121、悪魔は王の絶望を見る
俺はニヤニヤ笑いながら苦しむグラエム王に近づいた。
「グラエム王、見てくれた?あんたの大事な息子たちは死んじゃったよ。」
だが、グラエム王はそれどころではないようで悲鳴をあげて床をのたうち回っている。
「うぎゃああぁぁっ!いたい!いたいいい!」
グラエム王の顔や首や腕といった肌が見えるところは皮膚の下でなにかが這いずり回っているようでボコボコと異常に膨らんだりしている。
「ひいいい!いたい!くるしい!たすけてくれえ!たのむ!たすけてくれえ!」
グラエム王が泣きながらすがる手を、俺は笑顔で踏んだ。
「いやだね。これは俺の指示ではなく亡霊たちの意思だから尊重しないとね。だいたいお前が殺したのが悪いんだろう?」
「ぐええっ!ち、違う!余は・・・余は、悪くない!」
「悪くない?こんだけ殺しといて?ははっ!あんたアレか?自分の邪魔するこいつらが悪いのであって、自分はまったく悪くないと思ってるアホかい?だったらマジ救いようがねえよな?」
「違う違う!余は、選ばれた人間なのだ!ぐあああっ!」
「選ばれたならなんでこんな痛い思いをしてんだろうねえ?そりゃそうだよねえ、悪魔教なら例え元信者でも苦しむ姿を悪魔様に見せないとねえ?」
「ひいいっ!違う!余ではなく・・・なにも知らない人間の苦痛や恨みが悪魔様の最上の貢ぎ物なのだ!ぎゃああっ!」
「見ず知らずの人間が苦しんでいるより、知ってる人間が苦しんでる方が面白くない?知ってるやつが痛みに悶えながら地面転がってるのなんて俺だったら爆笑なんだけど。悪魔様はきっと今のあんたを見て笑い転げてないかなあ?だったらもうちょっと頑張ってみようか?」
俺はニコニコ笑ってグラエム王の中に取り憑いている亡霊に呼び掛けた。
「亡霊たち!まだグラエム王は余裕だぞ?お前たちの恨みはそんなものか?」
するとグラエム王の皮膚の下で這いずり回っていたなにかはより一層勢いよく這いずり回り出した。
そしてグラエム王の耳元では『苦しめ苦しめ』『このくらいで恨みは晴れぬ』とか亡霊たちが囁いている。
「うぎゃあああぁぁっ!!やめてくれー!ひぎいいいいっ!」
グラエム王はますます地面をのたうち回り、血の涙まで流している。
「ううぅぅっ・・・殺してくれ・・・誰か・・・ころしてくれえ・・・。」
グラエム王の転がる様をしばらく眺めていたらうわ言のようにそう言ってきた。
グラエム王の目は俺の求めていた、絶望の目をしていた。
「くはははは!その目だよその目!その目を見たくて色々頑張ったんだよ。今の気分はどう?苦しい?悔しい?それより恨みや怒りがつのってるか?悲しみや後悔のない、いい絶望の目をしててあんた最高だよ!あはははは!」
俺はまじまじとグラエム王の目を見てそう言ってやった。
オーランド王子の絶望の目もよかったけど、オーランド王子は1度絶望をしたことのある目をしていたからそこまで感情が深くはなかったけど、やっぱり絶望をしたことのないグラエム王の目は違うね。
一気に苦しみや悔しさや怒りとかが溢れてて、深く魂の底まで負の感情に染まったような真っ黒なものが目から伝わってくる。
この真っ黒な感情が蠢くのが、人間らしく感じるし、生を感じられるから好きなんだよね。
ずっと見ていたいくらい、いい絶望なんだけどちょっと時間的にこれくらいでいいかな?
このあとの予定がちゃんとこっちに向かってきてるからね。
「・・・さて、お待たせ、ドラゴン。」
俺はドラゴンの方を見た。
「こんな面白い絶望を見れたから、俺としては満足したよ。だからもうこいつ、好きにしていいよ。」
『・・・。』
ドラゴンはやっと出番が来て骨だけの頭でニヤリと笑うと、地面に転がるグラエム王に近づいた。
「ころしてくれえ・・・だれか・・・だれか・・・」
グラエム王は焦点の定まっていない目でドラゴンが近づいてきたのにも気付かずそううわ言を言っている。
『ふん、こうなっても哀れとも思わん。地獄でも苦しむがいい。』
ドラゴンはそう言って、炎を吐いてグラエム王を焼いた。
「ぎゃああああああぁぁっ!!!」
グラエム王は断末魔の悲鳴をあげて数分後には真っ黒の焦げた死体となった。
「みんな、お疲れさま。」
俺が声をかけるとドラゴン・アバドン・カルディルは一礼した。
『恨みを晴らす機会を与えてくれたことの礼をいうぞ、人間。』
『おかげでクソ王子を殺すことができた。』
『俺も知らずにこんな体にされて操られていた恨みを返せた。』
「あんたたちの気が晴れてよかったよ。俺の方こそ、あんたたちと亡霊のおかけでいいものが見れたから、感謝してるよ。」
あ、そういえばじいさんらはどうしたんだ?
ずっと黙って俺の行動を見ていたようだけど。
じいさんらの方を見ると、じいさんらは固まっていた。
じいさんは今のこの状況を考えているのか、グラエム王の死体やオーランド王子の死体を見て考え事をしているようだったが、マスティフ・アシュア・レフィの3人は俺を呆然と見て顔を真っ青をさせていた。
「ミャー!」
そんな中でもクロ助は相も変わらず、おつかれっ!という感じで近寄ってきたので抱き上げて肩に乗せた。
「・・・マスティフ、レフィはもう体は大丈夫か?」
俺がそう声をかけると、3人はビクッとして黙って目をそらした。
・・・んまあ、今回思いっきり本性出してしまったし、しょうがねえか。
「ユ、ユウジン。」
アシュアが顔を真っ青にしたまま、おずおずと声をかけてきた。
「な、なんでさっきから・・・口調が違うの?」
あ、そういえばこの口調をマスティフらに聞かれたのは初めてだったな。
「あーこれか。これは癖なんだよ。俺はうまいこと事が運ぶとつい本性が出て口が悪くなるんだよ。でも顔と全然合わないだろ?だからいつもは敬語で話すようにしてんだよ。もうちょっとしたら落ち着くからそしたら敬語に戻ると思う。」
「そ、そう・・・。」
あの明るいアシュアも俺から目線を外してうつむいた。
ものすごく気まずい雰囲気だが、それは俺のせいでもあるししょうがない。
いつもはわーわー言ってくるマスティフでさえさっきから黙ったままだし。
まあ、ここでわーわー言ってくるやつがいたらどうかしてるか。
「・・・これからどうするつもりじゃ?ユウジン。」
少し険しい顔をしたじいさんが聞いてきた。
このじいさんは俺の行動を見極めようとしているようだ。
「・・・グラエム王が死んだことで、攻めてきていた魔物は正気に戻って山に散っていくだろうなあ。」
「ということは、おぬしの死霊魔法も解除せねばならんのではないか?」
「俺は死霊魔法を解除するつもりはねえよ。」
「・・・なに?」
じいさんが怪訝な顔をするのを、俺はニコニコ笑いながら見ていた。
ふー、落ち着いてきたな。
敬語でしゃべんないと。
ちょうど、来たみたいだしな。
謁見の間の外の廊下が騒がしくなり、数人の騎士と1人の人物が乗り込んできた。
「こ、これは・・・!?」
その人物はグラエム王の焼けた死体やオーランド王子の死体を見て絶句していた。
俺はその人物に話しかけた。
「話した通りの時間に来てくれて・・・いえ、来て下さってありがとうございます、ヒースティ王子。」
そう、俺の企ての最後に必要だったのはヒースティ王子だ。
神様に俺の企てについて話したときに出た「あの人」はまさしくヒースティ王子のことで、ヒースティ王子が俺の考えるような人物だったら俺の企ては完成となる。
だが、ヒースティ王子が俺の考えるような人物ではなかったら、最悪この国は滅びるだろうな。
ヒースティ王子を知らないじいさんとアシュアとレフィはなぜこの場に王子がいるのかわからず首を傾げていて、顔を知っているマスティフは王子がここにいることに驚いていた。
「ほ、本当に・・・君の企て通りになってしまったのか・・・?」
ヒースティ王子は顔色を悪くして俺にそう聞いてきた。
「ええ。ほとんど企て通りにいきました。あ、王子のお兄さんのユースギル王子もいたのですが、アバドンに焼かれて灰になってしまいました。」
「!?ユ、ユースギル兄さんまで!?・・・なんということだ・・・。」
ヒースティ王子はアバドンとアバドンの足元の灰を見て兄の死を悟った。
「・・・ちょっといいかのう?ヒースティ王子?」
じいさんがヒースティ王子に話しかけると、ヒースティ王子はそこで初めてじいさんの存在に気付いたようでものすごく驚いていた。
「マ、マリルクロウ様!?」
よく見たらヒースティ王子と一緒に乗り込んできた騎士たちも色めきたっていた。
「企てがどうとか言っておったが、もしかしてヒースティ王子はユウジンの企てを知っておったのですかな?」
「え、あ、はい。・・・彼が23日前の朝に突然、別荘に現れまして企ての話を聞かされたのです。」
「23日前?・・・それって、アウルサでユウジンがいなくなった朝か?あ!そういえば、ユウジン王子に会いに行くって言ってたな!」
急にマスティフが色々思い出したようでそう言ってきた。
「そうです。皆さんの前から姿を消したその足で王子の元に行って、話したのです。・・・企てでグラエム王とオーランド王子が死ぬ可能性があると。」
俺はその時の様子を振り返った。
2話に渡ってまた本性全開ですいません。
グラエム王とオーランド王子のザマア展開のはずが、主人公がドS過ぎて憐れに見えてしまった・・・。
そしてこの後の展開のキーパーソンはヒースティ王子でした。
厳密には、ヒースティ王子と使役しているあの魔物がキーパーソンですがね。
次回で戦いは終わる予定です。




