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122、悪魔は王子を呼ぶ

ヒースティ王子寄りの3人称視点です。

それは、アウルサでユウジンが姿を消した朝のこと。



この日もヒースティ王子は日課の朝食後の読書を楽しんでいた。

「山の館」内の自慢の中庭のテラスに座って、集中できるようにメイドや執事は少し離れた建物の側で待機している。


「おはようございます、ヒースティ王子。」

聞きなれない声に、え?と顔を上げると少し離れた所に1人の青年が立っていた。

とても優しい顔つきで、服装から貴族ではないことはわかったが、ヒースティ王子に心当たりのある顔ではなかった。

青年の肩にはかわいらしい黒猫が乗っていた。

「すいません。ちょっとお話がありまして、忍び込ませていただきました。」

青年はとても気さくにとんでもないことを言ってきた。

「し、侵入者!?」

ヒースティ王子は慌てて立ち上がろうとしたが、青年が止めた。

「警戒しなくて大丈夫です、王子。俺はあなたと話したいことがあって来ただけで、危害を加える気はありません。それに今は魔法であなたにしか俺の姿は見えませんから、誰かを呼んでも無駄です。」

は?この青年はなにを言っているんだろう?と思っていると、執事がすっとやって来た。

「どうされました?王子。急に立ち上がられましたが、なにかありましたか?」

「え?」

執事の立っているすぐ隣に青年はいる。

なのに執事は青年のことをまったく気付いてないようで、王子だけを見ていた。

青年はわかりましたか?という笑顔を見せてきた。


「あ・・・、い、いや。なんでもない。ちょっと考え事をしていて・・・。」

執事はそうですか、というとやはり隣にいる青年のことなど見えていない動きで下がった。

「わかっていただけましたか?こういう魔法が世の中にはあると思って下さい。」

「わ、わかった・・・。」

「すぐにわかっていただけて安心しました。どうやら理解力は高いようですね。でしたらこれから話すことはすぐに理解して下さると期待しますよ。」

そして青年はまずはと自己紹介をした。


ユウジンと名乗るその青年はかの有名なマリルクロウ・ブラックとその孫と孫の仲間たちとある用事でトリズデン王国からこの国に来たと話した。

ユウジンはただの冒険者の魔法使いであると言ったが、雰囲気や物腰から明らかにただ者ではないと王子は思った。

そしてユウジンはトリズデン王国で姫の誘拐未遂事件があり、それが悪魔教の仕業であったこと、そしてこのヴェネリーグ王国に悪魔教の信者がいるとの手がかりから悪魔教最大の敵であるマリルクロウと信者を探して本部のある場所を聞くために来たが、オーランド王子の使役魔法に引っ掛かりこの国の内紛に巻き込まれたことを話した。


オーランド王子の使役魔法、という話が出たところで、ヒースティ王子は目を見開いた。

「・・・やはり(・・・)、オーランドは使役魔法を持っていたのか・・・。」

「やはり、ということは・・・ヒースティ王子はオーランド王子が使役魔法を使えると思っていたのですか?」

「あ、ああ。まさか人間とは思わなかったが、オーランドの周辺がどうも不自然だったからなにかを使役しているのではと思っていたんだ。」

「不自然というのは?」

「オーランドの周りのメイドや執事が10年以上前から次々と死んでいるんだ。そしてその全員が理由もなく自ら命を絶っている。父上はそれを知っているのになぜかオーランドに聞く様子もなかった。だから不自然に感じてこの別荘に避難してきたんだ。」

ヒースティ王子はメイドや執事が死んでいるのが不自然に思っていることをオーランド王子に感づかれないために、別荘に避難してきたのだ。

感づかれればなんらかの使役魔法で殺されるかもしれない、とヒースティ王子は直感しての行動だった。


「ふむ・・・。避難してきた、となるともしかして、あなたが平和主義という噂は・・・。」

「私は死にたくなくてここに避難して、内紛に関わらないようにしていただけなんだ。ただ、逃げていただけで平和主義ととられたようだ。」

ヒースティ王子はそう言って苦笑した。

「私の正直な感想としては、この内紛は作為的なものを感じるんだ。だくさんの犠牲者が出ているのに不謹慎なことを言っているように思われるかもしれないが、誰かのシナリオのようなものに沿ってやってるような気がするんだ。だから参加したくないと、こうして籠っているのだよ。」

ユウジンは少し驚いたような表情をした。

「ヒースティ王子は勘が鋭いようですね。・・・おそらくそうです、この内紛はグラエム王とオーランド王子のシナリオ通りに進んでいると思われます。」


そしてユウジンは推測ではあるが、内紛の全容を語った。

おそらく悪魔様に人間の魂を捧げるためだろうということ、そして内紛に利用するために非道な実験をアウルサでしていたこと、そしてグラエム王が悪魔教の元信者でオーランド王子が悪魔教の幹部であること、そしてこのあとの展開も話した。

「おそらくですが、何年間か内紛を長引かせ、もっとたくさんの犠牲者を出して、頃合いを見てオーランド王子が城に乗り込んでグラエム王を退位させて隠居させて、自らが王となるつもりでしょう。悪魔教の幹部が王になれば、信者も増やせて税金も悪魔教に回せますからね。」

「そんな!・・・オーランドに王位を譲っては、ヴェネリーグが悪魔教のものとなってしまう・・・。父上とオーランドを止められないものか・・・。」

「残念ながら内紛はとっくに始まってますから止められません。既に多くの犠牲者も出てますしね。・・・ですが、俺もオーランド王子が王位につくのは癪なんですよ。」

「癪?」

「彼は正義の王子として悪王に立ち向かっているというのが気に入らないんですよ。だってオーランド王子は、はなからグラエム王と繋がっていて味方を裏切っているのですよ?悪は悪らしく振る舞わないと。だから癪なんですよ。」

ユウジンはそう言ってニヤリと笑った。

「なので、俺はオーランド王子とグラエム王の妨害をしたくなりましてね。ある企てを考えたんです。」


そしてユウジンは自らが考えた企てをヒースティ王子に話した。

首都に向かいグラエム王に悪魔に成りすまして内紛を早く終わらせるようにそそのかすこと、そして首都で戦うこととなったら使役している者たちを一旦味方に倒させて使役魔法に解かして死霊魔法で生き返らせ、復讐として殺すか殺さないか任せることにすることを考えていると話してきた。

「オーランド王子の味方にはマリルクロウがいますから使役している者たちを倒せるはずです。そして頃合いを見て死霊魔法で生き返らせ、死者にグラエム王とオーランド王子をどうしたいか託します。多分、殺すでしょうねえ。」

「父上と・・・オーランドが・・・死ぬ・・・。」

ヒースティ王子はそう呟いてうつむいた。

父親と異母弟が死ぬだろうと言われ、ゾッとした。


「そしてその後、あなたに後始末をお願いしたいのです。」

「わ、私に・・・?」

「詳しくは・・・そうですね、俺の企てが順調にいったら23日後に首都の城に来てください。・・・おそらくそれくらいにアウルサの騎士兵士がたくさん首都に向かうはずです。そうなったら、俺の企てが成功したと思ってくださると助かりますね。」

「しゅ、首都に・・・?」


するとユウジンはちらりと太陽を見た。

「おっとすいませんが馬車の時間がそろそろだと思うので、これで失礼します。」

「え、あ、ちょっと!?」

「必ず首都に来てくださいね。・・・来ないと首都がさ迷う死者で溢れてしまいますからね。」

ユウジンはそう捨て台詞を吐いて姿を消した。


ヒースティ王子はしばらく呆然と、ユウジンがいた場所を眺めると、はあっとため息を吐いた。


『なかなかぶっ飛んだ会話をしたな。』

頭の中にフェニックスの声が響いた。

フェニックスはずっと会話を聞いていたようだ。

「うん・・・。あのユウジンの言った通りになると思う?」

『おそらく。あの人間の発言から、自信があるというのが見えた。』

「そう・・・。なら、本当に、父上とオーランドは死んでしまうのかもしれない・・・。」

『家族を助けたいか?』

「・・・悪魔のためにこんな内紛を起こしているというなら、元凶である彼らが命を落とすことで、これ以上犠牲者が出なくてすむ・・・と思いたい。」

『そうか・・・。』


「・・・それにしても、ユウジンを前にちょっと、緊張したよ。」

『緊張?そんな風に見えなかったが?』

「一応私は勘が鋭い方だから、なんとなく感じたんだよ、ユウジンの目の奥・・・。ニコニコ笑ってたけど、あれは狂気でぐちゃぐちゃになってる目だ。」


ヒースティ王子はまた、ため息を吐いた。



「23日後に首都に行こう。・・・行かないと、首都が死者で溢れるどころか、死者に生者を喰えと言ってもおかしくない目をしていたよ。」




すいません、思った以上に主人公と王子の会話が続いたので書ききれませんでした。

次回で本当に内紛が終わります。

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