猜疑1
5番街区
翌日早朝。
八城達は中央からの緊急伝令を聞いていた。
その内容というのが……「至急この放送を聞いた遠征隊隊長各員は、隊員を集め、速やかに中央に集結せよ!繰り返す!この放送を聞いた隊長各員は隊員を集め速やかに東京中央に集結せよ!」
通常であれば作戦参加地区である1、2、3、11、22、33、番街区のみに流すであろう緊急伝令をこの5番街区にまで流しているといことは、つまり召集しているのは八番隊も例外ではないという事だ。
「どうするべきか……」
「どうする大将?ばっくれちまうか?」
それも一つの手ではあるが、この居住区の住人に八城達は目撃されてしまっている。
この放送を聞いていませんでしたは、通らないだろう。
「それやったら間違いなく回廊行きになるんじゃないですか?」
桜の言う通り。緊急伝令を聞いていて意図的に行かなければ、まず間違いなく回廊行きになるだろう。
良の情報を集めるなら、はぐれて時間があまり経っていない今しかない。
一度中央に戻れば、他の作戦に参加させられる事は明白だ。
そうなれば良の足取りを追う事は困難を極めるだろう。
だが何より八城が気にしているのはこの緊急伝令。
間違いなくツインズ絡みの作戦内容になる。
なら……
八城は一つ最も取りたくない手段を選ばざるを得ない。
「俺とお前達も5番街区で逸れた事にしよう」
八城がそう言葉を切り出す。
「お前達二人には、良の足取りを追ってもらう」
八城は首元にある三枚羽の徽章を時雨に手渡した。
その徽章はいわば特権階級の様な代物だ。
「これがあれば他の居住区に自由に出入りする事が出来る。」
「大将はどうするつもりだ?」
「俺は一度東京中央に戻る」
そして八城本命の、もう一つの物を桜に渡す。
「たっ隊長……これ……」
八城は中央の緊急伝令は間違いなく大規模作戦をするための人集めだ。
人の多数参加する作戦に雪光を持って行く事は出来ない。
それは八城と柏木が決めた取り決めだった。
であればこの段階で桜に渡してしまう事も悪い手では無い筈だ。
「中央に行けば間違いなくこいつは使えなくなる。だからお前が持ってろ」
八城は雪光を桜に手渡した。
「また、いっ……いいんですか?」
桜は躊躇いがちではあるが、雪光をしっかりと受け取った。
「ああ、危なくなったら迷わず抜け。出し惜しみはしなくていい」
たったこれだけ。これだけが今の二人にしてやれる全てだ。
「頼む」
「おいおい!随分と殊勝な心がけじゃねえか!なんだ?ちったぁ私たちを信頼する気になったのか?」
時雨は愉快そうに言いながら、その美しい三枚羽の徽章を太陽に照らし合わせている。
「それは違う。俺は結果でしか判断しない。だからお前らも自分の強さは結果で示せ」
「か〜!うちの大将は手厳しいぜ!なあ桜!」
「はい。でもその方が分かりやすくて、私たち好みじゃないですか?」
桜は雪光をキュッと握り、左腰に固定した。
「ちげえねえな。」
時雨はその腕章を首から下げたアクセサリーの一つの中に通し、首から下げると胸元で三枚羽の装飾がキラリと光る。
八番隊は5番街区入り口前に集まる。
そこには冴子……良の奥さんの姿もある。
「引き受けてくれて感謝するわ八城君、良をお願いね」
冴子は何度目になるか分からないお礼を八城の達に告げた。
「元々一華の情報は集めなければいけなかったんです。冴子さんのせいじゃありませんよ」
そう返す八城に冴子はもう一度深く頭を下げた。
「桜、時雨。死ぬなよ」
「大将もな!」
「隊長も!」
そう言って桜と時雨は隣4番街区に向かって行った。
あの二人は強い。大丈夫だ。そう心に言い聞かせる。
そして、八城も中央に向かって歩き出す。
それは朝の木漏れ日が射す時間の出来事だった。




