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105、悪魔は新たな魔法を取得する

ティーガの突然の行動に全員が驚き、胸ぐらを掴んでいたマスティフは思わず手を離した。


「ぐはっ・・・ひひひひ・・・」

ティーガは吐血してフラフラと後退り、こちらをニタニタ見ながらバタリと倒れた。


急いで近づくと、既に事切れていた。


死ぬのが早すぎる。どういうことだ?

「!?ナイフになんかついてる!」

マドリーンもおかしいと思ったようで、遺体に近づいて刺さったナイフをマジマジと見た。

ナイフの刃にはなにかの液体がついているのが見え、刺さっている首周辺も土色のように色がそこだけおかしくなっている。

「これは・・・!強力な毒よ!ナイフに毒を塗ってたのを隠し持っていたのね。」

もしかしていつでも自害できるように隠し持っていたのか?

自分という証拠隠滅のために?

「なんてことだ・・・!」

カルディルは一際顔色を悪くしてティーガの遺体を見ていた。


「大丈夫か?カルディル?」

「・・・ティーガ様とは10年前に知り合って、仲良くさせていただいていた。いつも笑顔で優しくて・・・なのに・・・そんなティーガ様が・・・こんな酷い実験に荷担していたなんて・・・。」

領主の館でも仲良く雑談をしていたから、親しい人がこんなことになって特にショックが大きいのだろう。


「カルディル、ショックなのはわかるが・・・。」

「ああ、すまん。・・・死んじまったもんはしょうがねえ。せめて実験の証人になることでこんな実験をした罪を償って欲しかったが・・・。」

カルディルは俺以外の皆が心配そうな顔をしているのを察して、すぐに気を取り直してくれた。

「ティーガのことはともかく、魔物をどうする?1000匹の魔物なんて倒させるのか?」

「それも問題だが、どこから来るのかがわからないし時間もないからから町の人を避難させようもない。本当はティーガ様がちらっと言っていたなんとかする方法が分かればよかったのに・・・。」


ふむ、確かにアウルサの町にいる兵士や冒険者をかき集めても1000匹の魔物を倒すことができるか・・・。





そうだ。・・・あの魔法(・・・・)を取得するのに、ちょうどいい機会じゃないか?


鍵魔法は使い道はないだろうと取らなかったが、あの魔法(・・・・)はこのあと使い道があるし。

ステータスを確認すると、アウルサに来るまでにレベルがひとつ上がって56になっていたのが、今魔物を倒しまくったからレベルが59まで上がって取得可能スキルが3つになっている。


俺は取得可能魔法一覧から、ある魔法を取得した。




「・・・失礼します。」

俺は仰向けで倒れているティーガの遺体の側に近づいて、体に触れた。

「ん?どうした?ユウジン。」

手首で脈を測ってみたが、確かに脈はない。


「・・・確かに死んでますね。では・・・生き返らせます(・・・・・・・)よ。」

「は?」

俺は遺体の心臓辺りに手を置いて、そこから魔力を流し込んだ。

そして頭に浮かんだ呪文を唱えた。


『冥府の者よ、この者を一時的に甦らせ我が下僕とせよ、ネクロマンスィ』


ティーガの遺体は黒いモヤに包まれたかと思うと、それが遺体のなかに入り込んだ。

その直後。


『うぐっ・・・うん?ここ・・・は?』

ティーガの開いていた目がギョロリと動き出して、そう呟いた。

肌は異常なほど青白く首にナイフが刺さったままだが、ティーガは痛がる様子もなく上半身を起こしてこちらを見た。

『!?お前たちは・・・!?なぜだ!?私は死んだはずだ!?』

口をパクパクして驚いているが、声はちょっとエコーがかかっていて頭に直接響いている。

「ふむ、成功しました。あなたを生き返らせたんですよ。」

俺はそう言って微笑むと信じられないという顔をされた。


うん?さっきからみんなが静かだな。

そう思ってみんなを見たら、全員がぽかんと口を開けて固まっていた。


「ちょ、ちょ・・・ちょっと待てよ!ユウジン!!どういうことだよ!?お前、死霊魔法が使えたのかよ!?」

いち早く気を取り戻したマスティフが俺に食って掛かってきた。

「今、取りまして、早速やってみました。」

「「「はあ~~~!?」」」

俺のその一言に全員が声を上げた。

ティーガも驚いて固まっている。


「いや、これからアウルサの町の人たちを避難させる時間も恐らくないでしょうし、アウルサにいる兵士や冒険者だけで1000匹の魔物をどうにか倒すことができるとは思えなかったので、それならば彼を生き返らせて魔物をどうにかする方法を聞いた方が早いかと思いまして。」

俺の意見を聞いても皆固まっている。

なんだ?

マスティフは俺がわかってないのを察したのか、呆れた顔をして言ってきた。

「あ、いや・・・そこに驚いているんじゃなくてだな。」

え?

「死霊魔法なんて取得可能になってるのがおかしいが、初めてやって成功するのもおかしいんだよ。」


なんでも、死霊魔法は死者を生き返らせる行為になるので取得可能になるのは相当難しい条件が設定されているらしい。

魔法が得意な者が50年魔法だけを強化して取得可能になるかどうかなくらいだそうで、俺のような若者が取得しているのなんて前代未聞だそうだ。

さらには初めては必ず小動物等からやって魔法に慣れてきて魔物や人にかけられるもので、初めてで魔物や人にやって成功なんてのはまずないらしい。

そんな魔法だったのか・・・。

俺は取得可能魔法一覧にあったからとっただけなんだがなあ。

初めてやって成功したのも含めてテスターの特権なのだろう。


「はあ、そうですか。んまあ、できるものはできるし、できたんだからいいじゃないですか?彼は生き返ったんですし。」

俺がさも興味なさげに言ったのをみんなは呆れて見てきたが、無視してティーガに話しかけた。

「こういうことですので、あなたは生き返ったんで、魔物をどうにかできる方法を教えていただけませんか?」






「あ、領主様おかえりなさいませ。」

アウルサの町の領主の屋敷の門番はそう声をかけてきた。

ティーガは軽く手を振ると、門番は門を開けて俺たちは中に入った。

「おかえりなさいませ、ティーガ様。恐れ入りますが、この方たちは・・・?」

出迎えた執事は訝しげに俺たちを見てきた。

『私の客人です。』

「さ、左様でございますか・・・。ティーガ様、大丈夫ですか?顔色が悪う見えますが・・・。」

『・・・少し気分が悪いだけで、問題ありません。書斎にいますから誰も近づけないように。』

ティーガは被っていたフードを目深に被ると俺たちを促して、書斎へと向かった。


書斎に入るとニコリルがドアの側に待機して、誰か来ないか見張っていた。

「・・・なんか心臓に悪いなあ。死者だとバレないかヒヤヒヤしたぜ。」

マスティフはため息をついて側のソファにどかりと座った。


魔物をどうにかできる方法は、領主の屋敷の書斎にあるとティーガが言ったので、皆で行こうとなったのだが、問題はティーガが死者だとバレると面倒だということになった。

そこで、ティーガの首のナイフを抜いて俺のアイテムの中の適当な布でマフラーのように首を覆って、『不滅の外套』を着せてフードを被らせたのだ。

これでちょっと顔色が悪いなと思われるくらいでなんとかなるのでは、と「奥の館」を出てここまで来たのだ。

因みに魔物が数百眠っていたあの部屋と地上に直接繋がるほら穴があって、そこから成功体は出荷(・・)されていたそうで、ティーガが俺たちを待ち伏せしていたのはそこを通って来たからで、今度はそこから俺たちは出てきた。

破壊の命を受けていたカルディルはたくさんの魔物を相手にして疲れたようで、「成功体を全部倒したら破壊はしたようなもんだ」とか言ってほら穴だけふさいで破壊したことにした。


まあ、あの実験場にも「奥の館」にも、もうグラエム王は来ることはないかもしれないから、破壊してもしなくても俺はどっちでもいいんだけどな。



部屋で数時間戦ったこともあって、外に出るとド深夜になっていた。



ティーガはさっさと書斎のデスクに近づくと、ポケットから鍵を取り出して鍵のかかった引き出しを開けた。

そして中をまさぐって、あるものを取り出した。

「!?・・・それは!?」


手のひらほどの大きさの紫色の魔石だった。

俺が壊した魔石と瓜二つだ。


『あの魔石のスペアです。あの魔石が事故などで壊れた時用に、用意してました。』

なるほど。キッチリしているな。

「では、その魔石でも魔物を使役できるというわけですか。1000匹の魔物はどこに眠っていたのですか?」

『王家の別宅の「海の館」です。あの館にも地下を作って成功体を貯蔵(・・)していたんですよ。』

「海の館」か。まあ、ヘタなところよりよっぽど隠しやすいだろうな。


「それでは、魔物を町に来ないようにして、全部処分(・・)してください。」

『・・・わかりました。』

ティーガは魔石に魔力を流し込んだ。

魔石は淡い光を放ってしばらくしてやんだ。


『・・・魔物を全て沖に向かうようにしました。抵抗しないようにとも指示したので、溺れ死ぬか海の魔物に食われてほどなく全滅するでしょう。』

「え、ほ、本当ですか?ティーガ様。」

半信半疑のカルディルがそう聞いていたが、俺はなんとなくティーガはそうしたように思った。

というのも・・・。

「ティーガの言っていることは間違いないですよ。死霊魔法で俺に使役されていますから、俺の指示に絶対に従うようになっています。」

『・・・その通りです。なぜかわからないのですが、この男の指示に絶対に従わないといけない気がして、抵抗する気すら起こらないのですよ。』

「そ、そうなのか・・・。」

カルディルは微妙な顔をしつつ、納得してくれた。


一応サーチで範囲を目一杯広げて沖の方を見てみると、異常な数の魔物が町とは反対方向の沖の深いところに次々と飛び込んでいっているのが感覚でわかった。

あれが恐らくそうか。

これで海に入った魔物は次々と溺れ死んで、死体は海の魔物にバクバク食べられることだろう。


「これでひとまず、実験場の調査や潜入は完了したということですね。」

「ああ。後は報告書をオーランド王子のところに持っていって渡したら、王子が公表してくれるだろう。」

「では証人としてティーガも必要になりますね。よかったらカルディル、あなたに従うように指示しときましょうか?」

「は!?ちょっと・・・それはさすがに無理だ。俺はティーガ様とは爵位が違って俺の方が下だから、俺の下につくというのは・・・。」

「いやいや、俺なんて爵位のないただの冒険者ですよ?もう死者ですからそこは気になさらずに。」

「う・・・、だがしかし・・・。」

まあ、貴族は爵位が大切らしいからな。

そこを無視しろと言われてもすぐには無理か。

「まあ、証人としてティーガが必要なのですから慣れていただかないと。あ、そういえば、オーランド王子に連絡はするんですか?通信魔法?」

「あ!そうだった。通信魔法は俺たちは誰も使えないから、この町の鳥を借りることにしてたんだ。マドリーン、鳥借りる手配は?」

「そういえば忘れてた!大変!」

「早くしないと借りられないかもしれないぞ!」

カルディルと部下3人はそう言って慌てて書斎から飛び出して行った。


「カルディルらも大変だなあ。」

呑気にソファでだらけているマスティフがそう言った。

「うんまあ、彼らも都合よく(・・・・)出てってくれましたし、これでやっと本題に入れます。」

「え?本題?」

『・・・?』


俺はティーガに微笑んだ。



「・・・魔物と人を掛け合わせる実験。これにオーランド王子も深く関わっていますね?」





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