04.王宮庭園での公演
「今日から公演です。庭園の解放は広く知れ渡っているようなので、いつもよりお客様が多い事が予想されます。問題が起きた場合も慌てず、一つずつ対処していきましょう。では、今日も張り切っていきましょう!」
「おーっ!」
気合を入れると舞台の確認や客席の掃除、グッズを並べたり、チケットの用意などをしていく。それが終わると、出演者は衣装に着替えてメイクをする。僕達は自前の毛皮を整えるだけだけど。
「レッドの寝癖はなんでこんなに頑固なのでしょうね」
「知るかよ。いつも通り頼むな」
「はい、はい」
ブルーが魔法で水を出して毛を濡らし、櫛でせっせと直す。レッドの寝癖は手強いので、ブルーがいつも担当している。
全員の用意が整った所で、マネージャーさんが顔を出す。
「すみません、チケットを売る手が足りません。それと、客席への誘導をお願いします」
「はい。じゃあ、僕とイエローとブラウンは案内でいい?」
「おう。ブルー行こうぜ」
「了解です」
外に出ると、庭の門の前に人が遠くまで並んでいる。僕達が目当てなのか、庭が目当てなのかが分からない。おっ、馬に乗った兵士さんが来た。
「ショーをご覧になる方は私の居る右側にお並び下さい。庭園の見学をご希望される方は左側に並んで下さい。券の販売を今から行いますが、券に書かれている入場と退場時間を厳守して下さい。再入場は出来ません。皆さん、既にご存知の事とは思いますが、ショーの間は、ショーのチケットをお持ちの方しか庭園には入れませんので、ご注意下さい」
ショーを見た人は庭園も散策出来てお得なのだ。確か庭園見学は三百圓だったかな。因みに僕達のチケットは千五百圓です。みんな、見に来てね!
今回は午前十時と午後十五時の二回行う。ショー自体は三十分程で、その後に握手や撮影をする。今日はお客様が多いから、大分時間が掛かるだろう。楽しいから全然苦労じゃないけどね。
列は半々ぐらいか。思ったよりもショーに興味を持ってくれる人が多いな。
「ねぇ、熊さんを見て行きましょうよ」
「えー、子供の見るもんだろ」
カップルの男性に、近くに居た女性や男性達が一斉に振り向く。
「ちょっと聞き捨てならないわね。大人が見たっていいじゃない。あなた知らないの⁉ 格好良くて可愛いのよ! ワルクマが最高なんだから!」
「おう、そうだぜ、兄ちゃん。おっさんでも姉さんでも、一人で見に来てもいいだろうが。俺はな、町でチラシを貰ったんだよ。一人でも友達でも何歳でも来て下さいって、可愛い声で宣伝してたぜ」
その通りです。僕達のショーは全年齢対象なんですよ。
「試しに見て行きませんか? 俺はクマレッドです。お兄さんの為に頑張って悪と戦いますよ」
「では私はこちらの綺麗な女性の為に。クマブルーです。よろしくお願いしますね」
手を取って甲にキスをする。ブルーってああいう事をサラッとするんだよね。僕は恥ずかしくなってしまって、出来たためしがない。
「きゃーっ、素敵! あなたが見ないならいいわよ。私は一人で見るわ。チケット一枚下さい!」
「ちょっ、分かったよ……。俺にもチケットくれるか?」
「はい、ありがとうございます。お二人で楽しんでいって下さいね」
ブルーがパチンとウィンクすると、「きゃーっ、クマブルー、素敵!」と黄色い歓声があちこちから上がる。同じような外見なのにこの格差はなんだ。僕がやっても「可愛い」としか言われないのに……。ホワイトも僕と同じなので空を眩しそうに見つめている。涙は眩しさの所為です……。
「二人共、お客様が来た。案内するぞ」
ブラウンの冷静な声で我に帰る。はい、お仕事をします。
「奥から順番にお願いします。ご覧になられる方はこちらへお願いしまーす」
声を張り上げて誘導していく。お年寄りが来たので、上り下りが少ない前の席に誘導する。
「ありがとうね。ふふふ、可愛さにやられて、思わず回数券を買っちゃったよ」
「わぁ、ありがとうございます! おじいちゃんが毎日来てくれたら、僕はパワーアップしちゃいますよ」
「ふふふ、嬉しい事を言ってくれるね。怪我しないように頑張るんだよ」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
手を振って誘導に戻る。そこへ庭師のおじいちゃんと、昨日見掛けた女の子が手を繋いでやって来る。
「庭師のおじいちゃん、来て下さったんですね!」
「ああ。孫と一緒に見させて貰うよ」
「あ~、お孫さんでしたか。あれ、その髪飾り……」
「拾ってくれてありがとう、熊さん」
「どういたしまして。ショーを楽しんでいって下さいね」
「うん。おじいちゃん、前の席に行こう」
「そうだな。それでは」
お辞儀し合って顔を上げると、ブラウンとホワイトがやって来る。
「あの女の子が、イエローが見たと言っていた子なの?」
「そうそう。庭師のおじいちゃんのお孫さんなんだって」
「成程。髪飾りもあの子の物だったのか」
「うん。手元に戻って良かったよね」
人波が途切れて来たので、グッズ売り場の応援に向かう。
「あ、イエローちゃん! お会計をお願いしてもいいかしら?」
「うん。任せて、ピンクちゃん」
バッグに帽子、ピンバッジ、お財布、靴下、ぬいぐるみなどが所狭しと置かれている。
「リストバンドですね。千圓になります。――ありがとうございました」
今日もレッドのグッズがどんどん売れて行く。ヒーローといえば赤なのだろうか? 僕のも売れないかなぁ。
「熊しゃん、これくだしゃい」
「ありがとうございます。わぁ、イエローのぬいぐるみを買ってくれるの?」
「うんっ。かわいいね~」
「嬉しいなぁ、ありがとう。三千圓になります。――はい、ちょうどお預かり致します。ありがとうございました」
やったよ、僕のグッズが売れました! バンザイしたい気持ちでいると声を掛けられる。
「ピンクちゃんのグッズはないの?」
「リストバンドとぬいぐるみがあります。他は売り切れてしまいました。申し訳ありません」
「じゃあ両方下さい」
「はい。四千圓になります」
その後もピンクちゃんのグッズが飛ぶように売れて行く。僕らよりも人気があるんじゃないだろうか。
「――イエローちゃん、ありがとう。もう一人でも大丈夫よ」
「はい。ピンクちゃんの人気が凄いですね」
「ふふふ、私はゴッキュマンじゃないのにね。でも、仲間だって思えて貰えているようで、とても嬉しいわ」
「ピンクちゃんだって、れっきとした一員ですよ。今度、ヒロイン役で出て下さいね」
「ふふふ、緊張しちゃうわ」
急に肩へ手を置かれて、僕とピンクちゃんの肩が跳ねる。
「それは良いアイディアです。検討させて貰います」
振り返ると、補充の品を運んで来たマネージャーさんだった。
「はぁ~、びっくりした……」
「驚かせてすみませんでした。イエローはそろそろ舞台へお願いしますね」
「了解です」
そして、今日も元気にショーは始まる。
「疾風の如く! クマホワイト!」
「燃える心! クマレッド!」
「変幻自在! クマブルー!」
「明るく照らす! クマイエロー!」
「鉄壁の防御! クマブラウン!」
『我ら、クマ戦隊、ゴッキュマン!』
・・・・・・・・・
・・・・・
・・
「我ら『クマ戦隊、ゴッキュマン』は必ず悪を討つ! この地を平和で満たせ!」
「おーっ!」
手を下に押し合ってパッと離し、横一列に並び直して手を繋ぎ合う。
広い客席が綺麗に埋まっている。今日のお客様は気合が凄かったなぁ。声が最初から大きかったので、ボードを掲げるスタッフさんが非常に嬉しそうだった。僕達も皆の声に力を貰い、元気いっぱいに舞台上を動き回る事が出来た。
「これでショーは終了となります。皆様、今日はお越し頂きましてありがとうございました」
「皆様の声援が力となり、悪に勝つことが出来ました。ありがとうございます」
僕とホワイトが挨拶をして、皆で深々と頭を下げる。大きな拍手が起こり、「ゴッキュマーン!」や「良かったぞ~」などの声が上がる。僕達は皆の笑顔を眺めてから、もう一度深くお辞儀して感謝を示す。この瞬間はいつも本当に誇らしい気持ちになる。それと同時にもっと良いものを届けて行きたいと強く思う。
「この後は俺達と共に撮影や握手が出来ますので、希望されるお客様は順番に舞台へお越し下さい。それと、そちらでグッズを販売していますので、よろしかったら覗いていって下さい」
レッドがそう言うと、庭師のおじいちゃんとお孫さんも楽しそうに会話しながら歩いて来る。今回は王宮で行っている所為か、皆が落ち着いた行動を心掛けているようで、大きな混乱もない。スタッフさんも押し潰されないで済みそうだ。
「皆さん、楽しかったよ」
「熊さ~ん」
庭師のおじいちゃんとお孫さんの番が来た。お孫さんはワルクマさんとボス役の人が近くなると、おじいちゃんの後ろに隠れてしまう。
「キュー……」
ワルクマさんの声が切ない。後で慰めてあげなくては。
「今日はとても楽しませて貰ったよ。この子がまた見たいと言うので、明日も来させて貰うよ」
「わぁ、嬉しいです。お待ちしていますね。――見てくれてありがとう。はい、握手~」
「うわぁ、フワフワだ~」
おっと、離してくれないぞ。じゃあ、もう一回上下に振ってっと。
「いーやーっ! 離さないの! 私のお部屋に連れて帰るのよ」
えーっ⁉ これは困ったぞ。頭を撫でながらお願いしてみる。
「僕はまだまだ悪を倒さないといけないのです。困っている人を見捨てては行けません」
「それは……駄目よね。民を見捨てちゃいけないのだもの。私、諦めるわ。熊さん、バイバーイ」
ん? なんか子供らしくない発言が。まだ五歳くらいだと思うんだけどな。
「今の子、何歳かな? 大人みたいな事を言っていたよね」
「貴族の子のように見えるから、既に教育を受けているのではないか?」
「「ああ!」」
ブラウンの言葉にホワイトと共に頷く。それは十分にあり得るよね。
その後も列が続き、ひたすら握手だ。レッドとブルーは撮影も多いから、少しぐったりしているのが分かる。休憩を多めに取れるように、皆で協力せねば。
「――終わった……」
「レッド、午後もあるのですよ。今からへばってどうするのです」
マネージャーさんとピンクちゃんが、芝生に座る僕達にサンドイッチとレモネードを配ってくれる。
「グッズの売れ行きが良いので、在庫を受け取って来ます。皆さんは休憩をしっかり取って、午後の公演の準備をしていて下さい」
頷いてサンドイッチを齧る。卵サンドおいしい~。
それから毎日、お客様の数が伸びて行く。最初に見に来てくれた方達が宣伝してくれたようだ。
席が足りなくなったので、遠くなってしまうが、もう一面の芝生に席を作った。僕達の一座には、こういう時に便利な透明の幕がある。これを遠い客席の眼前に下げると、すぐ目の前で見ているような大きさで見えるのだ。
この幕はマネージャーさんが調達して来たものだ。こんな凄い魔法具をどこで手に入れたのか聞いたら、知り合いに頼んで作って貰ったと言っていた。顔が広いお方である。続いて「お値段は?」と聞いたらニヤリと笑われただけだった。それ以上は聞かなかったが、きっと凄いお値段に違いない。僕達、頑張って頑張って働きます。分割払いは何回なのかな……。
そして迎えた最終日は、新たな席まで全て埋まり、スタンディングオベーションで終わりを迎えた。グッズも売れに売れて、次の公演分を残して在庫は全て消えた。作る人からも嬉しい悲鳴が上がっているらしい。
庭師のおじいちゃんとお孫さんも見に来てくれて、「お疲れ様」と声を掛けてくれた。今回は握手だけでなく撮影もする。僕のぬいぐるみと共に部屋に飾ると言ってくれて非常に嬉しかった。僕にとっても良い思い出です。
夜は豪華にステーキにラクレットチーズを掛けた物が出た。成人している人達にはワインやビールも振舞われ、大宴会となった。
そんな中で酔ってもいないホワイトが、満面の笑みで鼻歌を歌いながら、カットされたチーズを片手に、部屋中をスキップしていたのが記憶に刻まれてしまった……。メイドさん達が面白がって次々に色々なチーズを与えるので、嬉しさのゲージを振り切ったらしい。僕はあのテンションに付いて行けそうにない。疲れ切ったので、もう寝ます……。
そして、旅立ちの日。朝食を大部屋で食べていると、ブルーがハッとしたように顔を上げる。
「今日はお言葉を頂けるんでしたよね?」
「はい。この部屋へ来て下さるそうですよ」
誰が来るのかな? 貴族に詳しくないから言われても分からないけど。
食後のお茶を飲んでいると、ノックが響く。いらっしゃったようだ。
「失礼致します」
メイドさんが扉を開けると、茶色の髪を黒いリボンで後ろに縛り、シャツと深緑のベスト、ベージュのズボンというシンプルな出で立ちの男性が入って来る。三十代後半ぐらいだろうか? その後ろからは、何故か庭師のおじいちゃんとお孫さんも入って来る。皆さん、お知り合いなのかな?
「皆、席に着いてくれ」
ホワイト達と首を傾げながら椅子に座り、男性を見つめる。
「私は緑の国の王、ターチスだ。一週間の公演、ご苦労だった」
慌てて立ち上がって九十度に腰を折る。はわわ、王様が来ちゃったよ~。
「皆、顔を上げてくれ。畏まる必要はない」
そろそろと顔を上げると、座ってくれと手でジェスチャーされる。庭師のおじいちゃんは、お孫さんを膝に乗せていて咄嗟に立てなかったのか、座ったままだ。それも特に咎めたりしないので、寛大な方なのだろう。
「では、続きを話そうか。私も公演を見に行きたかったのだが、官吏や将軍達に許して貰えなくてな。様子を聞く事で我慢していたのだ」
そう言って、おじいちゃんとお孫さんを示す。ああ、情報提供者なのか。でも、何かおかしい気が……。
「実はこの二人は私の家族でな。父と娘だ。――ああ、そうだ。父の怪我の手当てをしてくれた事、感謝する」
「――っ⁉」
マネージャーさん以外は息を呑む。父って事は前国王様で……娘って事はお姫様⁉ 全員がまた立とうとすると、おじいちゃんに笑って止められる。
「ははは、立たなくて大丈夫だよ。今まで通り、庭師のおじいちゃんとして接しておくれ」
「私もただの女の子として接して下さいませ」
口が塞がらない。ワルクマさん達なんて、カタカタと小さく震えているよ。
「二人は見られるなんてずるいだろう。私もとても見たかったのに……。悔しくてならん!」
王様が拗ねている? レッド達と思わず顔を見合わす。
「宜しければ、ポージングだけでもご覧になりますか?」
「おぉ、頼めるか。私にも見せておくれ」
マネージャーさん、一人涼しいお顔で何を言うんですか! こんなに喜んでいるから出来ないとは言えないじゃないか……。
諦めて立ち上がる。ヒーローは度胸だ!
ソファーを隅に寄せて場所を作り、「では、始めます」というマネージャーさんの声に合わせて声を上げる。
「疾風の如く! クマホワイト!」
「燃える心! クマレッド!」
「変幻自在! クマブルー!」
「明るく照らす! クマイエロー!」
「鉄壁の防御! クマブラウン!」
『我ら、クマ戦隊、ゴッキュマン!』
真ん中のホワイトは片膝を付いて両腕を斜め上に。そこを頂点にして、上から見ると矢印の矢の形になるように綺麗に並ぶ。右はレッド、ブルーの順、左はイエローである僕、ブラウンの順である。両脇の二人は両腕を揃えて斜めに上げ、片足を一歩前に踏み出す。
爆発音と吹き出る白い煙はないが、ビシッと見事にポーズが決まると、王様が満足そうに笑いながら拍手をしてくれる。
「はっはっは、やはり聞くと見るとでは大違いだ。素晴らしいものを見せてくれてありがとう。そうだ、握手もしてくれないか? 娘に散々自慢されたのだ」
カチコチになりながら、ゴッキュマンの全員が握手する。王様と握手……王様と握手ですと⁉ これ、洗って良いのかな? 生きていると物凄い事が起こるもんだ……。
「本当にフワフワだな。娘が連れ帰りたいと言うのも納得だ」
ひっ、僕をじっと見ないで下さい! 僕は皆と一緒に居るんですからね!
「ははは、冗談だ。また公演に来てくれ。その時は必ず皆を説得して見に行くからな」
「は、はい」
喉がカラッカラです。マネージャーさん、パス!
「では、また庭園の解放される時期にご依頼下さい。この度は大変お世話になりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
全員で唱和して頭を下げる。
「ああ。こちらこそ楽しませて貰い感謝している。では、また会おう」
また頭を下げて見送っていると、僕の頭を撫でて出て行く。おぉ、凄い事が起きた……。
「おい、イエロー、もう頭上げていいぞ」
「……固まっていますね」
「イエロー? おーい、聞こえてる?」
「ブラウンとホワイトで部屋まで運びなさい。出発の準備をしますよ」
「「了解!」」
二人が「エッサ、ホイサ」と僕の手と足を持ちながら運んでくれる。だが、僕は体も思考も停止したままだった。
メイドさんや兵士さんに見送られて王宮を後にする。最後にびっくりする事ばかりが立て続けに起きたけど、とても楽しかった。また会えるのが楽しみだ。今度は王様もショーを見られるといいな。
「次は光の国へ向かいますよ。ティム、しっかり付いて来て下さいね」
「了解です」
御者をしているマネージャーさんの横に座り、この一週間の思い出を振り返る。――ん? 待てよ。
「マネージャーさん、今回の仕事って誰から依頼を受けたんですか?」
「宰相様ですよ。私の知り合いが私達の事を王に話したら、どうしても見たいと言われたそうです。呼ばないと仕事を放棄してやると脅されたそうで、庭園の解放の時だったらと渋々承諾したそうです」
王様、それなのに直接見せて貰えなかったんだ。可哀想になってしまう。
それにしても、マネージャーさんは顔が広いな。とうとう王様まで行きついちゃったよ。
「毎日脱走しようとしては、将軍達に捕まっていたそうですよ。宰相様がどうにかしてくれと、一緒に飲んだ時にぼやいていました」
「一緒に飲んだ?」
「はい。最初は困って私の所に来たのですよ。なので、グッズをあげてみてはどうかと提案したのです」
「上手くいったんですか?」
「半日は大人しくなったそうですよ。その後も望遠鏡を提案したり、記録用水晶の撮影を特別に許可したりしたら、すっかり懐かれました。愚痴を言う相手が出来て嬉しかったのでしょうね」
宰相様も苦労しているんだな。王様の愚痴なんて、誰にでも言える訳じゃないもんね。僕の中にある王様のイメージがガラガラと崩れてしまった。
「マネージャーさんは、とても信頼されたんですね」
「契約書に此処で見聞きした事は、一切他言しないという項目がありましたから。喋ったら私はこの世から消されてしまうでしょうね」
「えっ⁉ 僕に話しちゃったじゃないですか!」
「イエローは良いのですよ。あなたは絶対に私を裏切らないでしょう」
「そんなに信じていいんですか? 僕にだって悪い心があると思いますよ」
「あり得ませんね。私からしたら善意の塊ですよ。素直で優しい最高の熊です」
ベタ褒めだ。そして、時々こうして暗い顔をする。本当に謎多き人だ。でも、僕はこの人を気に入って信頼している。
「マネージャーさんにそんな顔をさせる出来事や人は、『悪しき者達を照らせ! 光明!』って倒してあげます。僕はヒーローですからね。大事な人はちゃんと守りますよ」
ニコッと見上げると、呆然としたような顔の後に朗らかに笑い出す。うわぁ、こんなに表情を出すなんて珍しい。
「はははっ! やはり、あなたは最高だ。では、ヒーロー、クマイエロー。私がピンチの時は助けに来て下さいね」
「クマイエローの名に懸けて!」
嬉し気に頭をワシャワシャと撫でられて、僕も思わず声を上げて笑う。
この人がヒーローを求めるなら僕が応える。だって、いつも僕の側に居て支えてくれているのは、この人と仲間達だから。共に笑っていけるように全力を尽くすのだ。
光が必要なら、いつだって照らしてみせる。僕はヒーロー、クマイエローだからね!
王様が最後にポージングだけでも見られて良かったですね。あれがなかったら、宰相や将軍達はずっと「あ~あ~、私が見たいと呼んだのに……」と毎日言われて、うんざりしていそうです。マネージャーさん、良くやった(笑)。先を読んでいますね。