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第4話 私、大地に立つ

「うっわぁー! すごーい!!」


青い空 白い雲 一面に広がる大海原。

全天型ヘッドマウントディスプレイに映し出された世界は、私の予想をはるかに超えて美麗だった。


「あー、見て見て鳥が飛んでる。水平線には船も見えるよ!」


 童心に帰ってはしゃぐ私。すぐ傍らには獣の顔をした大男が佇んでいる。


「仙石さん。マトウ君は来てないの?」


私は虎の頭をした大男に向かって話しかけた。


「コテツでござる」


 ゲーム世界の仙石さんの声には様々なエフェクトがかかっていて、重厚な響きがした。


「ははは。『ござる』とか受ける。わら」


「拙者はコテツ・ヤギュウでござる。お嬢、これは絶対的な掟というか、まぁマナーというべきものでござるが、ゾディアック世界では地球世界の事柄について触れるのはタブーなのでござる。そして、拙者はコテツ・ヤギュウであって、仙石何某ではござらん。これだけは守ってほしいのでござる」


 私が、コテツというキャラクタの顔のフォーカスを充てると、すぐ脇に小さなウィンドウが開いた


『 コテツ・ヤギュウ ヒューマン(ホワイト・タイガーのライカンスロープ) 

  サムライ Lv200                          』


 なるほど。RPGとはロールプレイングゲーム。

 役割を演じるゲームなのだ。

 おままごとみたいでダサーいなんてことを私は言わない。どんな遊びでも全力を尽くさないと本当の意味で楽しむことはできない。

 なのでその点を反論するつもりはない。


 「らいかんすろーぷ?」


「ライカンスロープというのは狼男の仲間みたいなものでござる。神々の罰を受け、獣の肉体に封じられた真人種のことをでござって……」


「あーストップ。ストップ。そういうの要らない」


 なんでひとつの単語を説明するたびに、別の専門用語が出てくるのかなー。

 そんなの聞いてたらいつまでたっても終わらないじゃない。

 アルバイトだって割り切ってはいるけれど、延々とオタク用語の説明を聞きたいわけじゃない。


「コテツさんはホワイトタイガー男ってことね。了解、バッチグーよ」


「お嬢。ばっちぐーとは何語でござるか?」


 これだから平成生まれは困る!


「そんなことより、マトウ……って言っちゃダメなのか。ああ、めんどくさい」


「彼はコスタ・ブランカでござる。コスタもインしてると思うでござる。メインメニューからギルドタブを開いてメンバー一覧を表示させれば、ログイン状態かどうか確認できるでござる」


 専門用語の羅列に頭が痛くなるけど、ゲームの操作関係は予習してきたから大丈夫。

 左手のコンソールを操作して、こーやってあーやって、ほうら。


 空中に開いたウィンドウには、いくつもの名前が並んでいる。その数ざっと40くらい。

 名前が白く明るいのがログイン状態。灰色の暗い状態のメンバーがログアウト状態ってことね。自分の理解力が天才過ぎて怖い。

 コスタ・ブランカという名前も確かにあったけど、今はログアウト中みたい。

 残念だなぁ。

 あれ、私なんで残念がっているの。あんな奴のことなんてどうでもいいのに!

 なんて乙女チックな独白も織り交ぜつつ。


「メンバーってこんなにいるんだ。すごーい」


「とんでもござらん。たったのこれだけでござる。ランスロット殿が亡くなるまでは『d4』は300名の定員限界まで埋まっておったでござる。それがランスロット殿が亡くなった後の、通称『継承者戦争』によってギルドは分裂。わずかに残ったのが今のメンバーなのでござる。悔しいでござる。悔しいでござるよ」


「ふーん。ゲームの中でもなんだか面倒くさいわね」


 まぁどこの部活でも人間関係のこじれ話は聞くからね。そういうのが普遍的だってことは分かるけどさ。


「ゲームとか言っちゃだめでござるよ。お嬢。いや、それよりも早く済ませておかなければならない重要な手続きがござった」


「今我々がいるのは、特殊な空間。アバター作成空間でござる。お嬢のアバターは現在、ランスロット殿のお姿そのものでござるが、そのままでゾディアック世界に帰還するのもいろいろ不都合があると思うでござる。お嬢は、お嬢でご自身のアバターを作るでござる。とりあえず名前はランスロット・フォン・グランダルメ2世でいいでござるか?」


 そうか。仙石さんがコテツであるように、私、曲輪葵(くるわあおい)がそのままゾディアック世界に来ているわけじゃあないのだ。アバターすなわちゾディアック世界での私の分身が必要になる。


「いいわけないじゃない!なんでそんなダサい名前にしないといけないのよ。第一、イギリス人なの?ドイツ人なの?フランス人なの?無茶苦茶じゃない、その名前」


「いやいや。ランスロット殿はゾディアックの民でござるよ。確か生まれはカプリコーン公国だったはずでござる」


 なりきり面倒くさい。


「あーそういうのはいいから。とにかく親父の名前をそのまま引き継ぐのなんて却下。絶対に却下よ。」


「ううう。それならば、せめて家名のフォン・グランダルメだけは残して欲しいでござるよ」


 グランダルメ。大陸軍。家名として意味不明だけど、私自身このゲームの特別の思い入れがあるわけでもなし、ある程度は雇用主の意向に従ってあげる。


「そうねぇ……フォンは省略するとしてフランス風の名前にすればいいね。はい、決定。

私の名前はパルフェちゃん。パルフェ・グランダルメね!」


「お、おう。まぁ、名前については自分自身、アバターに愛着がわくものが好ましく、拙者が口をはさむことではござらんな。早速登録の手続きを……」


「ちょっと待って! 外見も変えることはできるのかしら?」


「もちろんでござる。性別も女の子に変更するでござる」


 うーん。名前を決めるのは外見を決めた後のほうが良さそう。

 親父の作ったキャラクタをまじまじと観察をするのは嫌だったので、ログインの時もよく確認をしていなかったんだけど、私のアバターってどんな姿をしてるのかしら。

 私の思考を読んでコテツさんが何処からともなく姿見を取り出す。

 鏡の中に写っているのは少年漫画の主人公のような、まだ背の低いツンツン髪の少年。

 発想が完全にガキだ。

 親父の顔を思い出すと、このアバターを無茶苦茶のぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動に駆られるけど、なんだかこの少年のことを嫌いにもなれなかった。

 ゾディアック・オンラインでは外部でモデリングしたデータをアバターの外見として取り込むことができるらしいけど、ランスロット少年の外見も誰かが作ったオリジナルである事がわかった。

 そして、親父自身が作ったのでないことも。あの親父に絵心があるはずもなく。


「はー、しかもヘテロクロミアって完全に中学生の発想よね。ここは私が大人の女性のセンスてやつを見せつけてあげる。

 造形はこのままにして肌を褐色に、髪の毛を銀髪に変更して頂戴。ふむふむ。ツンツン髪はやめて自然な感じに、あと表情は少し憂いのある感じにしようか。男の子だけどピアスをつけちゃうあたりが私のセンスが光ってるぅ」


 色の変更と既存パーツとの流用だったので、アバターの作成に時間はかからなかった。


「性別は男のまま。少年キャラで行きましょう!


 本当の自分とは違うキャラになる。こういうのができるのもロールプレイングゲームの醍醐味でしょ?

 ランスロット君よりも当社比で120%かっこよくなったアバターがそこにいた。


「この外見でパルフェちゃんだと、ちょっと可愛すぎるわね。アナナスにするわ。アナナス・パルフェ・グランダルメ。それが私の名前よ」


 私は世界に対してそう宣言した。

 何かを生み出すことはとても楽しい。


「素晴らしい。我らの王の新たな王の誕生でござるよ!」


 王になるつもりはないけれど、次のリーダーへの引継ぎが終わるまでの1ヶ月ばかり、この世界を楽しんでみようかな。そんな気持ちに私はなっていた。


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