119、悪魔は死者に託す
『・・・これは、どういうことだ?』
頭だけ骨となったドラゴンは周りを見回して、そう喋った。
ドラゴンと俺以外の皆は驚きに固まっている。
「ちょっとあなたに用事がありまして生き返らせました。ちょっと休憩しててください。」
俺は笑顔でそう言うと、ドラゴンはキョロキョロ周りを見回すなか、移動した。
皆はぽかんとしたまま、俺の行動を目で追っている。
『冥府の者よ、この者を一時的に甦らせ我が下僕とせよ、ネクロマンスィ』
『・・・んん?なんだ?』
真っ二つになったアバドンはくっついてフワリと浮き上がった。
俺はドラゴンに言ったことをそのまま言ってまた移動した。
『冥府の者よ、この者を一時的に甦らせ我が下僕とせよ、ネクロマンスィ』
『・・・ん?え?え?』
首と両腕を切られたカルディルはくっついてノソリと体を起こした。
カルディルにもドラゴンに言ったことをそのまま言った。
この光景を今だに皆は信じられないというように見ていた。
「さて、続いてはだいぶ頑張らないと。」
俺はクロ助を床に下ろすと肩を回して気合いを入れた。
そして床に両手を置いてイメージする。
俺はアウルサから首都への移動中に、罠魔法と多重魔法の最上級の条件を満たして取得していた。
これにより、最上級罠魔法は俺の認識しているところならどんなに遠くても張れるようになった。
本来は遠かったら消費魔力が多くなるのだが、超適性のおかげでどんなに遠くても俺は1しか消費しない。
そして最上級多重魔法は、今まで最高100個を同時に発動できたのだったが、最高1000個まで同時に発動できるようになった。
名前:ユウジン・アクライ(阿久来優人)
種族:人間(魔法使い)
年齢:24
レベル:59
HP:2070
MP:3540(×4)
攻撃力:466
防御力:563
智力:737
速力:613
精神力:317
運:216
超適性:罠魔法
戦闘スキル:上級短剣術・中級剣術・双剣術
魔法スキル:(取得)最上級罠魔法・最上級鑑定魔法・アイテム収納魔法・中級火魔法・中級水魔法・中級風魔法・上級土魔法・初級雷魔法・中級光魔法・拘束魔法・隠蔽魔法・探索魔法・死霊魔法・剣魔法・操剣魔法・(取得)最上級多重魔法
イメージが出来たら魔力を流す。
首都でじいさんに付き合って首都の外周を走らされたのがこんなところで役に立つ時が来るなんてな。
『我が意のところに罠を張れ、トラップ、リンク:ネクロマンスィ×1000』
『我が意のところに罠を張れ、トラップ、リンク:ネクロマンスィ×1000』
『我が意のところに罠を張れ、トラップ、リンク:ネクロマンスィ×1000』
俺は続けざまに3000個の死霊魔法付き罠魔法を首都の外周の西・北・東と城の中に張ってすぐさま発動させた。
「・・・ふうっ、これで大丈夫でしょう。罠魔法を首都の外周に張りました。罠魔法の範囲内の魔物・人間は死者として生き返って、魔物を襲うようにという指示を魔力に乗せて流しましたから、今頃生き返って魔物と戦っているところでしょう。」
実際、これは後から知ったことだが、俺の罠魔法は見事炸裂して、激戦を一変させたらしい。
それも当然だ。
今まで足元に転がっていた死体たちが急に起き上がり、魔物たちを殺し始めたのだ。
呆然とする騎士兵士たちを尻目に、死者は次々と魔物を倒していき、死者たちは腕をもがれ足を噛みちぎられてもそれでも攻撃していったという。
魔物たちも倒したはずの人間が行き返るばかりか、仲間の魔物でさえ襲ってくる状況に戸惑っていたようだが、それでも首都を攻めてきて激しく戦い、少しずつ数を減らしていったという。
ふむ、さすがに魔力が枯渇すると感じる、内側から来るしんどさが来た。
死霊魔法は消費魔力がそこまで多くないのだが、それでも数が数だから一気にMPを9割ちょっと持っていかれた。
節約のために詠唱したんだが、それでも結構持っていかれたな。
「うーん、さすがにしんどいですね。」
俺はアイテムからMPポーションを出して飲んだ。
・・・まあ、ちょっとは回復したかな。
しんどさもちょっとましになった気がする。
・・・うん?なんかさっきから静かだな?
そう思って皆を見ると、またぽかんとしたまま、見てきていた。
足元にいるクロ助さえもぽかんと見上げてきている。
「う、嘘でしょ?・・・死霊魔法を3000回してる時点であり得ないし、ピンピンしてる時点でおかしい・・・。」
なるほど、アシュアの呟きで判明した。
まあ、確かに死霊魔法を何千回とやる奴なんていないだろう。
普通の魔法使いなら十数回が限界かなってくらい魔力使うけど、俺は罠魔法とリンクさせたから通常の半分ですんだし。
・・・それでも多いか。
珍しく、じいさんやドラゴンにアバドンまでもがぽかんとしている。
その時、謁見の間に誰かが入ってきた。
「キャ、キャアアアァッ!?」
「うわあぁっ!?」
入ってきた誰かを見て、アシュアとマスティフは叫び声をあげた。
入ってきたのは、体が半透明の男だった。
男だけではない。男の後ろからゾロゾロと半透明の人たちが入ってきて、老若男女様々な姿で、貴族のようなきらびやかな服を着ていたりドレスを着ている人もいる。
メイドや執事のような格好の者たちもゾロゾロとやって来て、全部で30人ほどが入ってきて、謁見の間の隅にたむろして虚ろな目で俺を見てきていた。
その半透明の人たちの中に、グラエム王とオーランド王子は見覚えのある顔を見つけてそれぞれ驚いている。
「父上に母上・・・兄上も弟も親戚たちも・・・な、なぜだ!?余が・・・殺したはずだぞ!?」
「メイドに執事・・・なんでお前たちが!?お前たちは・・・俺が死ねといって死んでいった奴等じゃないか。」
「罠魔法の死霊魔法を一部、城の中に張ってみたんですよ。アンデッドだけでなく、ゴースト・・・亡霊も使役できるかなって思いましてね。さすがに体がないから生き返らせることはできませんでしたが。」
俺はニコニコ笑いながらそう説明して、亡霊たちに笑いながら近づいた。
「皆さん、ご苦労様です。集まっていただいたのはご相談がありましてね。・・・皆さんは、憎い相手がいますか?」
『憎い・・・憎い・・・。余は・・・息子に・・・脅されて・・・無理矢理、毒を飲まされた・・・。』
王様のような王冠を被った、マント姿の中年男性はそう言った。
しゃべる度に口から毒と血が混じったものがごぼごぼと垂れている。
『苦しい・・・。私は・・・弟に、テラスから突き落とされて・・・殺された・・・痛い・・・痛い・・・。』
豪華な服を着た若い男性は潰れた頭をおさえてそう言った。
『痛い・・・憎い・・・。私は・・・長年、王子に仕えていたのに・・・死ねと言われて・・・魔法で・・・操られて・・・自分で首を刺しました・・・。』
メイド服を着た若い女性は首に果物ナイフが刺さったままそう言った。
その他の者たちもボソボソと憎いとか苦しいとか言っていた。
「憎いですよね?その相手が罪悪を感じず、今ものうのうと生きているのが。あなた方のことなど想うこともなく鎮魂も願っていないのが。」
『『『憎い・・・憎い・・・。』』』
亡霊たちは次々とそう答えた。
うんうん、素晴らしいくらいに憎しみが渦巻いているね。
俺はドラゴン・アバドン・カルディルに顔を向けた。
「すいません、お待たせしました。皆さんに、指示・・・ではなく、託したいことがあるんです。」
死者全員だけじゃなく、グラエム王たちやじいさんたちも俺がなにを言い出すかと注目している。
「今から憎い相手に自由に攻撃していいですよ。憎い相手に掴みかかるもよし、取り憑くもよし。ドラゴン・アバドン・カルディルは体がありますから殺したりもできますね?魔法もできるならバンバン撃っちゃってもいいです。」
「ひっ!?な、なんだと!?」
グラエム王の悲鳴が響いた。
「・・・あ、もちろんこれは強制ではありません。あくまでも皆さんの判断で決めて構いません。攻撃したくないならしなくていいです。どちらでも後で必ずあの世に導きます。俺はどっかの誰かさんらとは違って、使役相手を無理矢理言うことを聞かすようなことしませんから。」
ふふふっと笑ってグラエム王らに顔を向けた。
3人は顔面蒼白でガタガタ震えている。
「どうなるか、楽しみですねえ?グラエム王、ユースギル王子、オーランド王子。」
俺の笑顔は狂気に変わっていた。
次回は主人公の本性全開回だよー。
本当にすいません。ペコペコ・・・




