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プラナリア  作者: りんごちゃん
背水の牙城
332/386

絶戒1

とっぷりと日が暮れた夕刻過ぎ、麗と初芽に拘束されたた八城たち3名は隔離施設から解放された。

日が落ちるという条件下はエルダージャックの能力との兼ね合いが関係しているのだが、それは別の話だ。

八城は隔離施設から早々に九十六番と十七番に連れられて、評議会会場になっている建物へと移送された。

鳥籠に繋がれた鳥の如く、厳重な檻に手錠と足枷を付けられあまりいい気分ではないものの、鬼神薬の前任者、つまり一華の前例があるのでこの扱いには納得するしかない。

分厚い扉を開くと続いて無駄に沈み込むカーペットを進み、更に奥へと進んで行くと明かりのついた講堂が見えて来ると、中央によく見知った顔が二人、八城と同じ装飾が施されている。

「よう、菫に桜。誕生日でもないのに随分可愛いアクセサリーを貰ったもんだな、早速おめかしなんて、二人揃って舞踏会にでも出掛けるのか?」

「隊長こそ、その鉄のブレスレット全然似合ってませんけど、普段お洒落なんてしないのにどういう心境の変化ですか?」

八城と桜、幼い見た目の菫でさえ身体の(至る所、首元や腕、足まで)にもそれぞれ付いている拘束具は決して飾りではない。

動きを封じ込める事でようやく対等に語り合う事ができるのが鬼神薬適合者とクイーンへの対応という事だ。

手元を拘束している鎖をじゃら付かせてみせる桜だが、ふざけた態度とは打って変わり顔色は最悪と言っていいだろう。

なにせ、中央に座らされている3人は鎖につながれ、四方を鉄格子に囲まれている。

これでは猛獣を通り越して化け物扱いと言っても差し支えない。

「これは、人の扱いじゃないですね……」

「仕方ないだろ、俺達が暴れ回ったら収拾が付かなくなる。当然の配慮だ」

評議会において、鬼神薬の取り扱いをするのならば絶対の条件として鬼神薬適合者の拘束を義務としている。

菫に至ってはクイーンという未知の生命体という取り扱いに、評議会は慎重に慎重をきしてこの場に出席させている。

3人が一同に暴れだしてしまえば、一華のときの様に手が付けられず此処にいる全ての人間を殺してしまいかねない。

それに桜に関しては三シリーズではなく菫からの治療を経ているため、ある意味八城より警戒されていてもおかしくない存在だ。

「一応お前たちの東京中央での状況はテルから聞いてるが、見た限り何もされてないんだよな?」

エルダージャックの特性上、エルダージャックと会敵したと思われる隊員は傷がなくとも最低日没までの隔離期間が設けられるのが常となる。

さくらと菫の場合だと、その隔離期間中を利用して東京中央内で何をされるか分からかなったため、八城は急ぎ東京中央へ戻ろうとしたのだが、現在の元気な桜と菫の様子を見る限りその心配は必要なかったようだ。

「まぁ無事で良かった。しかし隔離期間無しで解放されたらしいが、お前らどういう手品を使ったんだ?」

尋ねる八城に桜は視線だけで上段に座る一人の男を目指しする。

「それは私達じゃなくて、あそこに座る一〇一番隊が別動で動いてくれていたみたいです。私達が夕刻前に東京中央に着いたとき、私達も別の隊員の方々に囲まれていたんですけど、101番隊の方々が駆けつけてきてくれて私達がエルダージャックと会敵していない事を証明して頂けました。時雨さんとマリアさん私達とは別行動で、美月と桃と一緒に孤児院です」

八城と喋る合間も桜は横に置いてあった焼き菓子を菫の口へと運び、手元のココアの入ったマグカップを甲斐甲斐しくも手渡していく。

「……さっきから気になってたんだけど、なんでお前たちだけお茶もお茶がし出されて、姪っ子が帰って来た時にみたいな待遇なの?」

八城の隣り二つの席にはお茶とお茶菓子が用意され、八城は隔離されていた手前何を食べておらず後から来るのかと待ってみるが、誰も八城になど見向きもしない。

「俺には全然来ないし、何?お前らだけに特別なの?」

「これは私への待遇じゃなくて、菫さんへの待遇ですよ!私だってお茶菓子食べたいのに!」

「いっぱいあるからみんな食べるなの、すっごく美味しいなの」

甘いお菓子に瞳をキラキラさせて手渡して来る菫から、八城と桜は手錠をされている状態のまま器用に焼き菓子を受け取ると、手のひらに伝わるのは表面に凹凸である。

気になって裏返してみると、何やら文字が描かれていた。

「この焼き菓子もしかしなくても、作ったのは北丸子か?」

まじまじと焼き菓子を見つめる八城がそんな事を言うと、桜は驚きながらも一口焼き菓子を頬張った。

「そうですよ、八城さんがくる少し前に丸子さんが来て菫さんにって言って置いていったんですよ!わざわざ私に食べるなって言い残して!……って、あれ?でも食べてもいないのによく分かりましたね?」

菫から貰った焼き菓子をモシャモシャ食べている桜の疑問は最もだが、その答えは目の前にある。

「いや……なんていうか、この焼き菓子に書いてあるんだよ、本人の名前が」

焼き菓子の中央には、丸子の文字がデコレーション文字で印字されており、子供が喜びそうなとても無駄な気配りが感じられる。

「まぁ、そうだよな。アイツも研究者としての代表だし菫がいるとなったら何がなんでも東京中央に来るだろうけどさ……」

仄かに温かい焼き菓子は、きっと焼いてから間もないのだろう。

出来立てを渡したとなればと考えて、八城が周りを見渡すと半円に並べられた座席の上の方に遠くから凄まじい形相で睨みつけて来る丸子を見つけ、八城は空腹よりも恐怖が勝り受け取った焼き菓子をそっと包み紙へと戻す。

「あれ?隊長食べないんですか?食べないなら私が貰っちゃいますね!」

「やめといた方がって……あぁ、俺言ったのに。後で丸子に何言われても知らないからな」

「ほふぇふほぉえ?」

「なに?なんて?喋るなら全部食い終わってから……」

そう言いかけた八城は、辺りの静か過ぎる空気に、状況を即座に理解したが、隣りの阿呆は未だに指に挟んだ焼き菓子を口の中に放り込む。

「ほふぁへフフふぁふふぇんほ」

いつも通りの阿呆面の桜と小動物のように甘い焼き菓子を齧る菫の咀嚼音以外何も聞こえない事に気が付いた。

当然、この場には数十人を超える人間が一同に介してるわけで、これが意味しているのは結局中央に居座る3人以外は誰一人として言葉を発していない。


柏木を見れば、早く黙らせろと言いたげな不気味な笑みを貼付けている。

「ちょっと、お前ら好い加減食うのをやめてくんない?何言ってるのかさっぱりわかんないし、そもそも俺達が居る場所が評議会の中心なんだから、こんな和やかな雰囲気で居られる方がおかしいし、何より俺達が喋ってるせいで評議会が始められなくて困ってるんだよ」

全体各部門の代表者の出席は十名ほどで、半数以上の出席が見られる。

正直な事を言ってしまえば、この評議会の場で決める事などない。

裏で手回しされている答え合わせをして、全ての人間に周知させる手順の一つが、仰々しくも用意された評議会という場所だ。

この場所でどれだけ他人に悪態をつこうが、悪印象を与えようが決定事項が覆る事は原則ない。

……そう、原則はないのだが。印象が悪い事には変わりない。

斜め正面の二つ上の席に座る柏木は今までに見た事のない形相で此方を見下ろしている。

全体の雰囲気にようやく気が付いたのか、桜は焼き菓子を飲み込み気まずげに肩を小さく縮こまらせ、柏木は咳払いの後に席から立つ。

「では、評議会二日目の夜を始めよう」

そんな柏木の厳かな言葉から、始まったのだった。

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