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115、悪魔は行方不明ーアバドン・マスティフレフィ戦

三人称視点です。

マスティフは深呼吸をした。

レフィはいつもの無表情で、ナイフを構えたまま、アバドンの様子を見ている。


『この俺の相手が人間2人だけ?はっ、なかなか舐められたものだな。』

アバドンは獅子の顔を歪めてそう言った。

「ごちゃごちゃうるさいぞ!クソ虫!さっさと殺せ!」

アバドンの後ろでユースギル王子がイライラしながらそう叫ぶ。

しかしアバドンはあまり気にする様子もなく、無視してマスティフとレフィを見ながら手を組んでパキパキと鱗を鳴らした。

両腕は大きな鱗や鉤爪が生えていて、見るからに固そうだ。



『行くぞ、人間。お前たちは俺を楽しませてくれよ。』

そう言った瞬間、アバドンの姿は消えた。


その素早い動きに一瞬、マスティフは止まってしまった。

だが、マスティフは見えないから止まった訳ではない。

なぜなら同じくらいレフィが素早いので、見えるのだ。


アバドンは素早い動きでレフィに近づいて鉤爪をレフィの頭に向かって振るった。

が、レフィはそれをすり抜けるように避けると、アバドンの脇にナイフを突き立てる。

アバドンはすぐさま体の煙を吹かしてレフィが一瞬止まったところをすかさず熊の足で蹴る。

その蹴りを後退することで避けたところを、今度はアバドンの視角からマスティフが大剣で切りつけた。

だが、大剣をがっちり鱗の腕で掴んで止めた。


『・・・はっ、なかなかやるな。』

「お褒めに預かりどーも。」

『それにこれは・・・なかなかいいマジックアイテムを使っているな。』

アバドンは戦闘中なのに掴んだ大剣をマジマジと見てきた。

「借り物なんでね。愛用させてもらってんだよっ!」

マスティフは掴んでいた腕から大剣を引き抜くと、大剣に魔力を込めた。


「『斬月(ザンゲツ)』!」


急いで魔力を込めたため少し威力は落ちたが、振るった三日月の衝撃波はアバドンの腹に当たった。

が、腹の鱗で弾かれたようで無傷だ。

「チッ!」

マスティフが舌打ちをすると、アバドンはニヤリと笑った。

その後ろから、レフィがナイフを持って飛びかかっていた。

アバドンはすぐさま気付き、レフィに振り向き様に腕を振った。

レフィはその腕を咄嗟に蹴って1回転して着地した。



その時。



ガシャアアアアンンッ!!


マリルクロウの戦っている方でとんでもない音がして、思わずマスティフ・レフィが音の方向を見ると、ドラゴンが謁見の間の壁をぶち抜いて吹っ飛んでっているのが見えた。


「「・・・!?」」

『・・・!?』

その光景にマスティフ・レフィがぽかんとすると、アバドンも吹っ飛んでいくドラゴンを見たようで同じようにぽかんとしていた。


『なんだあの人間は!?ドラゴンを吹っ飛ばすだと!?』

「・・・ま、まあ、気にすんな。俺のじいさんだが、ちょっと化け物なだけだから。」

『お前の身内か。・・・なんとも恐ろしい。』

アバドンはちょっと引いていた。

マスティフは引かれてもしょうがないとため息をついた。


「ホント恐ろしいぜっとぉっ!!」

マスティフは素早くアバドンに連擊を繰り出すが、アバドンはいなしたり避けたりしつつ、こちらに攻撃してきた。

レフィもぜつみょうなタイミングで攻撃しているが、鱗が固くて当たってもほとんど効いていないようだった。


マスティフは大剣に魔力を注ぎながら、隙を伺っていた。

レフィに目配せで協力してもらうも、やはり高ランクなだけに戦い慣れているようで隙がない。

こうなったら、とマスティフは行動に出た。


「おらぁっ!」

レフィが後退した瞬間にアバドンを切りつけ、近づいたタイミングで片手をアバドンに向けた。


ボォッ


アバドンの顔が突然燃えた。

マスティフが無詠唱でファイアを放ったのだ。

キュベレでの防衛戦で騎士の兄妹の兄と戦った時にやったユウジンの無詠唱の真似を、またここでもやったのだ。


それを知らないアバドンは突如顔を焼かれて驚いて止まった。


「いまだっ!『翔突(ショウトツ)』!!」


ドオオオッ!


『ぐぅっ!?』

アバドンの体めがけて突きの衝撃波が至近距離で放たれ、アバドンは吹っ飛ばされることも腹に穴が開くこともなかったが、胴体の鱗がボロボロと剥がれ落ちた。

よく見ると血も滲んでいる。

マスティフはその姿を見て、効果が出たとニヤリと笑った。



「な、何をしているクソ虫!さっさと殺せと言っただろうが!!」

アバドンがやられている姿を見たユースデルは怒り狂ってそう叫んだ。

アバドンは自らの腹を見て、クククと笑った。

『ふっ、こんなにやるとはな。・・・うるさいのが叫んでいるから、これで終わりにしてやろう。』

アバドンの体がふわりと浮かび、威圧が濃くなった。


『『霧蝗(キリイナゴ)』!』


アバドンはそう叫び、体を大量のイナゴの姿に変えてマスティフとレフィに群がった。

無数のイナゴが体中を引っ掻き噛みつき、肉を喰われる。

「ぐああっ!この、いてえ!」

「・・・ああっ!っ!」

2人とも武器を振り回してイナゴを振り払おうとするが、剥がした側から別のイナゴが喰いついてくる。

目も喰いつかれそうになるのでまともに開けていられない。


『クククッ、このイナゴ全てが俺の一部だからただのイナゴではない。お前らの肉だけじゃなく、魔力も喰える。喰い尽くして俺の糧になるがいい!』

どこからか、アバドンの声が聞こえてくるのを2人は襲われながらも聞いた。

確かに、体を喰われて痛みはあるが、それと同時に魔力がない状態の、内側から来る独特のしんどさを2人は感じていた。

本当に、イナゴたちは魔力も喰っているようだった。


(どうすりゃいいんだ!?くそっ!痛い!くそっ!)

マスティフがやけくそで大剣を振り回すなか、レフィの声が聞こえてきた。


「・・・マ、マスティフ!感覚で、・・・アバドンの本体を!っ!」

レフィは全身血まみれになりながらもナイフで振り払ってマスティフにそう声をかけてきた。


その言葉にマスティフはハッとした。

脳裏にはユウジンが普段からやっているという探索魔法のことがよぎった。


(そうだ!確かユウジンは、夜だけじゃなく昼間も町中もやっていると言っていた。それに、感覚で探し人もわかると・・・!)


マスティフはランクB冒険者であるので、もちろん感覚と魔力を繋げることは夜営の時にやっていた。

それをイナゴの攻撃を我慢しながらやった。

魔力が地を這い、広がる。

だがそれではいけないと、マスティフは思う。

空中も広げないと空中で浮いているであろうアバドンの位置がわからないといけない。


(多分、できる。俺はユウジンが使っているところは、何回も見ている。)

マスティフは一層、感覚を研ぎ澄ませた。


すると段々、イナゴがどういうふうに周りだけに群がっているのがわかってきた。

レフィのいるところ、オーランド王子やアシュア、カルディル、ユースギル王子がいるところがマスティフの頭に浮かんでた。


そして、アバドンの本体と思われる位置も。



「よっしゃあっ!」

マスティフは再び大剣を振るってイナゴを払いながら、本体と思われるところに歩み寄った。

体中噛まれて血だらけで、走る力もない。

魔力も喰われたので大剣に込める魔力もない。

握った手も、噛まれすぎて血だらけだが痛いのを我慢して本体に近づいて、目の前で立ち止まって、大剣を振り上げた。


(頼む。『力の大剣』というなら・・・力を貸してくれ!)

そして叫んでいた。


「おらあああっ!『力の大剣』!力を寄越せぇっ!!」


ヴンッ


『力の大剣』を振り下ろす直前、淡く光った。


ズバンッッ!!


光が覆った大剣はなんの抵抗も感じることなく、次々とイナゴを切って床に刺さった。

イナゴの大群は大きく裂けて、次の瞬間、イナゴたちは霧散した。

切ったところには、頭から足まで真っ二つに切られたアバドンの姿があった。


『おのれ・・・人間ごときに・・・!』


アバドンはそう言って、二つに別れて倒れた。



「・・・そ、そんなっ!?バ、バカなっっ!?」

ユースギル王子は信じられないという顔でアバドンの亡骸を見ていた。


マスティフは床に刺さった大剣を抜いて、大きく息を吐いた。

体中血まみれで動くのもキツかった。




そして。



またなにかの轟音が轟き、マスティフがそちらに顔を向けると、マリルクロウがドラゴンの眉間に刀を突き立てていた。

そしてドラゴンの頭はみるみるうちに焼かれて骨だけになった。


それを見届けたマリルクロウは刀を抜いてドラゴンの頭から軽やかに降りて、いつものニコニコ笑顔でこちらを向いた。


「ははっ・・・ホント、恐ろしいじいさんだよな。」



マスティフはアバドンに話しかけるように、そう呟いた。



初めてしっかりとした戦いらしいものを前回・今回と書いたのですが、いかがだったでしょうか?

動きや流れをイメージができてもそれを表現するのに苦労しました。


さて次回からは色んなのことがわかってくる謎解き編でして、それが1~2話くらい予定しています。

その次にやっと主人公が登場して企てを明らかにする?予定です。

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