第1話 恋もそれ以外もサプライズ
私の名前は曲輪葵17歳。地味で冴えなくて、モテないけれど、元気いっぱいの高校2年生。
1か月前にパパを亡くして気持ちが沈んでいたんだけど、そんな私にサプライズ。
なんだと思う?
なんと、学年イチのイケメン男子である馬頭君が突然、私に話しかけてきたの。
放課後、時間をくれないか。校門で待ってるだって。
嘘! なんで私なんかにマトウ君が!?
ドキドキが止まらないよぉ。
なぁんてな。ワラ。
こんなことでイチイチ動揺するような私ではない。
現実世界ではドラマチックなことなんてそう起こるはずもない。どうせつまらない雑用を押し付けられるか、他の女子を紹介してほしいとかそういった話に違いない。
よりによって人付き合いの悪い私に頼むなどマトウ君も抜けているな。
ああん。それとも陰湿なイジメかしら。
売られた喧嘩はいくらでも買ってやろうじゃないのとは思うけど、残念、ワタクシ来年は受験を控えておるのでした。国立大学の医学部を目指すワタクシにそんな余裕はどこにもないのだ。
はぁ、ちょっとカッコいい男子に話しかけられたからって、のぼせ上がったりするわけないじゃないの。そんな単細胞ならもっと楽に生きてます。脳みそ空っぽなら夢詰め込めるのだ。どっこい、私の心はシビアな現実の中でからからに干からびているのでした。
パパを亡くして気分が沈んでる、公にはそういうことになってるけど、正直あのダメ親父が死んでせいせいしているわ。昼間っから働きもせず家でゲームばかりしてるクズの中のクズ。ママに愛想をつかされて家から追い出されてもう5年。一応籍だけは残っていたみたい。母親にだって同情なんてしないよ。あんな男と結婚するほうも悪いんだ。
そんな二人が私にくれたのは、つつましい貧乏生活だけ。
私の心は石。私の心は鉄。鉄の王国の石の王。石の王国の鉄の王。鉄諸島に冬来るよ。
なんてことを言っているうちに約束通りに校門まで来た私。
マトウ君はまだみたい。
これじゃ私が期待して待ちわびているみたいで最低です。
マトウ君はチャラ系のクズ男子どもと違って、いつも物静かで誰からも距離を取る。教室の片隅で本を読んでいるようなタイプなんだけど、オタクというわけでもなくスポーツも得意みたい。それでいて少しミヤビな雰囲気もあって、なんていうか薫風感?それがある。
え?そんな言葉はないって?
今グーグルで調べたけど、たしかに無かった。というわけで私が特許をとるね。
薫風感。使用料は1回50円。
えっと何の話だっけ?
そう、マトウ君ね。イケメンな上に安全度も高そうなので、当然女子の中でも人気は高い。
浮いた噂も聞かないけど、そもそもワタクシそういうものには疎いもので。
まーでも寡黙といえば聞こえはいいけどトーク力低し!ってことでしょ。
顔がいいくらいで、私が心を許すとは思わないでいただきたい。
私だって、メガネを取ればそれなりに可愛いのだよ。本当に少しだけな。
化粧っ気がないのも校則を持っているからだし、だいいちケツを真っ赤に染めたメス猿が偉いってわけですか?
「商店街にある喫茶マグノリアってところ。曲輪さんは知ってる?」
きゃー
って、いきなり話しかけてきたのはマトウ君。気が付けばそこにいた。
いや、私が夢中で話を聞いていなかっただけかもしれない。考え事をすると周りが見えなくなるのが私の悪い癖。
待ってませんよ。今来たところ。
はー、それにしても隣に並ぶとデカいなマトウよ。
185cmはあるか。
「マトウ君てば部活には入ってないの。バスケとか凄く似合いそうなのに」
「ああ。膝に矢を受けてしまってな」
そっか。だったら仕方ないね。
マグノリアって知らないけれど、今日はマトウ君のおごりなのかしら。
お代わりしても大丈夫かなぁ