104、悪魔は操剣で戦う
魔物との攻防を繰り返し、俺の魔法もあって数時間で数百の魔物は半分まで減った。
だが、まだまだ魔物は襲ってきて、俺たちはすでに精神的な疲れでミスをして攻撃を受けてしまうことも多くなった。
そういうときは俺が操剣魔法の片手間でヒールをしたり、ポーションを使ったりして回復させていたが、さすがに精神までは癒すことはできない。
これはそろそろ決着をつけた方がいいか?
ティーガはというと、予想外の攻防に完全に取り乱していた。
「くそっ!何をしているのです魔物ども!さっさと殺しなさい!お前たちは最強の下僕ですよ!?」
魔物は襲ってくるが、俺の操剣が次々と魔物を凪ぎ払い、さらに数を減らしていく。
「ええい!!役立たずばかりですね!せっかく・・・せっかく、ここまで完成させてあげたというのに!」
ティーガは悔しげにそう言って魔石に大量の魔力を送った。
魔石は淡い光からまばゆい光に代わり、魔物たちは急にその動きを止めた。
「ヴアアアアッ」「ガアアアアアッ」
魔物たちは奇怪な声で鳴き始めて、次々と魔物たちの体が波打ち一回り大きくなった。
「な、なんだ!?でかくなった!?」
「ふははは!成功体はこうして、指示することで極限まで能力を上げることができるのですのよ!」
魔物たちは勢いをまして、こちらに向かってきた。
「フシャアアアァッ!」
ガキィィンッ
「くっ!?」
爪が異常に伸びたトラのような魔物の攻撃を操剣で防いだが、伝わる力が段違いに強い。
今までは爪や牙で攻撃してくるだけだったが、蹴りをいれてきたり体術のようなものも繰り出してくる。
そして後方の魔物は口から火を吹いたりウインドカッターのようなものも飛ばしてくる。
だが、問題ない。
俺は避けながら操剣で魔物の首をはね、カルディルやマスティフは体術には体術で応戦しているし、後方の魔物にはマドリーンの弓矢が命中して、ノースもニコリルも魔法や武器で魔物を倒していっている。
その姿を、ティーガは憎々しげに見ていた。
そして・・・
「さて、これで終わりでしょうか?」
俺はティーガの前にたどり着いた。
といっても、操剣を刃を外にして俺を中心に回転させながら歩いてきただけだけどな。
俺の周りでは回転に巻き込まれた魔物がバラバラになっていっている。
さすがにその異様な光景にティーガはものすごく取り乱して叫んできた。
「な、な、なんなんですかあなたは!?回復魔法が使えるわ、そんな奇妙な魔法を使うわ、あなたのせいで貴重な成功体が減っていっているではないですか!一体何者です!?」
その取り乱す姿が実に滑稽で、俺は微笑んだ。
「俺ですか?ただの冒険者ですよ。」
俺は10本を回転させ続けて自身の安全は確保しつつ、10本は俺の頭上でジャキンと音をたててティーガに向けた。
「さて領主様。そろそろ降伏して下さいますか?ここが公になることは俺たちの持っている報告書ではっきりしているのですから。」
「うるさいうるさい!お前たちを殺して報告書を回収したらいいだけのこと!私の研究の邪魔をしないでください!!」
ティーガを守るように屈強な魔物たちが立ちはだかった。
恐らく魔石で魔物を操って盾を作ったか。
立ちはだかった魔物をザクザク切っていこうと操剣で切りつけた。
「!?」
だが、ほとんど切れてない。
魔物の皮膚が固すぎて剣が通らないのだ。
むしろ剣が少しずつ刃こぼれするくらいだ。
「では魔法ではどうです?」
俺は無詠唱で爆発魔法を10発放った。
ドオオオオォォンッ!!
巨大なひとつの爆発となって魔物たちを巻き込んだ。
「うわっ!?な、なんだ!?」
カルディルたちが驚くなか、周りの魔物たちは爆発に巻き込まれて吹っ飛んだりしたが、ティーガの盾となっている魔物たちはほとんど無傷だ。
チッ、魔法もダメか。
「ふはははは!どうですこの魔物たちは!彼らは私の特製で攻撃はほぼ効かないのですよ!」
そうか、攻撃は効かないのか。
だが、さっきからまったく攻撃してこないから防御専門か?
俺は操剣全部を盾となっている魔物に向けて次々と攻撃しながら様子を見つつ、近づいた。
「はっ!」
俺は1体に絞って攻撃してみるも、操剣20本の攻撃を受けてもやはりほとんど無傷だし反撃してくる様子がない。
「はははっ!無駄ですよ!攻撃が効かないと言ったでしょう?どうです、私の研究の成果は。」
「うん・・・まあ、研究の成果はどうでもいいです。興味ないので。」
ザンッ
突然、ティーガの頭上から剣が落ちてきて、手もろとも魔石を貫いた。
「うえ?・・・、う、うぎゃあああぁっ!!」
ティーガは突然のことに一瞬呆けたが、直後に感じた鋭い痛みに叫び、剣を抜いて魔石を見ていた。
魔石は砕けてボロボロとティーガの手からこぼれ落ちた。
「ま、魔石が・・・魔石が・・・な、なぜ・・・!?」
俺は魔物に攻撃のために近づくフリをして、ティーガに近づいていたのだ。
そして魔力のドームの範囲5メートル内に入ったところで、罠魔法をはってアイテムの中の鉄の剣をリンクしたのをティーガの頭上に出したのだ。
ドーム内に出たのでそれを操って手ごと魔石を貫いた、というわけ。
操剣での攻撃や派手な爆発魔法はティーガが油断すると思ってやったのだ。
すると、ティーガを守っていた魔物たちはゆっくりとティーガに振り返った。
周りの魔物たちも、ティーガを取り囲んでいる。
ティーガはその状況にハッと気付くと顔を青ざめ、ガタガタと震えだした。
「ま、待て・・・!お前たち!ここまで育ててやった私を・・・強くしてやった私を・・・。やめろ!来るな!来るなーー!!」
魔物たちは牙や爪を剥き出しにして、次々とティーガに襲いかかった。
「はい、させませんよ?」
俺は素早くティーガに近づくと、俺とティーガを中心に剣で取り囲み、回転させてティーガを襲ってきた魔物を次々と切り刻んだ。
その光景にティーガは目を見開いていた。
「な、なぜ・・・!?」
「あなたはこの実験に関係している立派な証人なんですよ?魔物に殺させてあげるにはもったいない。」
ティーガは悔しげな表情でその場に座り込んで、項垂れた。
どうやら手を怪我して血が流れているから貧血を起こしたようだ。
俺はとりあえず手の怪我をヒールで治して、座らせたままにしておいて操剣で周りの魔物を倒していった。
しばらくしてカルディルたちも合流して、魔石を壊したことを告げた。
魔物たちは制御を失って外に出ようとほら穴に向かうものや魔物同士で戦い出したりと混沌としていたが、体が元の大きさに戻っていたこともあって倒すのに苦労をしなかった。
あの攻撃が効かない魔物たちも体が元に戻ると普通に攻撃が通じた。
そうして1~2時間ほどかけて魔物はすべて倒すことができた。
もう部屋の床は魔物の死体だらけで、避けるのも面倒臭いレベルだ。
「はぁっ、はぁっ・・・。さすがに疲れたー!」
マスティフは息を切らしてしゃがみこんだ。
「ホントだよ。・・・よく俺たちだけで倒せたと思うぜ。」
カルディルも疲れきった顔をしているし、部下3人もその場に座り込んで休憩している。
俺は結構魔法を使ったり、操剣で随時MPは減っていっていたからMPは半分ほどにまで減ってはいたが、歩き回ったくらいでほとんど疲れてはいなかった。
因みに操剣使用中にMPは1秒間に5消費されていた。
これは恐らく5メートルのドームだったから5消費されたと思われる。
俺は『回復の指輪』『倍加の指輪』のおかげで1秒間に4回復するから、実質MPは1しか消費されなかったことになる。
「・・・ふはは・・・ははは・・・。」
ずっと項垂れていたティーガが急に笑い声を漏らした。
「あ?どうした?なにを笑ってんだ?」
マスティフが首を傾げながら聞くと、ティーガは顔を上げた。
その顔はニタニタ笑っていた。
「お前たちは取り返しのつかないことをやったのですよ。はははっ」
「は?取り返しのつかないこととはなんです?ティーガ様。」
カルディルがそう言うと、ティーガはカルディルに視線を向けた。
「英雄気取りでここの魔物を倒しましたが、成功体はここだけではないと言ったはずです。それが全て1つの魔石で眠っていた。その魔石が壊れたということは、どういうことかわかりますか?」
全員が目を見開いた。
魔石が壊れたことにより、全部の成功体が目を覚ましたということか!?
「そう!全ての成功体が今頃目を覚まして、暴れだしているでしょう。成功体は本能で人間を襲うようになっています。・・・まあ、ちょっと離れたところに集めておきましたからねえ。今頃はこのアウルサの町に向かってきていてもおかしくはないですねえ。」
「なんだと!?ティーガ様、魔物の数は!?」
「ざっと1000匹ぐらいでしょうか。さあ、どうします?英雄気取りが町を危険に晒して、実に滑稽!ははは!」
「っ!てめぇっ!」
マスティフはイラついてティーガの胸ぐらを掴んだ。
「魔物はどこから来んだ!?てめえの町だろ!?魔物をどうにかする方法はないのかよ!?」
「方法は・・・あります。」
ティーガはそう言いながら、ニタニタ笑っている。
なんでそんなに笑っている?
ティーガは貴族服の内側をゴソゴソまさぐって、なにかを取り出した。
手に持っていたのは、小さなナイフだった。
「誰がお前らなんかに、教えてやるものですか!魔物の大群にお前たちも町も殺されるといい!!」
そう言って、ナイフを自身の首に突き立てた。




