十善戒8
「せっかくここまで来て、お前たちが揃ってる。俺はお前たちと一緒にオヤジを迎えに行きたい」
これ以上の好機はおそらくもうないだろう。
血の繋がった九音と父を唯一知る紬とであるなら東雲七瀬を迎えに行くこれ以上の適任はいない。
「ずっと、心残りだったんだ。オヤジは感染者に噛まれ、そして俺達を逃す為に『赤目』……感染者を引き寄せる感染者を引きずって空かない部屋の中に閉じ籠った。俺はあの部屋にまだ行けていない」
切っ掛けが欲しかったというのもあるが、一番大きかったのは一人であの場所に立ってしまったら八城は父を失ったという事実を認めなければ行けない。
八城一人ではきっと受け止め切ることが出来ない。
「頼む、お前たちにしか頼めないんだ。俺と一緒に行ってくれないか?」
涙を拭き、紬から離れた九音は一つ大きく頷いて見せた。
「いいよ、お兄ちゃんがそれで割り切れるなら付き合う。でも紬さんはいいの?昔の場所ってその……」
気遣う九音の言いたいことは理解できる。
多くの同級生と共に過ごした学校という場所は、紬にとって多くの同級生を失った場所でもある。
それを知ってか、九音は気遣うように語尾を濁すが、紬の様子は淡白なものだった。
「あの場所に辛い思い出はない……と言ったら嘘。でも辛い思い以上に私はあそこで八城くんに出会った。思い出にするなら私にとってあの場所は大切な場所。それに、たとえ行くのが嫌でも八城くんが私を必要とするなら私は何処へでも行くと決めた」
「決まりだな」
やるべき事を決まった。行くべき場所も決まっている。
なら後は向かうだけだ。
東雲七瀬が待つ『私立九十九里附属小学校』へ




