戻ってきてからすぐにギルドに来て、次の日には知り合いのところに顔出しに行ったみたいよ。ここを出る前の日には、わざわざ私のところに挨拶しに来たわ。しばらく戻ってこれないかも、って言ってた。」
「どこに行くかとかは言ってはおらんかったか?」
「いいえ。用事ができて、ってしか言わなかったわ。」
俺とじいさんはギルドを出て、ユウジンが顔を出したという知り合いのところに行くことにした。
ユウジンが剥ぎ取りの勉強のために剥ぎ取り小屋によく通っていたのを知っていた俺は、剥ぎ取り小屋に向かいじいさんを見てガチガチに緊張したクレッグに話を聞いた。
しかし、クレッグはサルフェーニア同様にどこに行くかは聞いてはいなかった。
「後はどこか、マスティフ知らんのか?」
「ええと・・・、うーん。・・・あ、そういえば。」
俺はヴェネリーグ王国に向かう前にチラッと買い物で寄った錬金術の店のことを思い出した。
そこでユウジンは万能薬を買って、店主のじいさんと仲良さげに話していたのを思い出したのだ。
ボロボロの店に入ると、店主のモメントはじいさんの姿に呆気にとられながらも話して、やはりユウジンと知り合いであることがわかった。
だが、モメントも行き先は言わなかったそうだ。
・・・やっぱりユウジンは俺たちが行方を探すのを見越して、行き先を言わなかったんだろう。
「おぢいちゃ~ん!」
と、モメントの店の奥から幼い女の子の可愛らしい声が聞こえてきた。
「おうおう、どうした?」
モメントはデレッとしてその声に答えていた。
孫かな?相当可愛がってそうだな。
「あたちもおはなちちたい~!」
「えっ!?じゃ、じゃがのう・・・!?」
モメントはなぜかものすごい戸惑って店の奥と俺たちを見比べていた。
「だいぢょうぶ!あたちいっぱいいろんなひととおちゃべりできるもん!」
「そうか~!えらいのう。」
またモメントはデレッっとすると、俺たちの方を向いた。
「あー・・・、申し訳ないが、会ってやってくれないか?」
なぜかばつが悪そうに言ってきた。
俺は会ってもいいよ、という目配せをじいさんにした。
「わしらは別によいぞ、店主。奥に入って大丈夫かのう?」
「ああ。・・・ちょっと驚くと思うけどな。」
驚く?
モメントに案内されて店の奥に行くと、俺たちは本当に驚いた。
「こんにちはー!あたちはほむんくるちゅよ!」
そこには台に乗った大きなフラスコがあり、中にピンクの髪の赤ちゃんのような女の子がいた。
女の子はぴょんぴょんフラスコの中で飛び上がっていた。
「ホ、ホムンクルス・・・じゃと!?店主、おぬしが造ったのか!?」
俺がぽかんと口を開けて唖然としている中、じいさんがモメントに聞いていた。
「ああ。箱の依頼でユウジンに材料を採ってきてもらって造ったのさ。」
は!?これ造ったのにユウジンが関わってたのかよ!?
「おぢいちゃん!おちゃをだちゃないと!おちゃうけあるの?」
「おっと、いかん。ちょうどなにもなかったんだ。」
「だったらあたち、あちょこのおみちぇのけーきたべたーい!」
は!?ホムンクルスが食べたいだけじゃねえか!?
「だめえ?おぢいちゃん、あたちけーきたべたいよお・・・。」
ホムンクルスは目をうるうるとさせてモメントを見ていた。
途端にモメントはとんでもなくデレデレ顔になった。
「しょうがないなあ~!すまんがお二方、ちょっとホムンクルスの話し相手してやってくれ。その間にお茶うけのケーキ買ってくるからよ!」
そう言うとばびゅんとモメントは出てってしまった。
ええっ!?とじいさんと2人で戸惑っていると、ホムンクルスは喋り出した。
「・・・ちゃて、おぢいちゃんのいないあいだにちかできないおはなちをちまちょう?」
っ!?・・・なんだ?
雰囲気が変わって、ホムンクルスは真剣な顔をしていた。
「あたちはあなたたちのことをちってるの。まりるくろう・ぶらっくにまちゅてぃふ。」




