第5話 王の帰還
お城は私の通っている高校よりも一回り小さいくらい。お堀があってその内側に石材で組まれた城壁がある。
「お城というより砦という感じね。無骨な感じで、お姫様はいなさそう。ここが私のおうちなの?」
「いや、そうではござらん。ここはギルド拠点。我々『d4』の本拠地というわけです。実のところを言うと、我々の拠点としては6番目でござったが、あとの5つすべてが他のギルドに奪われてしまい、ここを残すのみとなったでござる」
獣の表情は読み取りづらいけど、たぶん悲しそうな顔をしている。
「それも『後継者戦争』の影響ってことかしら」
コテツは黙ってうなずいた。
月に決められた1週間だけ、ゾディアックの世界は交戦期間となる。この交戦期間の終了時に拠点を実効支配していたギルドがその所有権を獲得するというルール。
ギルド・ウォーと呼ばれ、サービス開始当時はずいぶんと盛り上がったらしい。
なんか大変そうだけど、だからって私に何か期待してもらっても困るからね。
城門を抜けると、中庭が広がっていた。
そこは今まで歩いてきた外の世界と一風変わり、ずっとアニメチックな、それこそ本当の魔法の国といった装いである。
桜の木と電飾で飾り付けられたクリスマスツリーが同居し、空中には七色に光る謎の物体が漂っていた。なぜか道端にチョコレート・ファウンテンがあって、オープンカーが止まっている。キノコのテーブル、火を噴くドラゴンの像、はにわ、トーテムポール、巨大なアメシスト。
ドン・キ〇ーテよりも混沌とした統一感のない空間がそこにあった。
「外装は変更不可でござるが、内部については好きに家具を設置できるのでござる。世界観にそぐわないイベント家具が乱発された時期もあって、住民の間でも意見が割れることもありましたが、我がギルドでは一応何でもアリアリルールとなっておるでござる」
コテツが今の状況を快く思っていないことは何となく伝わってきた。ロールプレイ重視派っぽいからね。
屋内に入ろうとする私の下に、膝くらいの高さしかない奇妙な生き物たちが複数集まってきた。
「わーいわーい。新しいギルドマスターだケロ!」
「よろしくだケロロー!!」
「歓迎の舞デス」
彼らはデフォルメされた直立したカエルのような姿をしていた。分かりやすく説明するとケロケロ〇ろっぴとか、ケロ〇軍曹のパクり?その体色も個性的で、赤、青、黄色、紫とバラエティに富んでいる。
その場でスピンしたり、バク転したり、奇妙な踊りを踊ったりして、私を歓迎してくれている。
「わーい、すごく可愛いいよぉ。俺はアナナスっていうんだ。よろしくな!」
「彼らはクロウク族でござる。ゾディアック世界ではマスコット的な存在で、どこでも集団で行動していることが多いですな。赤いのがピコタロウさんで、青いのがマナミさん。黄色いのがキマメさん、紫がオルソラさんですな。正直、区別がつかなくなることも多いでござる」
「彼らもギルドメンバーなの?」
「もちろん。特に彼らは冒険に出ることもなく、ここで雑談していることが多いです」
ゲームの中でも雑談ってなんだか面白いやつらだ。
私が別れを告げると、打ち上げ花火まで上げてくれた。ありがとうね。
場内でもみんなが私を歓迎してくれる。
気が付けば私は鼻歌を歌っていた。気分がいいね。
そうして行きつく先は玉座の間。赤い絨毯の先には、黄金で縁取られた玉座があった。
今は他に誰もいない。
「あそこ、座ってもいいの?」
「もちろんでござる」
私はダッシュで玉座に駆け寄ると、飛び乗るように玉座に腰を掛けた。
ふかふかだ。
「ふぉふぉふぉ。余は苦しゅうないぞ」
ギルドマスターって会社でいえば社長だよね。
つまりは偉そうに椅子に座ってゴルフするだけの仕事。
こうして椅子に座ってるだけでアルバイト代がもらえるなら悪くないかも。
コテツも嬉しそうにこちらを見つめているし。
私はぼんやりと天井のシャンデリアを眺めていた。
慣れない体験が続いて、今日は少し頭がオーバーフロー気味。
ゲームの中で眠るのも面白い体験かも。ふあぁぁぁぁぁ眠くなってきた。
寝ている間も、バイト代は出るよね……
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うとうとする私の耳に 『パパパパーン』と突然のファンファーレが鳴り響く。
『あなたのギルドマスター承継が正式に承認されました』
メッセージウィンドウが開き、大きな文字が私の目の前に現れた。
「登録完了でござる。いやぁ、めでたしめでたし。我がギルドは社会人中心であるため夜に顕現するメンバーが多いでござる。とはいえ、アナナス殿を夜遅くまで預かるわけにはいかぬでござるから、着任パーティは次の安息日に行うでござる。よろしいかな」
もう、何かするなら前もってちゃんと知らせてよね(私が聞いてなかっただけかもしれないけど)
コテツは何やらいろいろ計画しているようで、忙しそうにしている。
私はコスタ・ブランカ君も参加させるようにとだけ厳命した。