117、悪魔は行方不明ー憎しみの計画
マスティフ視点です。
「ある日、悪魔様が余に話しかけてきたのだ。それからずっと傍らにいてくださって、余にありがたい助言をしてくださるのだよ。」
グラエム王は恍惚とした表情で、上を向いて喋っている。
「な、なにを言っているんです?・・・悪魔様は、最高指導者様が召喚することで初めてお姿やお言葉を聞けるはず。だ、大丈夫ですか?父上」
「さっきも助言をしていただいて、魔物の大群をこちらに向かわたんだぞ。」
さっきも助言を?
だが、グラエム王の周りに人はいない。
「父上・・・本当に、大丈夫ですか?」
オーランド王子もさすがにちょっと引いてグラエム王を心配していた。
「本当だ!本当に余は悪魔様の声が聞こえるのだ!悪魔様!姿をお見せください!こいつら・・・あなた様の宿敵であるマリルクロウをさっさと殺してください!」
「気が狂うたか?グラエム王ともあろう者が、残念じゃのう・・・?」
じいさんは相変わらずニコニコしながらそう呟いた。
その呟きはオーランド王子の耳に届いたようで、またキッとじいさんを睨んだ。
「チッ!そもそもお前が生きているのが悪いんだ!今すぐ死ね!!」
オーランド王子はそう指示した。
だが、じいさんはニコニコして、死ぬ様子はない。
それはそうだ。使役魔法は解けているからな。
「・・・?どうした?なぜ、死なない!?」
ここでようやく、オーランド王子はじいさんに効いていないことを気づき出した。
「そんな・・・まさか!?死ね!死ね!死ねー!」
何回もじいさんに指示するが、じいさんはニコニコしている。
「無駄じゃよ、オーランド王子。わしは解けておるからのう。」
「は!?な、なぜ!?」
「まあ、色々あって万能薬を飲んだおかげで解けたわい。それからはずっと、かかったフリしておぬしの側におったのだ。おぬしの会話から「計画」とやらにも検討はついていたぞ。」
オーランド王子はものすごく驚いて、続けてサアッと顔を青くした。
悪魔教の幹部であることを自分から言ったのを思い出したのだ。
「因みにわしの孫も仲間も万能薬を飲んで解けておるから、人質とかは効かんぞ?」
おっとじいさんは先手を封じたな。
オーランド王子はものすごく狼狽えている。
急に追い詰められて、どうしていいかわからないようだ。
「・・・・・・くそっ!こうなったら・・・!カルディル!目覚めろ!!」
オーランド王子がそう叫ぶと、突然カルディルが呻いて頭を抱えてしゃがみこんだ。
「え!?カ、カルディル!?」
近くにいたアシュアが近づこうとして、異変に気付いた。
メキメキメキ・・・と音をたてて、カルディルの体が破れた。
そして中から肉の塊が溢れ出てきて、3メートルの高さになるとそれは蠢いて魔物のような姿になった。
赤い肌に赤い大きな角があり、屈強な体に大きくて長い腕に鉤爪のように爪は鋭い、それは鬼とも言われるオーガによく似た姿をしていた。
「グオオオオォッッ!」
オーガとなったカルディルはそんな雄叫びをじいさんにあげた。
この魔物のような姿に、俺は見覚えがあった。
アウルサの実験場に、これに似たのでもうちょっと小さかったのがいたぞ!
「ま、まさか・・・成功体!?」
カルディルは、成功体だったのか!?
俺がそう声をあげたので、アシュアとレフィは驚いてカルディルを見ていた。
「ふむ、これは予想外。カルディルがまさか成功体だとはのう・・・?」
じいさんは観察するようにカルディルを見ていた。
「ふはは!驚いただろう?マリルクロウ。実験をしていってたくさんの成功体を作った中に、人間の方を色濃く持った奴がいてな。そいつらには父上の使役は効かなかったが、俺の使役は効いたから本人の記憶を使役で操作して消して俺の人形にしてやったのさ。カルディルの他にヘンリスもいたが、どうやらアバドンに殺られたようだな。」
え!?と思ってユースギル王子が持ってきて転ばせた、あのリザードマンのような魔物の首を見た。
言われてみればヘンリスと同じ髪の色の毛が頭に生えている。
リザードマンは頭に毛がない。
あの首は・・・ヘンリスということか!?
だからあの首を見たオーランド王子は驚いていたのか!
「さあ!カルディル!マリルクロウを殺せ!さすがのマリルクロウもドラゴンと戦った後でオーガと戦うのはキツいだろう!ククク!」
オーランド王子が勢いよく命じると、カルディルはズシッズシッとじいさんに近づいて長い腕を振り上げた。
ガキィィィッ
振り下ろした腕を、じいさんはいつの間にか抜いた『黒焔』で防いでいた。
「・・・すまんのう、カルディル。」
ズバンッッ
じいさんは刀を振り上げて、あっという間に長い腕を肩から切り落とした。
「グオオッ!?」
血がビシャアッとものすごい勢いで吹き出て、思わずカルディルは血を止めようと傷口を手で覆った。
するとじいさんはまた刀を振り上げた。
ズバンッッ
もう片方の腕も肩から切り落として、またビシャアッと血が吹き出た。
「グオオオオオッッ!」
痛みに苦しんで床を転げ回るカルディルの首をはねた。
「・・・終わったぞ。成功体と言ったが、弱いと思うがのう?」
じいさんは相変わらずニコニコ笑顔でそう言った。
あんたが強すぎなんだよ!!
あまりに呆気なくてオーランド王子はぽかんとしている。
「ば、馬鹿な!?・・・レベル70相当のオーガなのに!?くそっ!化け物め!」
レベル70は相手にならないよ、王子。
「さて、そろそろグラエム王に魔物の大群をどうにかしてもらわんとのう?騎士兵士たちが守っておるじゃろうが、心配じゃ。」
え?なんのこと?
アシュアにそれとなく聞いてみた。
・・・え!?俺とレフィがアバドンと戦っている間にそんなことが!?
そりゃ大変じゃん!?
「チッ、だったら・・・あんたを殺してやる!父上!」
「な、なんだ!?オーランド、気が狂ったか!?」
オーランド王子は腰にさしていた剣を抜いた。
「あんたが死んだら魔物の大群を引かす手立ては無くなる。・・・だいたい、この後の予定であんたは退位して生かすとあんたには言ってたが、元々殺すつもりだったし、それが早まっただけだから構わないだろう?」
にじり寄っていくオーランド王子に、グラエム王は慌てて後ずさる。
「な、なぜだ!?なぜ余は殺されることになっていたのだ!?」
「俺が望んでいたからだ!!」
「・・・なに?」
「あんたは俺の母親である第ニ王妃を「人間を使役できる子を産むためだけの相手」だとしてまったく愛さなかっただけじゃなく、俺が産まれたら用済みとして毒を飲ませて病気に見せかけて殺しただろうが!?」
「!!??」
グラエム王はものすごく驚いていた。
「俺は絶望して、あんたを心の底から憎んだ。だからこの国をめちゃくちゃにしてその元凶としての汚名を付けて殺してやろうと、ずっと機会を狙ってたんだ。そこへ御告げがあって、真っ先に俺はヴェネリーグ王国でやらせてくれと言って幹部と話し合って、「計画」ができたんだ。すでに幹部もあんたが死ぬことは了承している。」
「な、なんだと・・・!?あ、あ、悪魔様!嘘ですよね!?余は、死にませんよね!?」
グラエム王はこんな状況なのに、天井向いて悪魔様とかいうのに話しかけている。
というか、もうこの状況が訳がわからない。
えーと、そもそも悪魔教の最高指導者が「人間の国に混沌をもたらし魂を献上せよ」と御告げがあって、それを聞いたオーランド王子がヴェネリーグ王国でやりたいと言って、わざと反旗を翻して国内を王と王子で内紛を巻き起こすのが「計画」という奴か。
そして会話から、台本があって今までその通りにオーランド王子は正義の味方として振る舞って、グラエム王は悪王として振る舞っていたという訳か。
その「計画」の一端が魔物と人を掛け合わせる実験で、でも実験はドラゴンを王が使役できたから、そのドラゴンに国内をめちゃくちゃにしてもらうってことで実験は無くなったと。
カルディルとヘンリスは実験の成功体だったが人間が色濃く残ったから、オーランド王子が使役して実験の記憶を消して自分に付いてきた王子派の側近にしたという訳か。
でも結果アバドンとじいさんに倒された。
そして本当なら「計画」は後3年分あったが、グラエム王がそれを早めたり「計画」になかったことをここに来てやったと。
グラエム王曰く、「計画」外のことや早めたのは「悪魔様に助言してもらった」ということ。
そして「計画」を利用して、オーランド王子はグラエム王に悪王の汚名を着せたまま殺すのが真の狙いだったと。
なかなかこんがらがった内紛の真相だな!
俺がまとめている間にも、オーランド王子はグラエム王に近づいていって、グラエム王は「悪魔様!悪魔様!」と尻餅をつきながら必死にどこかに懇願している。
それをじいさんは冷静に様子を見ていて、ユースギル王子にアシュアとレフィとティーガは展開に戸惑っている。
じいさんはなぜ止めないんだ?
オーランド王子はグラエム王の目の前に近づいて、剣を振り上げた。
「さあ、父上。死んで母上に詫びるがいい!!」
「ぎゃあああぁぁっ!悪魔様!悪魔様ー!!」
そして剣は勢いよく振り下ろされた。
ジャラジャラジャラ・・・!
その時、突如として剣に鎖が絡み付き、振り下ろす手が止まった。
鎖はなにもない天井から出現していた。
確実に、さっきまで鎖なんてそこにはなかったのに、だ。
も、もしかして、あの鎖は・・・!?
呆れ返った声が謁見の間に響いた。
「悪魔様、悪魔様とうるさいんで、静かにしてもらえます?」
マスティフがつまりでまとめたのは、自分の頭の整理のためでもあります。
次回は主人公登場話のつもりですが、その前に閑話としてオーランドの過去話をのせるかもしれません。




