閑話 オーランドの過去
オーランド視点で彼の過去についての話です。
いつもの倍ぐらい長いです。
胸クソ悪い発言などが出てきます、御注意を。
俺、オーランド・ガレス・ヴェネリーグは25年前にグラエム王の第二妃ジュリアンの第一子としてこの国に産まれた。
すでに第一妃との間に2人の息子がいたため、王も国民もそれなりに喜んだらしいのだが、1番喜んだのは子供がずっとほしかった母ジュリアンだったそうだ。
母上は愛情深く俺をを育ててくれて、父上も公務の合間をぬって来てくれることがあり俺は2人の愛情をもらってすくすく成長していった。
俺は物心ついたときから、こうしてほしいと思うだけで周りのメイドや騎士たちがやってくれていた。
水を飲ましてほしい、高いところにある本をとってほしい、あのおもちゃを持ってきてほしい・・・
俺にとってはそれが当たり前のことだった。
そして5歳の誕生日に王城でパーティーが開かれ、その中で、王家だけに受け継がれる使役魔法が、なんの使役なのかを鑑定魔法をかける催しがあった。
そこで俺は初めて、自分が使役魔法(人間)を持っていることを知った。
だから皆、俺が言わなくても思っただけでやってくれるのかと思った。
そしてこの事は父上にも報告された。
父上の執事から聞いたのだが、父上は聞いた途端に嬉しそうにしていたという。
後から知ったことだが、実は父上は悪魔教の上層部から「使役魔法(人間)を作れ」と言われていたらしい。
父上はまだこの時は悪魔教信者であったので、その命令を守って子供を作っていたのだという。
父上は俺が使役魔法(人間)を持つと公表すればよからぬことを考える連中が俺に近づいてくる可能性や、俺の周りのメイドや騎士たちが気味悪く思う可能性を考えて父上と俺と執事だけの秘密にするとして、世間には使役魔法は使えないと公表した。
この時、何でもいいからなにか適当な使役魔法をつけてもらっておけば・・・あんなことにはならなかったと思う・・・。
俺が使役魔法を使えないと公表されて、母上は少し残念がっていたがそんなこともあるだろうと変わらず愛情を注いでくれた。
だが、しばらくしてどこからかよからぬ噂が流れてくるようになった。
「オーランド王子はグラエム王との間にできたお子ではないから、使役魔法が使えないのではないか。」というものだ。
母上は女系家族で生まれ、学校も淑女ばかりが通う有名学校で生娘のまま、父上に見初められて第ニ妃になったのだ。
そして母上の住む屋敷にはほとんど男性はいない。いたとしても少年か壮年だ。
母上自身がなにより父上を一途に思っているのであり得ない。
だが、段々とその噂は広がっていって、城のあちこちで噂されるほどになった。
母上はこれに心を痛めていたが、控えめな性格なので反対の声をほとんどあげられずに、ついには屋敷に籠るようになってしまった。
俺は母上の屋敷に頻繁に通い励ましていたし、父上も励ましていたようだが、母上は暗いことばかり言っていた。
そして俺が10歳になる頃、母上が体調を崩して寝込むようになった。
それぐらいから、父上は母上のもとに通わなくなった。
ちょうど公務も忙しくなってきたこともあって、それを理由に屋敷に近づかなくなったようだ。
だが、母上の好きな果物は数日に1度は送っているようだった。
「母上、今日は父上からマンゴーが届いたらしいですね。食べました?」
「ええ・・・、食欲はなくても果物だったら食べられるから・・・。」
「もうちょっと体力がついたら、庭を散歩しませんか?赤いバラがとてもきれいに咲いているそうですよ。」
「そう・・・。オーランド、そうやって気を使わせてごめんなさい。こんなだめな母親で・・・。」
「そんなことを言わないで下さい。母上は素晴らしい人です。優しくて穏やかで俺にいろんなことを教えてくれているではありませんか。」
「ありがとう、オーランド。あなたの母上で、私は幸せよ。あなたは第三王子として、王を支えられるほどの人間になりなさいね。」
「何ですか、その言葉。まるで遺言のようじゃないですか。」
「そう受け取ってもらっていいわよ。・・・私はどうせ、このまま死んでいく人間になんだもの。」
「母上!なんでそんなに・・・。」
「でも、死ぬ前に・・・王に一目お会いしたかったわ・・・。」
少しずつ痩せ細っていく自分の最後が想像できてしまったのか、母上はさらに暗いことばかり言うようになった。
俺は元気になってほしくて、子供なりに考えて書庫で調べたりもして母上に効きそうな薬を他国から取り寄せたりした。
また、そういった万病に効く食材が国内にあるという噂あれば自分で出向くほど、俺はどうにか母上に元気にってほしくて奔走した。
しかし全ては効果がなく、噂もガセばかりで母上は痩せ衰えていった。
「父上!母上のところに行ってあげてください!」
俺は父上の執務室にも足しげく通い、母上のところに行くように言っていた。
「オーランド・・・、これを見ろ。こんなに公務があるのに、行けるわけがないだろう?」
父上は執務室のデスクの上に積み上げられた書類を顎で指しながら別の書類にサインをしていた。
「ですが・・・母上は父上に会いたいと言っています。体調が悪くて起き上がるのもやっとだとなっています。」
「無理なものは無理だ。」
父上は全く取り合ってもらえなかった。
そして体調を崩して2年後の俺が12歳になった頃。
ガリガリに痩せ細った母上は静かに息を引き取った。
それでも父上は駆けつけることはなかった。
「うぅっ・・・母上っ!母上っ!!」
俺は母上の冷たくなった手をとって泣いた。
もう、俺の好きな柔らかに笑う母上はいないんだ。
もう見ることも会うこともできないんだ。
なんで母上はこんな目にあうんだ!
母上はただ、静かに穏やかに暮らしていただけなのに。
母上の屋敷で働いていたメイドや執事たちも泣いていた。
だがなぜか、彼らも体調がよくないようで、顔色を悪くしていた。
「実は・・・王様からの贈り物の果物なんですが、ジュリアン様は少し前から果物すらも食べられないほどになってしまって、捨てるのももったいなかったので屋敷のもので食べていたのです。それぐらいからですか、なんだか皆、体調が優れないようで・・・。」
執事は顔を真っ青にしながらそう言った。
俺の脳裏に、父上にまつわるある話が浮かんだ。
父上は王になる前、王位継承権が高くなかったのにも関わらずなぜか王位継承権を持つ者たちが次々と事故や毒殺で命を落とした、と。
さらに王位継承権の関係ない親戚なども謎の事故や毒殺でいなくなって、今では王族は父上とその子供の俺たち3人しかいなくなったというものだ。
ま、まさか・・・!?
俺は弾かれたように屋敷を飛び出して、城に向かった。
息を切らして城の階段を駆け上がり、騎士やメイドの驚いた顔を無視して執務室へ向かった。
そして執務室のドアをノックしようとしたとき、中から父上と父上の執事の声が聞こえてきた。
「・・・そうか、ジュリアンは死んだか。」
「はい、今しがた使いの者が知らせてきました。」
使いの者?母上の屋敷にいた母上の執事はそんな使いを出しているようではなかったぞ?
ガタッと椅子から立ち上がる音がした。
「・・・そうか・・・。やっと死んでくれたか。」
・・・・・・は?
俺はその場に固まって、動けなくなった。
頭から冷水を浴びせられたような衝撃に体中が冷めるような感覚がした。
「明日には公表しなければなりませんが、病死でよろしいですね?」
「ああ、それでいい。」
「葬式と告別式はいかがいたしましょう?」
「お前に任せる。どうでもよい。」
「かしこまりました。」
父上は何でもない声が響いた。
それからは執事が淡々と相槌をうつなか、父上は饒舌に喋りだした。
「それにしても長く生きていたな。元々はオーランドの使役魔法を公表しなかった余の責任もあって、宥めに行ってやっていたが、いつまでたってもグチグチネガティブな事ばかり喋りおって。あんなにいつもいつも暗いことばかり言われれば、こっちが頭がおかしくなりそうだったから、行かなくなって正解だったか。」
「そうでございますね。」
「まあ、使役魔法(人間)がほしかったがその頃第一妃が体調を崩しておって子作りどころではなかったからな。そんなとき知り合った女で見目のよかったジュリアンに手を出したらすぐ妊娠したから第ニ妃に迎えてやったのだ。産んでくれたのはありがたいが、使役魔法(人間)が産まれたのならもう用はない。ジュリアンも王妃として死ねたんだ、今頃喜んでいるのではないか?」
ふはは!とグラエム王は笑った。
「少しずつ毒を仕込むのは王になる前からやっていたから造作もないだろう?おかげで体調が悪くなっても誰にも毒だと気付かれなかったな。」
「果物に毒を仕込んでいた業者も慣れたと言っておりました。」
「ははっ、頼もしい。また誰か気に入らない者がいたら頼むと言っておけ。」
「かしこまりました。」
俺は気付けば、ポロポロと泣いていた。
母上は確かに父上を愛していて、体が弱っていても会いたいと言っていた。
なのに父上は元から、母上を愛していなかった。
そればかりか死を願って贈り物に毒物を仕込んでいたなんて!
使役魔法(人間)を・・・俺を産ませるためだけに、母上は騙されていたというのか!
父上が憎い!殺してやりたい!
これでは父上を信じた母上があまりにも不憫だ。
くそっ!・・・なんで俺は気付かなかったんだ!!
怒り、憎しみ、軽蔑、後悔、哀れ、悲しみ・・・。
いろんな感情が俺の中で暴れまわって、気が付いたら執務室から離れて城の自室に戻っていた。
「オーランド王子!?どうされました!?」
俺が泣いて泣いてボロボロになっているのを見てメイドが悲鳴をあげた。
「なにがあったのですか王子!?」
「・・・。」
俺の幼少期から身の回りの世話をしてくれたメイドだが、いくらメイドでも言える内容ではない。
俺はうつむいて押し黙った。
「王子、おっしゃって下さい。」
「・・・なんでもない。」
「なんでもないならなぜ泣いているのですか?」
「・・・うるさい。」
「うるさくてもかまいません。王子が心配なのです。」
「本当にうるさいな!なんでもない!死ね!」
「かしこまりました。」
俺が思わず叫んだ言葉に、メイドは笑顔で答えて、本当になんでもないような顔をしてフルーツの盛り合わせの側に置いていたナイフを自らの首に刺した。
ブシュッと血が吹き出てメイドはバタリと倒れて、そのままなんでもない顔のまま、死んだ。
「・・・・・・う、うそだろ?」
俺はその光景に目を見張っていた。
使役魔法が発動したのがすぐわかった。
・・・だが、メイドが死んで悲しい気持ちは正直なかった。
だって・・・メイドなんていなくても別にいいし。
それからは俺の部屋でメイドが死んでいると騒動になったが、俺が急に自殺したと言ったらすぐに信じてくれた。
これももしかしたら使役魔法が発動したからかもしれない。
それから俺は、執事やメイドに次々と死ねと言って自殺させた。
俺の言う通りになっていくことがハッキリと見えるから、見ていて心が晴れやかになっていくようだった。
メイド5人に窓から飛び降りて死ねと言ったときは、5人とも次々と笑顔で飛び降りて、窓の下で折り重なって死んでいたのは見ていてスッキリしたものだ。
だが、そんなことをしていて父上にバレない訳がない。
周りは、俺は使役魔法が使えないと思っているから自殺したと思っているが、父上と父上の執事だけが俺が使役魔法(人間)を使えることを知っているために早々に勘づいたようだった。
だが、父上はメイドや執事を死なせているのを咎めることはなく、喜んである宗教の話をしてきた。
それが悪魔教と俺との出会いだった。
正直、悪魔教にはその時興味はなかったが、父上が信じている悪魔教を利用して父上を苦しませて殺してやろうと思いつき、悪魔教の信者になることとなった。
「そうかそうか。余は幹部の"セカンド"に仕えているのだが、お前がその後継として"セカンド"に仕えてくれ。そうすれば、機を見てお前に王位をやろう。」
父上は俺の思惑なんて気付く訳もなく、そう言った。
俺は悪魔教の信者に王位という、父上の大事なものを手に入れることが出来ると喜んだ。
それが母上が死んで3年後の、一般的に成人と見なされる15才の時だった。
それから俺は表では王位継承者第三位として目立つことは避け、密かに王位を継ぐための教育を受け、そして悪魔教信者としてに"セカンド"に仕えた。
"セカンド"は数年後にトリズデン王国の公爵とわかった。
主に金銭面のことしか言ってこなかったが、なんとか俺が自由にできる範囲内で出していたらとても気に入られたようで、その"セカンド"が病死したときは後継に名前があがって、"セカンド"となることになった。
俺はこの頃から悪魔教に入ったよかったと思うようになった。
だって、人を殺しまくってもそれが善行と見なされるなんて、最高じゃないか?
俺はまだ、気紛れに執事やメイドを死なせていた。
"セカンド"になってますます悪魔教からの金銭面での要求は頻度も額も多くなったが、父上の了承を得て税金を使ったりしてなんとか工面した。
幹部は"ファースト"と"サード"がいるらしいが、いつも通信の魔石でしか会話しないし、会ったこともないから誰かはわからない。
使役魔法は通信の魔石を通さないようでそれとなく使ってみたが、効果はなかった。
だが、ヴェネリーグ王国の者ではないのはなんとなくわかった。
そして最高指導者様は"ファースト"しか会ったことがなく、普段は通信の魔石で"ファースト"とのみ連絡を取り合っているらしいことがわかったが、正体はわからなかった。
そして俺が"セカンド"になって数年後の22才のとき、最高指導者様より悪魔様からの御告げが来たと"ファースト"から連絡が来た。
「人間の国を混沌とさせ、魂を献上せよ。」と言っていたそうで、それを聞いた瞬間、俺はこれだ!と思った。
これを利用して、俺は父上に復讐して殺そうと思い付いたのだ。
そしてそれを"ファースト"と"サード"に話すと父親殺しは最高の善行とだと言って、とても喜んで協力してくれることとなった。
そうして「計画」は出来て、父上の都合のいい偽の「計画」を別に作って父上にそれを話した。
父上はとても喜んで、協力してくれることとなった。
俺は心の中で歓喜した。
これで父上を殺すことが出来ると。
俺が死ねと言えば、父上はなんでもない顔で死ぬだろうが、それではダメだ。
徹底的に悪王にして、汚名を着せたまま俺の手で殺したかった。
そうでなくては母上の復讐にならないと思ったからだ。
それがもうちょっとで叶う。
殺さないでくれ!と叫ぶ父上を見たかった。
助けてくれ、と懇願する父上を見たかった。
なんて・・・楽しみなんだ。
そうして、予定外のことはたくさんあったが、俺は父上を追い詰めて、剣を持ち上げた。
目の前には、恐怖して腰を抜かして顔面蒼白で「悪魔様!悪魔様!」と気が狂ったように叫ぶ父上の姿があった。
早く殺したい殺したい殺したい!!
俺はニタリと笑って剣を振り下ろした。
ジャラジャラジャラ・・・
突然そんな音がして、剣に鎖が巻き付いた。
全く振り下ろせない。
な、なんだこれは!?
俺が驚くなか、父上の側に誰かが急に現れた。
王も王子もただただサイコパスでしたね。
でもここしか書くタイミングなかったもので・・・。
そんな彼らは次回で天罰?が下ります。
ザマア展開になります。




