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第7話 氷の女王

「氷の女王だ。氷の女王が戻ってきたケロロ」


 ギルドチャットで誰かがそう叫んだ。

 ギルドチャットとはギルドのメンバーだけが見聞きできる無線通信のようなモノ。

 ついさっきまで新ギルドマスターであるアナナスを称える言葉で溢れかえっていたチャット窓は、一転、氷の女王というワードで溢れかえった。


「ちょっと」


 その一言で便利に呼び出せるのがコテツだ。


「はい。ここにおりまする。『氷の女王』は我がギルドの元メンバー。それも『八廃神』の一人でござるよ」


「なにそれと聞き返さないといけないのは面倒でしょ。私が内輪ネタを分かるわけないんだから、先に答えなさいよ」


 字面だけ見ると私がすごいわがまま姫みたいに読めるけど、私のいってることは正論でしょ?


「八廃神とは、我がギルドの中でも特にゾディアック世界にいる滞在時間が長い猛者に与えられる称号でござる。いや、単なる活動時間だけではござらん。世界に関する知識、戦闘能力そういったものについて並はずれた力を持つと認められた強者にこそ与えられるものでござる」


「ふうん。私の父親もその一員ってわけ?」


「とんでもござらん。ランスロット殿はさらにその上を行く存在。ゾディアック世界の中でも唯一無二の廃神の中の廃神でござるよ」


 それって褒めてるつもりなの?そうなんだろうね。ハァ溜息。


「じゃあ、コテツさんはどうなの」


「情けないことですが、拙者の滞在時間は人並みでござる」


 まあ、弁護士さんだっていうから忙しいんでしょうね。情けないって感性の方が問題よ。家族サービスしてる?


「しかし、このタイミングで氷の女王が現れたとなれば、その目的は一つでござろうな」


 うーん。面倒くさいけど、やっぱりそれって私ってことよね。

 私は、大きくため息を吐くと氷の女王が待つという中庭に走った。


 六花をモチーフとした装飾が施された美麗なる鎧に身を包んだエレガントな女性。

 今まで城と出会った人たちと大きく雰囲気が違う。緊張感がある。

 『氷の女王』の名のとおり、その周囲に強烈な冷気を放っている。魔法の力なのだろう。


「初めまして、新たなるマスター。ランスロットの色違いとはまた芸のないことですね」


「初めまして、氷の女王様。ブラッシュアップと言って欲しいわね。小さな違いの中により洗練された美があるのよ」


「ふふん。見た目は少年だけど、中身は女の子のようね。同じ女の子同士仲良くできればいいのだけれど」


 言葉とは裏腹に女王の表情から親密さはつゆとも感じられず、私を値踏みするような冷徹な思考だけがにじみ出ていた。


「お会いできて光栄だけど、私は誰かさんと違って忙しいの。そろそろ帰らなくっちゃ。また、日を改めてお話しましょう」


「そういうわけにはいきません。私がもう一度この場所を訪れるかどうかは貴方次第。アナナスさん。私と決闘してくださいな」


 剣呑なセリフにも拘らず、女王はうっすらと笑みを浮かべ姿勢さえ変えようとしない。

 随分とクールを気取りたいようだ。私、コイツ、嫌い。

 そんな私と女王の間にコテツが割って入る。


「む、無茶を言うな。アナナス殿は今日この世界に来たばかり。碌に戦闘をしたこともないのだぞ」


「あら、でもアナナスさんは今日この日から栄光あるダイナスト・ドラゴン・アンド・デイドリーマーズの盟主なのでしょう。そうであれば、果たさねばならぬ責務というものもありましょう」


「そんなものは屁理屈でござる。いや、筋の通った理屈であっても中身のないことよ。それがただの一方的な虐殺になることは目に見えておるでござるよ」


「でも、『d4』に時間がないのも事実じゃなくって」


「ぐぬぬぬぬ」


 悔しそうに顔の歪めるコテツ。

 その反応を放っておくことはできない。


「どういうこと」


「次のギルド・ウォーまであと3週間しかないでござる。お話した通り、我がギルドに残っているメンバーは僅か。それもほとんどはあまり冒険に出ることを好まぬライトな冒険者でござる。ギルドウォーになれば勝ち目はござらん」


「それは仕方ないわね。でも、おかしくない?『d4』は世界でも有数のギルドなんじゃないの」


「そう、かつては5大ギルドの一角でござった。元々『d4団』社会人ギルド。ガチ戦闘が得意な者は元々少なかったでござる。それでも有力ギルドであり続けられたのはランスロット殿の力量と八廃神の個人のパフォーマンスのおかげでござる」


 オヤジは無職だったよ?それでも社会人ギルド?


「ふふふ。まぁ私は新参者だけれどね。『後継者戦争』なんて馬鹿な争いに巻き込まれたくなかったからギルドを抜けたのだけれど。もし新マスターに見どころがあるようなら戻ってあげてもいいかなとは思っているのよねえ」


 なるほど。大体の状況は飲み込めた。でも、この女は嫌いだ。


「もちろん。本気を出せば私が負ける可能性は奥に一つもないわ。だから、適当に手を抜くつもりよ。戦闘はセンスなのよね。だから、センスを確認するだけ」


 おもむろに女王が手先を素早く振ると、氷の刃が次々と発射される。

 私は慌てて後ろに跳んでそれを躱した。


「ほうら。ゲームを始めちゃうぞ」


「ま、待つでござる。30分、いや20分だけ時間をくれぬか。最低限の手ほどきだけでも授けてやらねば、後悔もできんでござるよ」


「うーん、そうね。じゃあ条件を1つだけ。新マスターさんは『あの刀』を装備してくること。分かるわよね。あの人の後継者を名乗るんだから、当然アイツを使いこなしてくれなきゃだもの」


 そういうと女王は一陣の風と共に姿を消した

 何だか勝手に話を進めちゃってるけど、私まだ何も決めてないよ?



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