106、悪魔は死者と話す
俺の言葉にティーガだけでなく、マスティフも目を見開いていた。
「な!?王子も関わっていただと!?」
「魔物と人を掛け合わせる実験ですよ?魔物はグラエム王が集められたとしても、人も同じように集められなければできませんからね。グラエム王が王の立場を利用したとしてもそこまで集めることができるのか疑問ですし、オーランド王子が協力してくれた方が集めやすいでしょうからね。」
「!?・・・だとしたら、グラエム王はオーランドが人を使役できるのを知っていたということか!?」
「恐らく。そこんところはどうでしょう?ティーガ?」
ティーガはまだ驚いていた。
『オーランド王子が人を使役できるのを知っているのですか!?』
そう聞いてくるということはティーガはオーランドが人を使役できるのを知っていたということか。
「知ってます。色々とありましてね。俺とマスティフと何人かしか知りませんし、オーランド王子にバレてないですが。あなたはオーランド王子から聞いたんですか?」
『いや・・・、私は錬金術師として実験に関わる前に、グラエム王から聞いたんです。半信半疑でしたが、オーランド王子に会って話した途端に王子の全てが正しいと思うようになったのです。・・・今思うと、話したときに使役魔法にかけられていたのだとわかります。』
実験場にグラエム王もオーランド王子も何度も来たが、来て帰る度にオーランド王子は会った人全てを使役魔法で記憶を操作して自分は来ていないことにしていたそうだ。
そして報告書などの書類も全部、グラエム王宛にしていたからオーランド王子が実験に関わっていた証拠はなにもないのだ。
『ですが、1度死んだことで私にかけていた使役魔法が解けたのでしょう。オーランド王子が何度も実験場に来ていた記憶がはっきりとあります。』
ティーガは自信ありげにそう答えた。
「で、でもよお。おかしくねえか?」
マスティフは戸惑い気味に言った。
「グラエム王とオーランド王子って元々仲悪かったんじゃねえのか?性格も相性悪くてそれもあって、反旗を翻したんだろう?」
確かに、前に町で聞き込みをしたときにそんな話が出ていたな。
「一種の・・・なにかのためのパフォーマンスではないでしょうか?」
「パフォーマンス?」
グラエム王が元悪魔教信者で、オーランド王子が悪魔教幹部。
裏で魔物と人をそれぞれ集めて実験をしていた。
仲が悪いとは到底思えない。
むしろ仲が良かったんじゃないだろうか?
仲が悪いと思わせるのはなんのためだ?
・・・う~ん、反旗を翻した理由もそこにありそうな気がするんだが・・・。
「・・・ま、情報が足りませんからこれ以上はなんとも考えがまとまりませんが。」
俺はひとまず別のことを聞くことにした。
「そういえば、王族は使役したもののなかから特に気に入ったものを側に潜ませることができると聞いたのですが。グラエム王が最近なにかを潜ませていると聞きました。それは成功体ですか?」
ティーガはそれを聞くと、なぜか眉を潜ませた。
『成功体ではないです。実験は成功して、数多くの成功体を作ったのですが、グラエム王はどれも気に召さなかった。そんな時に、ソレが首都の北の山に迷いこんできたのを、グラエム王が使役に成功したのです。それからというもの、ソレを気に入ってグラエム王は実験を見に来ることはなくなって、実験場の閉鎖まで言ってきたのです。』
「は!?実験場は閉鎖予定だったのかよ!?」
『オーランド王子が反旗を翻したことにより、人の確保も難しくなってましたし。でも私はどうにも諦められなくて実験を私の独断で続けていたんです。もう少し実験が進めば、ソレより強い成功体ができた可能性があったからです。』
閉鎖予定だったら、わざわざ潜入しなくてもよかったんじゃないか・・・?
う、やめよう。そう思ったら無駄に戦ったような気がしてくる。
「気になるのはソレですが・・・何ですか?」
『・・・魔物の中でも最強種、ドラゴンです。』
「「!?」」
ドラゴン!?
本当に!?あの!?
俺もマスティフも思わず言葉を失ってしまった。
それからちょこちょこ話していると、カルディルらが戻ってきて、どうやら鳥を借りれて飛ばしたようだ。早ければ明後日にはオーランド王子にしらせられるという。
俺はカルディルを説得し直して、ティーガをカルディルに任せることができた。
カルディルはものすごくやりにくそうにしていたが、まあ、そのうち慣れるだろう。
ティーガに被らせていた『不滅の外套』は回収した。
そして宿屋に戻り、夕食まで時間があったので部屋で休むことになった。
俺は窓の外をなんとなく見ながら、考え事をしていた。
実験場でたくさんの魔物と戦っている最中、実は俺のなかで大変なことが起きていた。
罠魔法や多重魔法を駆使して戦っていたら・・・。
『上級罠魔法を一定数使用したことを確認しました。最上級罠魔法の取得可能条件をお知らせします。』
というのが突然、俺の頭のなかに流れてきた。
きた!ついに罠魔法の最上級が取れる!!と俺は戦いながら歓喜した。
『最上級罠魔法の取得可能条件は、
・智力600以上
・上級魔法を1つ以上取得済み
・同じ相手に連続して7千回罠魔法をかける(攻撃魔法限定)
以上の条件が達成されると取得が可能となります。』
そしてさらに続けて、
『上級多重魔法を一定数使用したことを確認しました。最上級多重魔法の取得可能条件をお知らせします。』
と、頭のなかに流れてきた。
やった!多重もきたか!
俺は思わずガッツポーズした。
『最上級多重魔法の取得可能条件は、
・智力700以上
・上級魔法を3つ以上取得済み
・同じ相手に同時に100回魔法をかけ、それを100回行う(攻撃魔法限定)
以上の条件が達成されると取得が可能となります。』
俺のステータスは以下の通りだ。
名前:ユウジン・アクライ(阿久来優人)
種族:人間(魔法使い)
年齢:24
レベル:59
HP:2070
MP:3540(×4)
攻撃力:466
防御力:563
智力:737
速力:613
精神力:317
運:216
超適性:罠魔法
戦闘スキル:上級短剣術・中級剣術・双剣術
魔法スキル:上級罠魔法・最上級鑑定魔法・アイテム収納魔法・中級火魔法・中級水魔法・中級風魔法・上級土魔法・初級雷魔法・中級光魔法・拘束魔法・隠蔽魔法・探索魔法・(取得)死霊魔法・剣魔法・(取得)操剣魔法・上級多重魔法
取得可能スキル:2
智力は700以上だ。そして上級魔法は4つ。
どっちのも上2つは条件を満たしている。
残りはどちらも3つ目の条件だが、似ているので回数の多い多重の方をやる感じでろう。
そうしたら罠の方の条件も一緒に満たせれるだろう。
罠魔法は7千回に、多重魔法は単純計算して1万回か・・・。
罠魔法は普通の魔法使いならMPを使いまくるから実行しても途中で魔力不足になるだろうから誰も達成できないのではないだろうか。
だが、どちらも今の俺にはそこまで難しいことではない。
超適性のおかげで罠魔法のMPは1しか消費しないし攻撃魔法限定とあるが、超微弱な雷魔法を俺は考え出している。
それを利用してさらに超々微弱したら、同時に100回自分にかけても問題はないはずだ。
まあ、それが攻撃に該当するかどうかはやってみないとわからないがな・・・。
でも、ちょうどよかった。
俺の企てにはどちらも必要だからな。
最上級、頑張って取ってみようかな。
「どうした?ユウジン?えらいニヤニヤして。」
上機嫌で考えていると、マスティフが不思議がって聞いてきた。
「え?あ、なんでもないですよ?」
上手に隠してたつもりだったが、さすが勘が鋭い。
俺は慌てて微笑んでなんでもないように答えたが、マスティフは首を傾げていた。
・・・そうだ、もうアウルサには用事はないよな。
これからはオーランド王子のところに戻る予定だろう。
俺の推測通りなら、これから忙しくなるだろうから、俺の企てをそろそろやり始めるとするか。
「そういえばマスティフ、実験に王子が関与していたということは、じいさんとアシュアとレフィ以外には言わないで下さい。」
「え?なんでだ?」
「まだはっきりとオーランド王子の目的がわからないからです。グラエム王が実験に関わるのは、軍事力強化のため実験を始めたと説明がつきますが、オーランド王子が実験になぜ関わったのかがわかりません。あなたは使役魔法にかかったフリを引き続きしているだけでいいです。多分、これから大きな戦いが起きて、そこでオーランド王子の目的がハッキリするでしょうから。」
「大きな戦い?」
「多分ですけど、その戦いでこの内紛は終わります。」
マスティフは驚いていた。
「え!?ほ、本当に終わんのか!?ユウジンはどっちが勝つと予想してる?」
「・・・さあ。俺が決めることではないですから。」
俺はそう言って意味ありげに微笑んだ。
その翌朝、俺とクロ助は姿を消した。




