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107、悪魔は行方不明ー王城にて

今まで名前しか出てこなかった第一王子視点です。


時期としてはオーランド王子がテレファを防衛して1週間後、アウルサの実験場侵入戦から12日後のことです。

ヴェネリーグ王国第一王子である俺、ユースギル・ウェズン・ヴェネリーグはイライラしていた。

30歳の俺は、父上にそっくりとよく言われる長い赤髪に赤目で、性格も短気で好戦的な父上の性格をそのまま受け継いでいる。

小さい頃から次期国王と讃えられ父上から全てを学び育ったおかげで、今では政治にも関わらせてくれることも多くなった。


大股に王城の廊下をズンズン進むんでいると、メイドや騎士らは慌てて端に寄って頭を下げる。

それを無視して進み、ある部屋の扉を勢いよく開けた。


「父上!マシリの領主が負けたとは、本当ですか!?」

国王の執務室に挨拶もなしに入ると、デスクに座って書類を書いていた父上は目を丸くしていた。

「ユースギル!勝手に入ってくるなと言ったはずだぞ!?それになんだその入室の仕方は!次期国王たるもの、礼儀をわきまえろ!」

「今は礼儀をどうとかいう場合ではないでしょう?それより、マシリの領主が負けたのは本当ですか?」

「・・・・・・本当だ。」

父上はとても苦い顔をしてそう言った。

ここ最近、父上のこんな表情をよく見るようになった。

それほどあのバカ弟に手こずっているということだ。


「なぜです!?マシリの領主はサビザやここからも応援を送ったはず。」

「・・・テレファへの道が約200メートルの土砂崩れと100メートルの地割れでサビザとここからの応援が行けなかったそうだ。だからテレファにマシリの軍しか行けず結果、数で負けたようだ。」

その言葉に俺は目を見開いた。

「土砂崩れに地割れ・・・?あ、あり得るんですかそんな都合よく・・・。」

「・・・都合がよすぎる。しかも、サビザからの軍が撤退した翌日には地割れはなくなっていたらしい。」

「は?なくなっていた?」

誰かが埋めた?

だが、騎士兵士が通れないほどの100メートルの地割れを起こしてまた埋めるなど、いくら魔法使いでも無理だ。

普通なら地割れだけでMPが尽きてしまう。

それこそ、魔法使い数十人が集まったら可能かもしれないが、そんなにたくさんの魔法使いが集まったなら必ず町で噂になって王城に情報が来るはず。



「終わったものはしょうがない。大事なのは次だ。スパイからの報告で、オーランドはマシリの領主を捕らえたことで、そのままマシリへ進んでマシリの町に入ったようだ。マシリの町をとられたのは痛いが、オーランドのいる位置を考えると、オーランド不在のキュベレが手薄ということだ。」

父上はいつの間にか弟のもとにスパイを潜り込ませている。

しかもそのスパイが優秀で、どんな騎士兵士が持ってきた情報よりも怪しい情報屋が持ってきた情報よりも正確で早いのだ。

「マシリからキュベレへと帰るとしても3週間ほどかかります。・・・それまでにキュベレを落とすことは可能です。」

ちょうど(・・・・)キュベレ近くのサビザには多くの騎士兵士がそのままいるしな。」

グラエム王はニヤリと笑った。

「どうやら妨害されてテレファは討てなかったが、キュベレを討ついい機会となった。ここで何もせず帰ってくるのはヴェネリーグの軍ではないわ。」

「まあ、もとよりマシリの領主には期待していなかったでしょう?」

「そう言うな。一応、我が王族に長く仕えていた一族だ。少しは駒として使ってやらねばのう。」

自分の方が結構ひどいことを言っているではないかとユースギルは苦笑いした。


するとグラエム王はなにやら考えると、俺に提案してきた。

「ユースギル。キュベレを落とすのをやってみるか?」

「え、俺が出てよろしいでしょうか?」

「そろそろ次期国王としてお前が動いてもいいだろう。なに、重要な戦いではあるが負ける戦いではない。」

俺は次期国王と世間でも言われているが、父上がまだまだ現役としているので今まで公の場では第一王子として振る舞うことを言われていた。

だが、今回の戦いでは次期国王として動いてもいいと言ってきたということは・・・。

父上はそろそろ俺に王位を譲る気でいるということだ。


「・・・わかりました。次期国王として指揮して必ず勝利をもたらしてみせます。」

俺はニヤリと笑って一礼して、執務室から出た。

くくく、ついに次期国王として動くことができる。


その場にとどまっていると、執務室から父上の独り言が漏れてきた。


「ああ、・・・わかっている。お前の言う通りにしたぞ・・・これでいいんだろう?・・・ふはは、余はこれで・・・ふははは・・・ははは。」


5日前まで会議室や応接室などを移動しまくって、大臣や棋士たちに怒鳴って指示しまくっていた父上は突然、執務室に籠るようになった。

そしてああやって独り言を話すようになったのだ。

メイドや執事は「国王は気が触れた」と口々に噂し始め、信じられなかった俺は執務室を訪れる時はノックせずに入って、何をしているのか確かめているのだ。

だが、父上は5日間いつ入っても執務をこなしているのだ。

何度か天井を見上げて話す仕草をしていたが、天井はなんの変哲もない普通の天井だった。


だが、先程のようにちゃんと俺とも会話もできているから、気が触れたように俺には思えないのだ。

まるで見えない誰か(・・)と会話しているような・・・。

・・・考えすぎか。


廊下を歩き、自室に戻ると執事が待っていた。

「父上からキュベレを討てと命を受けた。これからサビザに向けて出発する。」

執事は突然のことに目を見開いていたがすぐさま冷静になって、「かしこまりました」と一礼するとあっという間に荷物をまとめた。

「サビザへは馬車で行かれますか?」

「・・・いや、アバドンで行く。」

「かしこまりました。」

俺は自室のベランダに出ると、靴をタンタンと鳴らした。


「出てこい、アバドン。」


俺の足元の地面から大量のイナゴが噴き出して、空中でイナゴはひとつの塊となって、その塊は蠢いて1体の魔物の姿へと変わった。

体長3メートルほどで、獅子の頭に全身鱗が生えていてドラゴンの翼を持ち、熊の足に腹から火と煙を出している姿だ。


「今からサビザへ行く、運べ。」

『ふん、相変わらずくだらないことで俺を使うのだな。』

獅子の顔は凶悪に歪んでいる。

俺が無理矢理使役したからか、ランクSに近いAだからか、使役しているというのに減らず口を俺に叩く。

心底、俺に従いたくないのだ。


だが、俺はアバドン以上に凶悪に、笑う。

「なにが不満だクソ虫。俺が使役してやったんだから感謝こそすれ、睨まれる覚えはないんだがなあ?使役魔法も破れないなら、俺の指示に従え。」

『・・・。』

アバドンは黙って大量のイナゴにまた姿を変えると、俺と執事と荷物を包見込み、それがふわりと浮き上がった。

そしてイナゴの大群が移動するように、サビザを向けて飛び始めた。


アバドンはこうやって人やものを乗せることができて、馬車で1日かかる距離を2時間で渡ることができる。

なので今回はサビザまで馬車で1週間かかるのを14時間で着くのだ。

サビザの町につく間、俺はキュベレ攻略の作戦を考えないといけない。


俺は資料を見ながら考えることにした。

この資料は今までのグラエム王のスパイからの情報をまとめた資料で、執事が出したものだ。

「ふむ・・・、キュベレにいるのは騎士350兵士1000に冒険者やろくに武器も持ったこともない者どもが4000人か。対してこちらは騎士700兵士6000。こっちは有利な数だな。」

「さらにユースデル様には使役している虫がおります。それらを使ってもいいかと。」

「そうだな。・・・本当はアウルサの町から援軍を呼ぼうかとも思ったが、あそこはなぜか今、連絡がとれないようだ。」

「連絡がとれないのですか?」

「ああ、領主とここ12日ほど連絡がとれないらしい。父上と仲が良かったから、父上が心配していたが。」

もっとも、独り言を話すようになってからは全くアウルサの領主を心配する素振りも見せなくなったがな。

「もしや・・・オーランド王子の手の者に・・・?」

「その可能性があるが、今は確かめるために鳥を飛ばしている。なんともなかったらほどなく返事があるだろう。」

資料を見ながら執事と話しているとあっという間に14時間が経ち、俺たちはサビザに着いた。


サビザの領主の屋敷の前で降ろさせて、俺が降りると屋敷から慌てて領主が走ってきた。

「こ、こここ、これはこれは!ユースギル王子!ようこそおいでくださいました!」

小太りの媚びへつらう領主に父上の書いた書状を見せた。

「テレファに向かうはずだった騎士兵士を集めよ。これより、キュベレの町を攻める。指揮は次期国王である俺が行う。これは王からの命だ。」

領主はめちゃくちゃ驚いた顔をして、書面を読んで「かかか、かしこまりました!!」と勢いよくそう言うと部下に指示して騎士兵士を全員町の中心地に集めた。



くくく、次期国王としての第一歩として、派手にキュベレを落としてやろう。




神話の堕天使や悪魔はどうしてめちゃくちゃな見た目なんでしょう?

アバドンの"イナゴの王"感のなさ過ぎやね。

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