12、悪魔は2人の神と会う
ちょっと短めで会話中心です。
ふと、気が付くと、白い雲の上に寝ていた。
んん?
・・・ここは?
前に来たことがある?
雲のふわっふわの手触りをしばらく撫でていて、思い出した。
起き上がって周りを見回してみるが、確かにそうだ!
ここは異世界に行く前に神様と会ったところだ!
そう思い出したところで、どこからかふわりと小さな男の子が降りてきた。
「やあ、優人。」
異世界の神様だった。
「え?神様?何で俺はここに来たんです?」
俺はなにかやらかしたか?と思ったが、心当たりはない。
「本当は3ヶ月ごとに夢に出ることにしてるんだけど、行って1週間たったら大丈夫か聞くために夢に出ることにしてるんだよ。」
そ、そうか。なんかやらかした訳ではなくてホッとした。
「それで・・・どうだい?なんか・・・えーと、感想とか聞いて大丈夫?」
神様は急に歯切れが悪く聞いてきた。
「え?すごく面白いですよ。冒険者登録して、魔物倒してます。」
「へ?あ、そ、そう・・・。ほ、他には?なんかやった?」
「他には?ええと、特には・・・。」
「そ、そう?・・・ならよかったんだけどね。ははは」
なんか神様は様子がおかしい。
俺がどうしたんだろう?と首を捻っていると、どこからともなく声がした。
「あー!もー!見ていてイライラする!」
そうイラついた女の子の声が聞こえたかと思ったら、男の子の近くに小さな女の子がふわりと降りてきた。
そしてつかつかと男の子に近づき、思いっきり頭を叩いた。
「いたーーーい!何すんだよお!?」
「あんたがバカだからよ!神のくせになにヒヨってんのよ!」
イラついた女の子はまた男の子の頭を叩いて「見てなさい!」と言うと、展開に唖然としている俺の方を見た。
そしてこほんっと咳払いをすると俺に近づいてきた。
「変なところを見せてごめんなさい。私はあなたのいた世界、地球を管理している神よ。はじめまして、優人。」
「え!?は、はじめまして。」
女の子の神は手を差し出してきたので握手した。
その瞬間、女の子の神は眉を潜めた。
「なるほど、さっそくやってくれてるわね。」
ボソリとそう呟くと、顔を笑顔に戻して手を離した。
「?あの・・・?」
「今の握手であなたの記憶を全部覗いたの。」
さすが神様・・・。
女の子は男の子の方に向かうと頭を痛がる男の子の手を掴んで握手した。
男の子は途端に顔を青くした。
「こいつにもあなたの記憶を全部見せたわ。」
女の子はあっけらかんと俺に説明してくれた。
そんなことができるのか!?すげえな神様・・・。
「あなたが親・親戚・友人から悪魔と言われていたことをこいつに話したの。だからあなたに挙動不審になったのよ。」
「あなたは俺のこと、知ってたんですか?」
「もちろん、私は管理している地球のことはすべて把握しているわ。地球の物の成分から生き物の生い立ち、記憶、感情だけでなく神経の動きも手に取るようにわかる。・・・あなたの過去も心の動きも、絶望に対する執着も把握していたわ。」
「・・・。」
「あなたがこいつの世界に行ってからのことはわからないから、気になったのもあって今回ここに同席したわ。・・・でも記憶を見るかぎり、そっちでもあなたはなにも気にせず元気にヤってるから、これ以上は記憶を見ることも同席も次からしないわ。私は元気にしてるならどうでもいいし。」
「ちょっと!それって薄情じゃない!?僕の世界めちゃくちゃになっちゃうんだよ!?」
男の子は涙目で女の子に詰め寄っていた。
「申し訳ないけど、私は地球の管理しているんだから、他の世界のことなんて構ってられないのよ。あんたの世界がどうなろうが、めちゃくちゃになろうが、地球に影響ないんだし。」
「そんな~!?」
「ちょっとすいません。なんで俺が世界をめちゃくちゃにする前提で話してるんですか?俺は世界を破壊するつもりはないですよ?」
まあ、気に入らない奴はめちゃくちゃにするつもりだけど。
「そう言って!さっそく自殺させてるじゃないか!」
あの落とし穴の男のことを言ってるのか。
「あれはそのつもりはなかったんですよ。自分が無意味に殺した仲間と過ごさせたら、もっと精神がやられてくれるかなあって思っただけで。」
「それで自殺しない方がおかしいよ。全員穴から出してあげたらそれだけでお仕置きになっただろうに・・・。」
「確かにお仕置きになったかもしれませんが、それだけではまた復讐と称して俺を襲う可能性が高いと思いました。すぐに殺そうと結論に達する奴らですよ?穴に落ちたくらいで改心すると思いますか?」
「う、う~ん。」
「それに俺は気に入らないことを考えている奴に、その考えはどうなんですか?って聞いてるだけなんですよね。」
「いやいや、聞いてるだけじゃないでしょ。」
うーんと俺は頭を傾げてしまう。
本当にそうしているだけなんだけどなあ。
「確かに気に入らない考えを砕くような状況を作ってあげて、それで問うけど、それでも己の考えを貫けない奴が多いだけ。その頭の悪い考えをぐちゃっぐちゃに砕いてあげて絶望する顔を見るのがたまらなく大好きなのは否定しないけど。」
「ふわぁ!さらっと怖いこと言った!」
「もう諦めたら?優人は何があってもたぶんこのままよ。」
「えぇっ・・・!」
「神様、安心して下さい。俺は殺しはしないから大丈夫ですよ。ちょっと世界が荒れるかもしれませんけど。」
「それが恐ろしいんだよ!」
あ、そういえば聞きたいことあったわ。
「そうだ神様、聞きたいことがあったんです。その自殺の奴が死んだら俺に経験値をもらってレベルアップしたんですけど、もしかして人を殺しても経験値もらえるんですか?」
神様は苦い顔をした。
「それは僕のミスでね。人間たちへの敵、ということで魔物を造り出したんだけど、経験値獲得設定で"敵を倒したら経験値を獲得できる"としたら、魔物だけじゃなくて敵と認識した人間も倒したら経験値を獲得できるようにちゃったんだ。でも今のところ誰も気が付いてないから、設定を直さずにしてたんだけど・・・。」
まあ、考えたら鑑定魔法はアイテム収納魔法くらい珍しいらしいから、あの世界の人間たちは気付きにくいだろうな。
「テスターに指摘されなかったんですか?」
「今までのテスターは誰も指摘がなかったし、誰も殺しはやらなかったからね。君が初めてさ。だから申し訳ないけど誰にも言わないでくれるかい?」
「わかりました。黙ってます。」
まあ、俺は殺しはしないし興味ないし、誰にも言うつもりはないしな。
「そういえば、僕の世界の感想とか改善点とか聞きたかったんだけど、記憶覗かせてもらったから、感想はわかったし改善点とかはないみたいだね。記憶を覗くとかは今回限りだから、次回からは報告お願いするね。特に君は細かく正直にね!」
「わかりました。こちらとしても記憶を覗かれるのはいい気分ではないので報告でお願いしたいですね。」
「じゃあ、次は3ヶ月後にまた夢に出るから、それまでにほどほどに頼むよ?」
「ほどほどかはわかりませんが、まあ、なるべく。」
女の子がジト目でこちらを見てきた。
思いっきり「うそつけ、大暴れするだろう」と目で訴えかけてくるのを無視した。
「じゃ、頑張ってね!」
「ありがとうございます・・・。」
そうして俺は急激な眠気に意識を手放した。
「嫌な予感しかしないわ、大丈夫かしら?・・・"金の栄光"」
「え!?なにその呟き!?」
 




