103、悪魔は魔法を完成させる
兵士たちは武器を手に取ると、次々と攻撃してきた。
数はざっと見ても50人前後。
それが俺たちの周りを取り囲んでいるので、なかなかな不利な状況だ。
カルディルは素早く応戦してゴリマッチョな体を活かして兵士たちを吹っ飛ばしたりして、部下3人もそれぞれの武器を構えて戦っている。
マスティフも大剣を構えると兵士たちの攻撃を防ぎ避けながら切りつけていった。
俺は人殺しはしない主義なので素早く皆から後方の移動して回復役になったり、たまに襲ってきた兵士を拘束魔法でぐるぐる巻きにしたりしていた。
そうして戦っていると20分位経った時点で、兵士は後10人ほどにまで減った。
「チッ、なかなか手強いですねえ。」
ティーガは木箱の上で状況を見てイラついていた。
俺が素早く回復しまくっていることもあって不利だった状況が徐々に覆って、こちらは全員まったくの無傷だ。
「・・・仕方ありません。」
そうティーガは呟くとポケットから片手ほどの紫色の石を取り出した。
ティーガが魔力を石に流すと、石は紫色の淡い光を発した。
すると積み上がっていた木箱がガタガタと揺れ始めた。
そして木箱を突き破って、中で寝ていたはずの魔物が次々と飛び出してきた。
「な!?魔物が一斉に起きた!?」
「・・・あの石・・・魔石か!?」
魔物は俺たちや兵士に襲いかかり、俺たちは武器などで防いだが10人ほどの兵士はあっという間に殺された。
「ふはははっ、いくらあなた方でもこの数の魔物は倒せないでしょう!?」
ティーガはいつの間にか木箱から降りてきて悠々と立っている。
「これは魔物にかけていた使役魔法を操る魔石です。グラエム王に協力して頂いて私の錬金術で作り上げた素晴らしい魔石ですよ。これがある限り魔物は私の意のままです。さあ!彼らを殺しなさい!」
「「「グオオオオオッ」」」
魔物たちは雄叫びをあげて群がってきた。
だが、残念。
魔物が相手なら俺は攻撃に参加できるんだよ。
ドオオオォォンッ
「な、なに!?」
俺は無詠唱で迫り来る魔物の群れの真ん中に罠魔法で火魔法をはって爆発を起こさせた。
爆発と爆風で魔物たちは吹っ飛んだ。
ドオオオォォンッ
ドオオオォォンッ
「な、何が起こってるんだ!?爆発!?」
続けて2つ爆発させたが、ティーガもみんなも突然の爆発に戸惑っている。
これで少しは魔物を減らせられたか?
だが、魔物は腕が千切れていても全身傷だらけでもお構いなしにこっちに襲いかかろうとしている。
痛覚がないのか!?
クラックで地割れを起こして落とすか?
いや、ここは地下だから部屋ごと崩落の可能性もある。
まあ、多重魔法と罠魔法で一気に100ずつ倒すことは可能だ。
ふと、これはいいチャンスではないかと、頭の中でひらめいた。
操剣魔法を完成させる、いいチャンスではないかと。
そう思うと、俺は近くで戦っていたマスティフに声をかけた。
「マスティフ!5分、俺の近くに魔物が来ないようにして下さい!」
「は!?どういうことだ!?」
「例の魔法を完成させます!」
俺はそれだけ言うと、精神を集中して辺りに魔力を流し始めた。
「おらっ!」
マスティフは戸惑いながらも俺の前で大剣を振るって、魔物が近づかないように戦ってくれている。
と、誰かの撃った火魔法が流れ弾のようにこちらに飛んできた。
「!?」
俺に当たりそうになる寸前に、なにかに弾かれた。
「ミャー」
俺の影から先が尖ったしっぽが伸びてそれが俺を守ってくれたようだ。
これは・・・クロ助のシャドウフォースか!
「ありがとうございます、クロ助。」
俺が集中している間、魔物はマスティフが防いでくれてなにかが飛んできたらクロ助が弾いてくれた。
「くっ!なかなかしぶといなっ!『斬月』!」
マスティフは大剣に魔力を乗せて放ち、魔物数匹が一気に切り裂かれた。
「マスティフ!大丈夫か!?」
カルディルが戦いながら近づいてきた。
「こっちは大丈夫だ。つっても、なかなかな数だからしんどいけどなっ!」
答えながら襲いかかってきた骸骨頭の魔物の頭を勢いよく殴り付けていた。
「ユウジンはなにをしているんだ?なにもしないで突っ立っているが・・・。」
「魔法をここで完成させるんだと。今はそのために魔力を流してんだよ。」
「は?魔法を完成させる?魔力を流す?どういうことだ?」
「んまあ、俺も説明されたが、難しいからよくわからん。だけどものすごく面白い魔法が今から見れるぞ。」
マスティフはカルディルが驚く姿を想像してニヤニヤ笑いながら魔物を切り裂いていた。
「はあ?・・・面白い魔法?」
カルディルは不思議そうに首を傾げつつ、魔物を凪ぎ払っていた。
「・・・・・・よし!魔力を流せました。」
俺はずっと毎日、操剣魔法の練習をして魔力を流す訓練をしていたのだが、少しずつかかる時間の短縮できていたのが、最近はまったく短縮されなくなっていた。
魔力の流しかたなど試行錯誤してみたがこれ以上は縮まらなかったので、恐らくこれが限界なのだろう。
魔力のドームを1メートル張るのに1分。
・・・これで、操剣魔法は完成としよう。
そう思った瞬間、頭のなかに操剣魔法の呪文が浮かんできた。
神様が「君が完成と思ったら頭のなかに呪文が浮かぶようにした」と言っていたが、本当に浮かんできたな。
俺はニヤリと笑ってアイテムからストックしていた鉄の剣10本を出して地面に置いた。
今回は5分かけて5メートル張った。
10本が動き回るには十分だろう。
「マスティフ、ありがとうございます。今、完成しました。」
ん?気付かなかったが、カルディルもいるな。
めちゃくちゃ驚かれるかもしれないが・・・まあ、いいか。
『我が領域内の武器よ、今より支配下に置く、我が意に従い飛翔せよ、フライティングソード』
10本の剣はひとりでにふわりと浮き上がり、俺の周りに円を描くように集まった。
そして一斉にジャキンッという音を出して迫り来る魔物に刃を向けた。
その、今まで見たこともない異様な光景に魔物は警戒して立ち止まり、ティーガとカルディルたちはぽかんとした顔をして俺の周りに浮いている剣を見ていて、マスティフは目をキラキラさせていた。
俺が魔物の1匹を指差すと、その魔物目掛けて一斉に同じ動きで襲いかかり、魔物は何本もの剣に刺されて倒れた。
周りにいた魔物も刺されて苦しみに悶えているのを、剣を一斉に抜いて止めを刺した。
今までは剣を1本ずつ違う動きをさせて、4本を目指していたが頭がこんがらがるほど忙しかったのが難点だった。
が、そこで発想を変えて全部同じ動きをさせてはどうか?という考えに至ったのだ。
同じ動きなら頭で考えるのはほとんど1本分ですみ、数日前の夜に試しに5本でやってみたらうまくいったので10本まで増やすことができていた。
俺は魔物の多さを考慮してさらに10本追加して20本にした。
20本はまったく問題なく、ふわりと俺の周囲で魔物に刃を向けて浮いている。
さらに魔力のドームも俺は改良して、半円を意識して地面の下までは流さないようにしたので移動が可能となり、俺が移動すれば俺を常にドームの中心に来るように自動的にドームも移動するようになった。
「な、な、な・・・なんだ!?その魔法は!?」
ティーガは激しく動揺して叫んできた。
俺はニコリと微笑んだ。
「今、この瞬間、完成した魔法です。操剣魔法という剣に触れずに操る魔法で、俺の思う通りに動けます。例えば・・・」
剣たちは俺のイメージした通りに、10本ずつ二手に別れて回転しながら魔物に向かっていき複数の魔物を一気に凪ぎ払った。
「こういったこともできます。」
頭もこんがらがらないし、イメージそのままだ。
なかなかいい魔法を作れたと自画自讃した。
「さ、皆さん呆けてないで魔物を殲滅しましょう。」




