102、悪魔は実験場に侵入する
奥に進んだ俺たちは、異変に気づいた。
「な、なんか・・・血の匂いがしない?」
「血の匂いに、なんか腐ったような匂いもしないか?」
マドリーンがキョロキョロしながら言い、カルディルは鼻をおさえて眉をひそめて言った。
確かに血の匂いと肉が腐ったような匂いがする。
袖で鼻をおさえて進むが、匂いはひどくなっているような気がする。
さらに魔物の唸り声や人のうめき声もかすかに聞こえてきた。
「うわっ・・・な、なんだここ・・・。」
全員、辿り着いた部屋の惨状に言葉を失った。
先ほどの檻の部屋と同じくらい広い部屋に天井から吊るされた鉄の檻がいくつもあり、檻の中には魔物とも人ともつかないものが蠢いていた。
瀕死なのか全身血だらけで、動く度になにかの部位がボトボト落ちて床は血とかでぐちゃぐちゃだ。
「う゛あ゛ああ゛・・・」という人ともなにともつかないうめき声で檻の中に横たわる人の口からは、魔物のような腕が飛び出していたり、人の上半身に下半身が獣のような魔物を縫い付けられて血まみれで死んでいる者など、見るも無惨な惨状が広がっていた。
強烈な状況と匂いにみんな吐き気をおぼえ、俺もさすがに気持ち悪いと思って口をおさえて我慢して奥へ進んでいくと、なにやらガチャガチャした音が聞こえてきた。
奥には大きなテーブルと壁には大きな包丁やノコギリなどが立て掛けられていて、ガリガリに痩せた男が1人テーブルでなにかしていた。
「・・・おや?君たちは?」
男はこちらに気付いて話しかけてきた。
騒がれるかと身構えたが、その心配はなかった。
「この素晴らしい実験を見学に来たのかい?くくくっ。」
男の瞳孔は開いて充血していて全身血まみれなのを気にすることなく、ヘラヘラ笑っていた。
一目見て、狂っているとわかった。
「ここはどういったところですか?」
俺が聞いてみると、男は笑いながら答えた。
「ここかい?ここは実験場さ。グラエム王が連れてきた魔物を解体して、魔物の強靭な体で人間の賢さをあわせ持つ最強の生物を作り出す実験の、聖地さ。」
「この生物はなんですか?」
俺は近くの檻を指差して聞いてみた。
その檻の中にはサメっぽい魔物に人の足が生えているが、檻の中に横たわって痙攣している。
「そいつかい?そいつは失敗作さ。肺呼吸できるようにしたが、足と体の神経を繋げられなくて立てないのさ。この部屋の檻の中のは全部失敗作だよ。でもかわいい鳴き声だから、生かしているんだよ。」
「か、かわいい・・・?」
「う゛ーとかあ゛あ゛ーとか鳴いているだろう?身体中痛くて、苦痛で鳴いているなんて、かわいいと思わないかい?くくくっ、もっと聞きたくなるねえ。ヒヒヒヒヒ・・・。」
そう言って男は壁に立て掛けていた血まみれの棍棒を持つとサメっぽい魔物の檻に入って、頭を殴り付けていた。
「ふひひひ・・・。」
「お、奥にまたほら穴があるわ。行きましょ。」
男の奇行に気分を悪くした皆は奥のほら穴に進んだ。
しばらく歩いて、匂いがマシになるほど離れた地点で、一旦休憩することにした。
「こんな惨状になっていたなんて、信じられないわ・・・。」
「いくらグラエム王の仕業とはいえ、ひどいな・・・。」
「あの惨状の次って、なにがあるんだ?」
「さあ・・・。というか、実験は実際のところ成功しているのか?あの惨状を見ると、とても成功してるとは思えないが・・・。」
皆が不安そうに話すのを俺はなんとなく聞いていた。
・・・んまあ、結果はこの先にあるみたいだな。
しばらくしてまた歩き始め、15分位進んで広い部屋に出た。
しかし、今までよりはるかに広い部屋にびっっっしりと木箱が積み上がっていた。
ざっと見ただけで数百はありそうな・・・。
「なんだ?この箱。」
マスティフがおもむろに1番手前にあった箱を開けてみた。
「!?うわっ!?」
中には魔物のような生物が体を丸くして入っていた。
人型っぽいけど狼に近い、俺のいた世界でいう狼男のような姿だ。
魔物は中で寝ていて、マスティフの驚いた声にもまったく反応しない。
狼は緑色なところを見ると、もしかしてウインドウルフか?
「おい!こっちはクレイジーボアっぽい人型のがいるぞ。」
カルディルが隣の木箱を開けてそう言ったので見てみると、確かにクレイジーボアのような人型の魔物が箱の中で寝ていた。
「なあ・・・。も、もしかして・・・。」
マスティフは顔色を悪く俺に聞いてきた。
「実験は・・・成功してたってことか・・・?」
「その通りですよ!」
突如、部屋中にそんな声が響きわたった。
「「「!?」」」
部屋の奥から木箱の上に誰かが飛び乗った。
「ようこそ、カルディル。」
「!?・・・ティーガ様!?」
この町の領主ティーガの姿がそこにはあった。
ティーガは片眼鏡を片手でおさえながらニヤニヤ笑っていた。
すると、奥からなにやらものすごい数の足音がして、俺たちは兵士に取り囲まれた。
「あなた方がここに侵入してくるのを待ってましたよ。気付かなかったでしょう?」
「ティーガ様、なぜ、ここに・・・?」
「この町に入ったときから監視させていましたからねえ。兵士に尾行させていましたし、宿屋の主人や飲食店の店主も逐一報告してくれてましたから。」
「チッ!ここに今夜侵入することもバレていたということは、宿屋の主人に盗み聞きされてたのか・・・。」
カルディルは悔しげに呟いた。
んまあ、宿屋の主人が盗み聞きしているのは知ってたんだが、ティーガと繋がっていたなんて予想してなかったな。
いるのはサーチのおかげで、館に入る前からわかってたんだけどな。
「なぜあなたがこんなひどい実験に協力しているんです!?」
「ひどい実験?魔物と人を掛け合わすというのは素晴らしいアイデアだと思いませんか?元々私は魔物と人を掛け合わす研究をしたくて錬金術を学び始めたこともあって、グラエム王はすぐに私に声をかけて下さった。私は喜んで協力して、この地に秘密裏に実験場を作ることにしたのです。」
グラエム王だけでなくこいつも魔物と人を掛け合わすことを考えていたのか。
この国はイカれたヤツが多いなあ。
「成功体は強靭な体で人間の賢さをもつ、最強の兵士となります。そうすればグラエム王がお望みのヴェネリーグ王国の拡大を現実化できる。そして私は研究を完成させることができる。いいことずくめではないですか?」
「なにを馬鹿なことを!?そんな研究のために人が犠牲になっているのですよ!?」
「ああ、その点は大丈夫です。実験に使った人間はほとんどがスラムや農民など、価値のない者たちですから。まあ、なかにはグラエム王に楯突いた大臣とかもいましたけど。」
ふふふっと笑うティーガはなにも悪びれたような様子はなかった。
「そんな実験、これ以上させるわけにも、成功させるわけにもいきません!」
カルディルはそう言って腰の剣を抜いた。
「ふふふっ、実験はもうとっくに成功していますよ。」
「な、なに!?」
「証拠がここにあるじゃないですか。」
ティーガはそう言って足元の木箱をつついた。
「この木箱全てに成功体が入っています。これだけではありません。この倍は成功体がいると思ってもらって結構ですよ?」
その言葉に俺たちは目を見開いて驚いた。
ここでざっと見ても数百あるのに、この倍がどこかにあるというのか。
「宿屋の主人の報告で、報告書を持っているそうですね?どういう経緯で報告書を手に入れたかはわかりませんが、まあ、あなた方がここで消えればいいこと。死体は魔物どもの餌にでもしましょうかねえ?」
ニタニタ笑ってそう言って、ティーガは兵士たちに指示した。
「この者たちを全員殺しなさい。」




