124、悪魔は暴かれる
内紛が終わり、ヒースティ王子が王になるということで見事にバタバタに巻き込まれて俺たちはしばらく首都に滞在することとなった。
じいさんはヒースティ王の人事などで短期的にアドバイザーをすることになって、今までのグラエム王の都合のいい者たちが大臣にいたのを一新して新たな大臣・領主が貴族の中から選ばれた。
領主は現在の領主はそのままで、マシリとアウルサとキュベレの領主が新たに選ばれたそうだ。
マシリの元領主オスロは解任となり爵位も取り上げられたということで一族は散り散りになったし、アウルサの領主ティーガは亡くなったし、キュベレの領主はユースギル王子の指示でアバドンが殺したらしい。
国内の反応としては、ヒースティ王子が王位につくとは誰も想像してなかったようで「政治ができるのか」という意見もあったが、首都を守ったフェニックスの話がものすごい勢いで広がって一気に人気が出てきた。
グラエム王とユースギル王子とオーランド王子は流行り病の病死として表向きは発表され、今回の内紛は悪魔教に王族が操られて行われたことと発表もなされた。
積極的に関わっていたとは王族としては聞こえが悪い、ということらしい。
そして今までまったく話に出てこなかったグラエム前王の第一王妃の所在が明らかとなった。
第一王妃ダリアはオーランド王子が首都に攻めてくる直前に、グラエム前王が自分の執事に指示してアウルサとは違う別荘に逃がしたそうだ。
ダリアはヒースティ王の実母なのでそのまま別荘で隠居することになり、そこでグラエム前王の計画によって犠牲になった人々の鎮魂を祈るのだそうだ。
まあ、後のゴタゴタなんてどうでもいい俺は、ホムンクルスも気になるし先にトリズデンに帰ろうかと思っていたのだが、じいさんから話があるから残っててくれと言われたので仕方なく残った。
首都をブラブラしたし、ティーガの一族の財産を託されたのでそれをもらいに行ったりした。
ティーガの一族クレノス家は代々王族に仕えていた侯爵家だったので首都の屋敷はとんでもない大きさで、手紙を執事に渡すと金庫に案内してくれた。
ティーガの死はグラエム王らの死の発表の時に一緒に発表されていて、執事は暗い顔をしていたが、俺の応対をしっかりとしてくれた。
札束では金庫に入りきらないということで、金庫には大量の宝石が入っていて総額を聞いて気が遠くなりそうだった。
「この金庫にはざっと40億イン分の宝石があります。」
「40億!?」
「さらにこの屋敷とアウルサの屋敷とで合わせて約10億インの価値がありますから、総資産は50億インということになります。あなたはこれを相続したことになります。」
「ご、50億!?」
そしてティーガの手紙には「首都の屋敷とアウルサの屋敷にいる執事とメイドたちには世話になったので、退職金を総資産から渡して、それを引いた額をユウジンに相続するようにしてほしい」と書いていた。
なので執事と話し合って40億インを俺が相続して、屋敷の価値10億インは建物と土地を売った後に執事とメイドたちと山分けするということになった。
元々屋敷なんていらないし、売るとなると時間がかかるだろう。
となれば、まだまだヴェネリーグに滞在しないといけないことになるから、そこまでしてほしくはないので執事に任せることにしたのだ。
執事やメイドたちは何人いるのかわからないが10億インなら退職金としても破格になるのでメイドたちもそれを聞いて喜んでいた。
だが、この総資産50億インというのは侯爵としては少ないくらいらしい。
というのもどうやらティーガは実験を自腹で行ったりしたこともあったようで、そっちで少し出費があったようだ。
だとしても40億インなんてとんでもない金額だ。
俺はアイテムに宝石を全部入れて屋敷を後にした。
そして内線が終わって10日後、人事などが決まって少し落ち着いたということで、じいさんに呼び出された。
城の6階の角部屋の会議室に来るように、と言われていたので行くと、そこは大きな会議室で中央に円卓があり、奥の壁一面がガラス張りになっていて北の森や青空などがきれいに見える造りになっていた。
「来たか、ユウジン。奥の席に座ってくれ。」
じいさんはいつものニコニコ顔で円卓に座らず立っていて、円卓にはヒースティ王にマスティフ・アシュア・レフィがすでに座っていた。
ヒースティ王の近くには護衛の騎士が2人いて、メイドも数人隅に控えていた。
大きな円卓に対して椅子は意図的に減らされていて、一番奥のポツンと置かれた椅子しか空いてなかった。
「すいません、待たせてしまいましたか?」
「いいや、わしらもさっき来たところじゃ。」
じいさんはニコニコ笑顔で返事してくれたが、マスティフらに視線を向けると、ふいっと避けられた。
マスティフ・アシュア・レフィの3人は内紛が終わってからほとんど会うことも話すこともなかった。
俺の本性が相当ショックだったのか、お互い城の部屋に泊まらせてもらっているのに部屋に来ることは一切なく、廊下で会っても挨拶するくらい。
朝食を食べるために行った城の食堂で会ってもものすごい気まずい雰囲気でそそくさと食べて去っていくこともあったな。
・・・まあ、この本性を見て避けて当然だとは思っている。
あちらの世界でも俺の本性は受け入れられなかったほどだ。
怯えた目で見られるのはいい方で、存在を無視されることもあったし、避けられるのには慣れている。
・・・それでも友達として接してくれた数人はいたな。
まあ、とにかく、これ以上マスティフらと仲良くなる必要もないだろうし、避けてくれてもまったく支障なく過ごしてはいたんだけど。
「さて、全員集まったところで、わしの話を聞いてもらいたい。」
話とはなんだろう?
わざわざ会議室でヒースティ王やマスティフらも集めるということは、今回の内紛に関わることだろうか?
・・・俺はてっきり、やり過ぎだと責められるか説教でもされるかと思っていたのだが・・・。
「・・・これからこの会議室での話は他言してはならぬぞ。それほど秘密裏な話じゃ。」
マスティフらもなにを話すのだろうと真剣な顔でじいさんを見ていた。
「わしの古い友人に、とんでもなく強いやつがおっての。どんな傷も一瞬で治って最強の剣と防具を持ってランクSなど簡単に倒してしまうバケモノみたいなやつでのう。」
は?なんの話だ?
「そして別の古い友人に、どんな魔法も使いこなすやつがおってな。この世の全ての魔法を取得している魔法使いの頂点に立つような、そんなバケモノみたいなやつもいてのう。」
「は、はあ・・・。」
ヒースティ王もマスティフらもなんの話をしているのかさっぱりわからず、首を傾げている。
「その2人がそれぞれ、奇妙なことをわしに言ったことがあるんじゃ。「自分はこの世界の人間ではなく、異世界から神に頼まれて来た。」と。」
俺はその言葉にドキッとした。
まさか・・・じいさんは知っているのか!?
すると色々なことが見えてきた。
じいさんだけ立っているのは俺が逃げようとしてもすぐに反応できるようにするため、そして俺を自然な流れで奥の椅子に座らせたのは俺を部屋から出さないため・・・ってところか?
そして俺がグラエム前王らに絶望を与えている時にまったく手出しせずに考え込んだり様子を見ていたのは、あの時点で俺が何者か勘づいたからだったのか?
俺はいつもの笑顔を張り付けたまま、素知らぬふりをしてじいさんを見た。
じいさんは俺の反応が想定内だったのか、じいさんもいつものニコニコ笑顔で俺を見ていた。
でも目の奥は鋭く光っていた。
「ユウジン・・・おぬし、テスターじゃな?」




