109、悪魔は行方不明ーマシリにて
アシュア視点です。
テレファの町に数日滞在した私たちは4日かけてマシリの町に歩を進めて、領主のいないマシリはあっという間にオーランド王子派になった。
まあ、オーランド王子の使役魔法も炸裂したんだろうけど。
そしてそのままマシリの町に滞在して1週間ちょっとして、アウルサの町で実験場を調べていたカルディルたちが合流した。
カルディルたちは実験場に侵入したことや成功体と戦ったこと、領主のティーガが自害したがユウジンによって生き返ったことを話して、私たちはその内容のどれもに驚いた。
でも私が1番驚いたのは・・・
「ユウジンがいなくなった!?」
「そうなんだ。ティーガを生き返らせた翌朝に突然いなくなってしまってな。一応探したんだが目撃情報もなくてな・・・。すまない。」
カルディルは申し訳なさそうに私やレフィ、マリルクロウ様に頭を下げてきた。
「一応、ティーガ様は俺の指示に従うようにしてくれているから、実験に関する証人として一緒に来てもらったんだが。」
ティーガはユウジンの指示でカルディルに従うようにと言われていて、カルディルらと一緒にマシリに来ていた。
『アウルサの領主ティーガ・クルノスと申します。』
「え、ほ、本当に、死者なの・・・?」
肌が異常に白いけど、なんか顔色が悪いだけのようにも見えるから聞いてみたんだけど。
私が恐る恐るティーガに聞くと、ティーガは布で隠していた首元を見せてくれた。
首には確かにナイフで刺されたような跡がハッキリあって、毒を塗っていたということで、傷口が土色に変色していた。
「キャッ!ほ、本当なのね!」
私はガッツリ生々しい傷口を見てしまって、つい悲鳴をあげて目を伏せてしまった。
それからは実験の場所と中の様子をカルディルとマスティフが交互に話してくれたのをオーランド王子・マリルクロウ様・私たちで皆で聞いて、カルディルが持ってきた資料も見た。
とりあえずこれでグラエム王を攻める材料ができたと話していると、急を知らせる鳥が飛んできた。
足にメモがくくりつけられていて、オーランド王子はメモを読んで愕然としていた。
「テレファの領主からの知らせで、テレファに来れなかったサビザと首都からの騎士兵士が軍となって、キュベレの町に向かってきているから応援を頼むと、キュベレのヘンリスからテレファの領主に向けて鳥が飛んできたそうだ・・・!」
「軍だと!?」
「しかも・・・その軍を指揮しているのは、ユースギル兄さんだそうだ・・・。」
その言葉に全員が目を見開いた。
「サビザの軍はキュベレにいる騎士兵士や冒険者の数より多い。テレファの町に応援を呼んだのは間違ってはいないが、テレファからキュベレまで2週間かかってしまう。」
「うむ、サビザからキュベレへは1週間でついてしまう。つまりすぐにテレファが応援を出したとしても、1週間はキュベレの兵らで防衛せんといかんということじゃ。」
マリルクロウ様はそう言って考え込んだ。
「逆に言うと、1週間もたせたら応援が来るということじゃ。だとしたら・・・住民を周辺の村などに避難させて籠城という手を打つじゃろうのう。」
「籠城・・・ですか。確かに、籠城でしたら塀の上で攻撃をするだけですから数の差はどうにかできそうですが・・・。彼らが頑張っているならこれからキュベレに帰りましょう。3週間ほどかかってしまいますけど、彼らならなんとか軍に勝っていると信じましょう。」
もうちょっとで首都だったんだけど、しょうがないものね。
キュベレの町は本拠地なんだし、そこが落とされたら大変だわ。
すると、オーランド王子が頭を抱える動作をした。
あれ?どうやら通信が来たのかしら?
「・・・ちょっと待った。今、首都のスパイから報告があった。」
しばらく頭を抱えて王子は黙っていて、皆は王子に注目した。
「・・・は!?父上はキュベレの町に向けて追加で騎士500兵士5000を送ることにしたそうだ。これで首都にいる騎士兵士はほとんどがいなくなるそうだ。」
「追加で騎士兵士を送る?どういうことじゃ?まだ戦いは始まっておらんし、なにより数はすでに軍の方が多いというのに・・・?」
マリルクロウ様でも驚いて首を傾げていた。
「・・・首都にいる騎士兵士は騎士300兵士3000人しかいなくなるそうだ。だがこれは明らかにこれはおかしくないか?国王のいる首都にこれだけの数しかいないのは・・・。」
追加の騎士兵士は明日出発するそうで、スパイからの報告の通信は以上だった。
「・・・もしかしてこれは・・・チャンスじゃないですか?」
カルディルが提案してきた。
「このマシリからとアウルサから首都に向けて兵を進めるチャンスではないですか?」
「確かに・・・今マシリには我々と一緒に来たテレファからの騎士300兵士3000がいる。アウルサからもそれぐらいの数の騎士兵士はいるじゃろうしのう。」
『います。私は通信魔法を使えますから、すぐにでも指示を出せます。』
「首都を左右から攻めるチャンス・・・じゃろうのう。」
マリルクロウ様はそこまで言って、いい淀んだ。
このチャンスはつまり・・・。
「待ってください、カルディルにマリルクロウ様。それでは・・・キュベレを見殺しにすることになるではないですか!それはできない!」
オーランド王子は首を振った。
「キュベレは俺を受け入れてくれた最初の町です。その恩があるのに・・・。」
オーランド王子はとても苦しそうに言って俯いた。
「ですが・・・王子、もうこんなチャンスはないかもしれません。」
「だ、だが・・・そうしたら、ヘンリスやキュベレの領主たちは・・・。」
反逆者と見なされているし、ここまで散々手こずらせてきたから捕まえるだけで終わるとも思えない。
噂ではユースギル王子はグラエム王と性格が似て好戦的と聞いてるから、捕まってすぐに殺されると思ってもいいかもしれない。
部屋に重苦しい空気と沈黙が流れるなか、結局、王子はどうするか決めることができず1晩考えさせてくれと言っていた。
そしてそれから部屋に1人籠ってしまって、あんなにべったりだったマリルクロウ様でさえ部屋から出されたみたい。
ちょうどいいからとこの隙に、マスティフは自分の部屋にマリルクロウ様と私たちを集めた。
「マスティフ、どうしたの?」
私たちは部屋に備え付けであった4人掛けのテーブルに輪になって座った。
「その前にアシュア、じいさんは万能薬飲んだんだよな?」
「うん、飲んだわよ!大変だったんだから!吐いたりしながら渡したんだからね!」
「吐いた!?」
「んまあ、相当苦労して渡してくれたってことじゃ。」
「そ、そうか・・・。んじゃあ、正気に戻ってくれてんだな。だったら実験のことで王子たちに内緒にしていたことを話せるわ。」
「え?内緒にしていたこと?」
「ああ、ユウジンに言われて内緒にしていたことがあったんだ。」
そして私たちはオーランド王子がグラエム王と実験に参加していたことを聞いた。
もしかしたらオーランド王子とグラエム王は仲が良かったんじゃないかというユウジンの仮説も聞いてビックリした。
「ティーガも認めたことなのね?・・・あれ?でも、そのティーガは使役魔法が解けて今はカルディルに従っているんでしょう?カルディルに実験に王子が関わっていることを話さないかしら?」
「それは大丈夫。ユウジンがティーガに口止めしていたから。」
「さすがユウジンじゃのう。・・・しかし、それにしても、あやつはどこに行ったんじゃ?」
そうよねえ・・・。
あの性格からして変なことしてないか心配だわ。
「それなんだけど・・・。」
「ん?マスティフなんか知ってるの?」
「俺の勘が正しけりゃあ、あいつは王子が反旗を翻した本当の理由に薄々見当がついている気がする。姿を消したのも、それと関係している気がするんだよなあ・・・。」
なにその勘。
めちゃくちゃ勘が鋭いだけに、そんな気がしてくるわ。
「ふむ・・・あながち間違いではないかもしれんな。」
マリルクロウ様はちょっと考え込んで、そう言った。
「少なくてもわしは、見当がついた。ユウジンは頭がいいから考えついたかもしれん。」
「え!?マリルクロウ様、反旗を翻した本当の理由わかったんですか!?」
「これでもわしは長年悪魔教に仕える者たちと対峙してきたからのう。そこからだいたいの見当はつく。・・・本当に、恐ろしいことじゃ。」
マリルクロウ様は最後は苦しげな表情で呟いていた。
悪魔教?それが関係しているのかしら?
「わしの見当が正しければ明日、オーランド王子は恐らく首都を攻めることを選ぶじゃろう。」
翌日、オーランド王子は首都を攻めること宣言した。
いけね!レフィが一言もしゃべってない!(笑)




