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クマ戦隊 ゴッキュマン  作者: 美音 コトハ
3/5

03.緑の国の名物料理

「はい、着きましたよ。ここが今回の公演場所である王宮庭園です」

「そんな凄い所で出来るんですか⁉ わーい! ――広っ!」


 外に飛び出して唖然とする。これが庭? 馬車で進んでも結構あるよ。あの白くて横に長い建物に王様が居るって事だよね。僕も会う事があるのかな? 


 緑の屋根が眩しいなぁ。窓があんなにあるって事は、それだけ部屋もあるって事だよね。はぁ~、凄いな。


「うわー、でけー」

「まぁ、凄い。木が動物の形になっているわ」

「本当ですね。熊もあるでしょうか?」


 レッドはポケットに手を入れながら周りを眺め、ピンクちゃんとブルーは木を眺めている。ウサギと白鳥とリスはあるけど、熊は無いな。庭師さん、今度はぜひ熊をよろしくお願いします。


 ブラウンは黒い鉄の門を見ている。一般の人にも開放するなんて凄いよね。庭目当てで来る人も居るだろうな。


「私は挨拶して来ますから、そこに居て下さい」

「了解です」


 マネージャーさんは馬車から馬を一頭外すと、跨って行ってしまった。徒歩じゃ時間が掛かり過ぎるもんね。


「噴水を見に行こうぜ」


「駄目だよ、レッド。勝手に動いたら兵士さんにつまみ出されちゃうかもしれないんだよ」


「ちぇっ、つまんねぇの」


「レッド、口を謹んで下さい。王宮では、どこに耳があるか分からないのですよ」


「分かったよ、ブルー。俺はボロを出さないように馬車の中に居るぜ」


 僕もそうしようかな。――あっ、庭師のおじいちゃんが転んじゃった! 慌ててホワイトと一緒に助け起こしに行く。


「おじいちゃん、大丈夫ですか?」

「おぉ、済まないねぇ。爪先が突っかかってしまったよ」


「大丈夫ですか? あら、大変。手から血が出ているわ。手当てさせて下さいね」


 ピンクちゃんが馬車に走って行くと、レッドが馬車から飛び出してくる。


「じいちゃん、大丈夫か? ピンクちゃん、救急箱」


「レッドちゃん、ありがとう。おじいちゃん、傷口を洗うので少し我慢して下さいね」


「済まないね」


 ブルーが魔法でお水を出して、ピンクちゃんが手袋をして傷口を洗う。染みるのかおじいちゃんの手がピクッと動く。


「もう少しで終わりますからね」


 ピンクちゃんが励ましながら洗い、ガーゼで優しく拭くと、傷口を乾燥させない為のテープをペタッと貼る。


「お疲れ様でした。しばらく剥がさないで下さいね」

「分かったよ。ありがとうね」


 そこへブラウンが地面に落ちていたシャベルや草かきを運んで来る。


「おじいさん、どうぞ」


「おや、済まないね。みんな良い子達だね、ありがとう。今日はどうしてここへ来たのかな?」


「ヒーローショーをする為です。明後日から一週間は毎日やるんですよ」


「ああ、そう言えばメイドさん達が話していたっけねぇ。寝る場所はどうするんだい?」


「多分、馬車か宿を取って寝ると思います」

「おや、泊めて貰えないのかい? 部屋がいっぱいあるだろうにねぇ」


 おじいちゃんが眩しそうに王宮を見つめる。つられるように見た僕達は大きく頷く。確かに余るほどありそうだ。でも、そこまではしてくれないだろう。その時、お昼の鐘が鳴る。


「おっと大変だ、戻らないと。みんな本当にありがとうね。私もショーを楽しみにしているよ」


「はい、ぜひ見にいらして下さいね」


 鼻の下と顎に白い髭を生やしたおじいちゃんは笑顔で頷いてくれた。茶色のバケットハットを被り直すと、ゆっくり王宮の方へ歩いて行く。


 遠くておじいちゃんには大変だなと思っていると、大きなカゴが前と後ろに付いた三輪自転車が少し先にとめられていた。良かった、歩き以外の移動手段があったよ。


 見送っていると、マネージャーさんが馬に乗って戻って来た。


「――お待たせしました。皆に良い知らせがありますよ。なんと――」

「なんと?」

「王宮に泊めて頂けるそうです」


 わーっと全員でバンザイする。あんな凄い所で寝るなんて夢のようだ。


「まだあります。ご飯も用意して頂けるそうです」

「マジで⁉ うっひょー、すげぇ」


 レッドとブルーがハイタッチしている。僕はお料理を想像しようとするが上手くいかない。だって、王宮料理なんて食べた事ないしね。あっ、そうだ! マナーどうしよう……。


「何だよ、イエロー。嬉しくないのかよ?」

「レッド、マナー知ってる?」

「げっ」


 呻いて王宮をちらりと見る。分かるよ、それでも食べたいよね。そんな僕らを見てマネージャーさんが苦笑する。


「安心して下さい。我々の食事は大部屋に運んで頂けるそうですよ。お昼は戻らなくてもいいように、サンドイッチなどを作って下さるそうです」


「やったー!」


 今度こそ心の底から喜べる。王様には会ってみたいけど、遠くから見るだけでいいのだ。それが一番良い距離だと思う。


「ではワルクマ部隊がお店を取ってくれているので、お昼を食べに行きましょうか」


「はーい」


 もう一度馬車に乗って町を目指す。どんなご飯が待っているのかな?





「マネージャー、こっちです」


 お店の名前は『満腹☆チーズ』。ホワイトの目がキラリと光る。


「お待たせしました。宿はまだ取っていませんよね?」

「はい。指示通りにお昼の後に探します」

「それなのですが、依頼主のお宅へ泊めて頂ける事になりました」

「全員ですか? 広いお家なんですね」

「はい、とても広いですよ」


 王宮とは言えないもんね。きっと、びっくりし過ぎて口をぽかーんと開けたままになるだろう。


「食事も明日からはむこうで用意してくれるそうです。お風呂は使用人の方達と同じです。洗濯は魔法具や干す場所を貸して下さるそうなので、当番の人はお願いしますね」


「了解です。今回の依頼は良い事ずくめですね」


 ワルクマ部隊の人達が嬉しそうに、テーブルナプキンを広げる。


 いつもは水の確保や買い出し、ご飯の準備などをしなければならない。洗濯は公衆浴場に魔法具が大体置いてあるけど、無い時は手洗いだ。


「そうですね。ですから、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますよ」


 気軽に頷いているけど、知ったらカチコチに緊張するんだろうな。食事を楽しんで貰えるように黙っておこう。


「お待たせしました。緑の国名物、チーズ料理ですよ」


 緑の国は農業と畜産が盛んである。牛が一番多い国なので、乳製品が有名だ。


 いつもは自炊だけど、公演の間に最低一回は皆で外食をして、各国の名物を食べるのが僕達の楽しみだ。


 前が編み上げになっている赤色のベスト、白のブラウス、ひざ丈の黒のバルーンスカート、白のエプロンを身に付けた女性が、蒸かしたじゃがいもの載ったお皿を運んで来た。この地方の衣装なのか、エプロンにお花の刺繍がされている人も居る。


「まぁ、可愛いお洋服」

「ふふふ、ありがとう。この辺りで昔から着ている服なのよ」


 女の子のピンクちゃんは気になるよね。子供サイズが売っていればピンクちゃんも着られるかな。


「お待たせしました。ラクレットチーズですよ」

「うわぁ、でかっ!」

「チーズが半分ですか。どうやって食べるのでしょうね?」


 レッドとブルーが身を乗り出す。直径三十センチはあるだろうか? いつも買うのはカットされたものばかりだけど、元はあんなに大きいものなのか。


「ホワイト、落ち着け。握り拳で机を叩くな」

「ブラウン、チーズだよ、巨大チーズ!」


 ホワイトはチーズが大好きだもんね。この店に居る間中、興奮が治まる事は無いだろう。


 チーズを台に載せ、翳す方が真っ赤になった金属の下に移動させると、上部の平らな面を熱していく。あ~、チーズの良い匂いが広がってきたよ~。


「じゃあ女の子からね」


 表面にちょこっと焼き色の付いたチーズを外して傾けると、包丁で表面をこそげ取る。トローンとしたチーズが、じゃがいもの上に雪崩のように覆い被さる。


「うわーーーっ!」


 全員が歓声を上げて拍手する。あぁ、なんて罪な食べ物なんだ……。


「次はお隣の白熊さんですよ」

「やったーーー! チーズ、チーズ、チーズ♪」


 ナイフとフォークを手に持って左右に揺れている。ホワイト、超ご機嫌だ。お姉さんが笑いながらチーズの表面を熱してこそげ取る。


「ふぅおわぁ~」

「ホワイト、近い。火傷するぞ」


 ブラウンは、鼻が付きそうな距離で見つめるホワイトを後ろに戻す。しっかり者のブラウンが隣に居れば安心安全だ。


「白熊さん、召し上がれ」


「はい! いただきます! ――ふー、ふー、あちっ! ふー、ふー。はむっ。……あぁ、幸せ~。チーズ美味しいよ~」


 笑み崩れて食べている。そりゃあ、トロトロチーズが大量に掛かったじゃがいもなんて最強に決まっているよね。


 僕の番になるにはまだ掛かるので、トマトとモッツアレラのサラダを食べる。トマトは甘酸っぱくてジューシーで、チーズはモチモチしてあっさりしている。こういうチーズを食べるのは初めてだな。


「はい、お待たせしました。チーズハンバーグです」

「はい、僕です!」

「熱いのでお気を付け下さいね。トマトピッツァのお客様は――」

「はい、はい! 僕です!」

「ふふふ、召し上がれ」


 ホワイト、どんだけ嬉しいの。僕のハンバーグも一口食べさせてあげよう。


「ニョッキをお持ちしました」

「はい、私です」


 ピンクちゃんはニョッキか。じゃがいもと粉とチーズとかで作るんだっけ。トマトとほうれん草のソースでおいしそう。


「では、上からチーズをお掛けしますね」


 凹凸のついた金属の棒の上でチーズを動かして削っていく。ふんわりと雪みたいに料理を覆って綺麗だな。だけど、まだまだ削っていく。


「え? えっ⁉」


 ピンクちゃんが驚きの声を上げ、ホワイトが「僕のにも掛けて欲しい……」と呟いている。まだチーズが欲しいのか……。


「はい、出来上がり」

「……ありがとうございます?」


 ニョッキが見えなくなってしまった。店員さんが笑顔で消えると、ピンクちゃんがチーズだけをフォークにそっと載せる。


「いただきます。――あまり塩気がないわ。フワフワしていて口の中ですぐに消えてしまうわ」


「ピンクちゃん、僕にも頂戴!」

「ええ。どうぞ、ホワイトちゃん」


 吹けば飛びそうなチーズをそっと掬って口に持っていく。興奮して鼻息が荒いので飛んで行ってしまいそうだ。


「――はむっ。……おー、溶けた~」


 幸せそうだ。ついでに僕のも分けてあげよう。上に載っているだけかと思ったら中にもチーズが入っていた。あー、肉汁も凄いよ~。


「はい、ホワイト、あーん」

「あーん♪ ――んーーーっ、うまーい! ダブルチーズ!」


 バンザイだけでは足りず、踊り出しそうだ。反応が良いから、店員さんやお客さんがホワイトをずっと見て笑っている。


「まったく、ホワイトは……。まぁ、良い宣伝になるかもしれませんね」


 マネージャーさんが苦笑している。帰りにチラシを貼らせて貰えるか聞いてみよう。


「カルボナーラになります」

「はい、私です」


 マネージャーさんの横に、中央が凹んだ大きなチーズが運ばれて来る。え、何をするの?


「こちらで仕上げをしますね。熱々のパスタをパルミジャーノチーズの中に入れます」


「うわっ、いいのかよ⁉」


 レッドがガタッと席から立って見に行く。僕はすぐ横なのでじっと見守る。店員さんはトングを使ってパスタを中でグルグルと動かす。


「こうすると熱でチーズが溶けてパスタに絡まるんですよ」

「豪快だなー。すげぇ美味そう。俺もこれにすれば良かったかも」

「一口食べさせてあげますよ」

「やった! マネージャーさん、ありがとうございます!」

「あーっ、僕もお願いします!」

「そのつもりですよ、ホワイト。食べさせないと一生恨まれそうです」


 店員さんが笑いを堪えている。すみません、チーズ命なんです。


 お皿にパスタを移してチーズの中を綺麗に掬い取る。溶けたチーズをトローンとパスタに掛け、ベーコン、黒コショウを加えれば完成だ。


「お待たせ致しました。お召し上がり下さい」

「ありがとうございます」


 ホワイトの熱視線に負けたのか、自分が食べる前に差し出している。


「先に食べていいですよ」

「いいんですか⁉ ありがとうございます!」


 クルクル巻くと頬張り目を閉じる。


「――濃厚だ……。一皿、いや二皿食べたい!」

「返して下さいよ?」


 マネージャーさんの冷静な声で我に返ったのか、「えへへ」と言いながらお皿を戻している。


「レッドもどうぞ」


「ありがとうございます。――うんまっ! 濃いわー。俺はそんなに食べられないな。ご馳走様です」


「はい。――うん、美味しいですね。こんな作り方は初めてでしたが、気に入りました。またこの国へ訪れた時は食べたいですね」


 マネージャーさんは食べるのが大好きだから、良いお店に出会えて良かった。デザートにレアチーズケーキを皆で食べ、チラシも快く貼らせて貰い、大満足で店を出た。



 食後の休憩も兼ねて町をぶらつき、服屋さんに入る。ピンクちゃんは先程の衣装を鏡の前で体に当ててみている。


「どう? 似合うかしら?」

「はい。でも、サイズが大きいですかね」

「そうよね……。皆の所へ行きましょうか」

「店員さんに聞かなくていいんですか?」


「ええ。これを奥から出してくれた時に、一番小さいサイズだと言っていたわ。可愛いお洋服を間近で見られたから、もう十分よ」


 男性用の服を見ていた皆と合流して店を出ると、チラシを配った後に王宮へ行く。暫く馬車を走らせていると、後ろの馬車の御者をしているティムさんが声を掛けて来る。因みに悪のボス役をしていますが、普段は少し気が弱くて優しいお兄さんです。


「マ、マネージャー、方向が間違っていませんか?」

「そんな事はありませんよ。こちらで合っています」

「でも、あそこに見えているのって王宮じゃ……」

「そうですよ。言っていませんでしたっけ?」

「聞いていませんよ! こんな普段着でいいんですか⁉」


 予想通りパニック状態だ。後ろのワルクマ役の人達の馬車から悲鳴が聞こえる。悲鳴が「キュー⁉」だなんて職業病だろうか?


「構いませんよ。着いたら舞台を作るのですから、お洒落な服なんて着ても意味がありません」


 そりゃそうだ。いつものツナギで作業するのだ。乗り出して後ろを見ていた姿勢を戻すと、庭の黒い門を通り抜ける。前方にお高そうな髪飾りが落ちていたので、止まったと同時に御者台からピョンと飛び降りる。


「イエロー危ないですよ」

「すみません。髪飾りが落ちていたんです」

「落とし物ですか?」


 ピンクの丸い宝石と真珠が交互に並んだ髪飾りを、マネージャーさんが繁々と眺めていると、メイドさんがキョロキョロとしながらやって来る。


「どうかされましたか?」

「この辺りで髪飾りを――あっ!」

「ここに落ちていました。どうぞ」

「ありがとうございます! 皆様はショーをされる方でしょうか?」

「はい。お時間がございましたら、いらして下さい」

「はい。それでは失礼致します」


 あれはメイドさんの物だったのかな? 子供用に見えたけど……。まっ、いいか。舞台を作るぞー!



「芝生の上に設置していいんですか?」


「はい。門から一番近くにある芝生二面を使って良いそうです。道を挟んでいますから、馬車はまとめて左側に置きましょうか」


「そうですね。一面が広いので客席も納まりそうです。お客様が多い場合は左側に追加席を作りましょう」


 マネージャーさんとスタッフの人が話している間にツナギへ着替え、魔法具をホワイトと一緒に運ぶ。縦横ともに一メートルあり、白い線で魔法陣が描かれた黒い板は、舞台の土台部分になる。


 スタッフさんが巻き尺で測り、舞台が完成した時の大きさに目印の石を置くと、中心を教えてくれる。向かいの芝生に舞台正面が向くようにするんだな。


「ここに置いてくれるかな」

「はーい」

「マネージャー、お願いします」

「了解です」


 僕たちは急いで芝生の上から退く。この中で一番魔力量が多いマネージャーさんが魔力を注ぐのだ。


 黒い板の上に乗って片膝を付くと手の平を置く。カッと魔法陣が白く光り、マネージャーさんの服や艶やかな黒髪が舞い上がる。黒い板が厚さ十センチ程になると四方八方へ伸びて行き、縦四×横八×高さ一メートルの直方体へと姿を変えていく。大きさや形は自由自在で、もっと狭い場所でも公演が可能だ。


「では、細かい部分を作り込むので、皆さんは異空間から部材を運び出して下さい。舞台の影に入口を開けますね」


 僕達が少ない馬車で移動できるのは、マネージャーさんの魔法のお蔭である。本当になんでこんな優秀な人がマネージャーをしているのか、さっぱり分からない。


 開かれた異空間は僕達も出入り出来るので、板や魔法具などを次々と運び出していく。照明を取り付ける柱などの部材も、土台の黒い板のように魔法陣が描かれているので、魔力量の多い人が組み立てて行く。


 この黒い板は、不思議な事に強度があり驚く程に軽い。そして、釘などが一切必要なく、マネージャーさんが作った窪みに近付けると、磁石のようにくっついてしまう。取り外しや固定も、もう一度魔法陣を触って言葉で指示するだけで出来てしまう便利な物だ。


 以前、何で出来ているのか聞いたら、「闇ですよ。便利でしょう」と言っていた。普段は触れない物に強度があるのが不思議でしょうがない。


「何を悩んでいるのですか?」

「マネージャーさん、何でこれは触れるのでしょうか?」


「闇でも風でも結晶に出来るではないですか。この世界は自由自在なのですよ。頭にきちんと思い描くことが出来れば、ね」


 僕の頭をポンポンと叩くと作業へ戻って行く。自由自在か……。僕には高度過ぎて出来ませんよ、マネージャーさん……。


 レッドやブルーは上に組んだ部材に登って、裏方さんとワイヤーをセットしている。芝生ではワルクマさん達が客席作りの為に板へ魔力を込めている。今回は大きい客席を作るから、魔力が空っぽになってしまいそうだ。


 僕やホワイト達は床から飛び出る板や、光を発する魔法具などを床に埋め込んで行く。後は位置のテープを貼らないと。その時、視線を感じる。ん? 女の子だ。


「ねぇ、ブラウン、女の子が居るよ」

「ん? 居ないぞ。どこだ?」

「あれ? 黒い門の外に並んでいる木の側に居たんだけど……」

「どんな子だったの?」


 ホワイトもキョロキョロと探してくれる。


「白いブラウスの上に緑のワンピースを着ていたよ。貴族というか、普通の子とは違う感じがしたよ」


「お城に住んでいる子かな? 仲良くなれたらいいね」

「うん。ショーを見に来てくれたらいいなぁ」


 暗くなる前には作業が終わり、昼に町で買っておいたパンを食べる。


「イエローちゃんは何パン?」

「僕はイチゴジャムです。ピンクちゃんは?」

「私はミルククリームよ。ホワイトちゃんは?」

「チーズパン!」

「まだチーズを食べるのかよ? お前すげぇな」


 レッドが全員の気持ちを代弁してくれた。飽きないのかな?


「だって、おいしいじゃない。ねぇ、ブラウン」


「個人の自由ではないか? きちんと食材や作ってくれた人に感謝出来ていれば良いと思う」


「その通りです。食べ終わったら王宮に向かいますからね。貴重品は持って移動です。部屋に金庫があるそうなので、そこへ入れて下さい。私が先に挨拶しているので、皆さんはしなくて良いそうです。帰る時にお言葉を頂けるそうなので、そこでお礼を伝えましょう」


 もしかして王様から⁉ って、そんな訳ないか。


「まずは部屋割りを発表しますね。ホワイト、ブラン、イエローで一部屋。ピンクは一人で一部屋がいいですか? 怖いようでしたら私が同部屋になりますが」


「一緒にお願い出来ますか?」


 見知らぬ場所で一人は怖いよね。うちは男所帯だから、こういう時はマネージャーさんが一緒の部屋になる。若い人だけど親みたいで、居てくれると安心するとピンクちゃんが言っていた。僕もしょっちゅう同じ事を思う。でも怒らせると滅茶苦茶怖い……。


「はい、分かりました。では、私が抜けるので、ブルーとレッドで一部屋――」


 発表が終わり、馬車で移動している間に貴重品と服をカバンに詰め込む。


「――皆様、ようこそおいで下さいました。ご案内致しますので、こちらへどうぞ」


 王宮の扉の前にメイドさんがずらりと並んでいた。荷物まで持ってくれるなんて至れり尽くせりだ。


「皆様のお部屋は三階となります。王宮内を移動する際は、私がご案内致しますので、遠慮なく仰って下さい」


「ありがとうございます」


 おトイレは部屋にあり、食事の時は大部屋で用意してくれるそうだ。主な移動はお風呂と舞台への往復時だけだろう。


「皆様のご準備が整い次第、お風呂へご案内させて頂きます。外でお待ちしていますね」


 部屋は落ち着いた感じで、緑と白で統一されている。焦げ茶の机やベッドも装飾はあまり無く、庶民でも過ごしやすい。


 荷物を置いたホワイトが、ベッドの間にある小さなチェストの扉を開ける。そこには鍵穴が付いた白い金属の扉があった。


「金庫はこれかな?」

「ああ」


「ブラウンが鍵を管理して欲しいな。僕とイエローは、残念ながら抜けている所があるから」


 鍵の閉まっていない金庫の中に鍵があったようだ。鍵に付いた輪の中に指を入れて、プラプラとさせるホワイトの意見に賛成だ。


「分かった。風呂に行く準備をしよう」


 案内して貰ったお風呂は公衆浴場と同じ雰囲気だった。使用人さん用だから、ライオンの口からお湯がダバーでは無かった。期待していたので、ちょっと残念。





 次の日の朝食も普通だった。スクランブルエッグ、ウィンナー、サラダ、パンだ。乳製品が有名なだけあって、牛乳がおいしかったのでお替りしてしまった。あんまり身構える必要は無かったようで一安心だ。


 朝ご飯の後はリハーサルをして舞台の修正などをする。それが終わると明日からの一週間連続公演に備えて体を休める。庭で自由に過ごして良いと言われたので、噴水の側のベンチでのんびりと読書した。明日からまた頑張るぞー!



緑の国で公演です。今回はホワイトが目立っていますね。チーズ好きにはたまらない国です。

ドキドキの王宮生活ですが、高級料理は出て来ません。使用人さん達と同じメニューです。

今日は続きをこの後に投稿します。お読み頂きありがとうございました。

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