表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラナリア  作者: りんごちゃん
背水の牙城
324/386

帰郷8

瓦礫の山をまた一つ登り、前を歩くマリアの緩く曲がった金髪の毛先に大きくため息をつく。

「なぁ!金髪!会話がないハイキングなんて寂しいじゃねえかよ!そろそろだんまりキメ込んでねえでよ、さっきの大将との言い争いの理由ぐらいは教えてくれてもいいじゃねえのか?」

出発してから四度目となる時雨の問いかけにマリアはやはり聞こえない振りをして、振り返ることもしようとしない。

だが、回数を重ね無視されているイライラと疲労が溜まる道中、さらには東京中央が近くなるに連れて時雨の焦りと共に堪忍袋も限界が近かった。

「金髪よう、もう随分と長い付き合いだが私はお前が声を荒げたところを初めて見たぜ、焦った顔も初めて見た。化け物相手に一歩も引かねえてめえが焦るなんて、余っ程のことなんじゃねえのか?」

尋ねた時雨の言葉に、ピリ付く空気の中桜は助けを求める様に視線の先に居るマリアを見つめるが、瓦礫に山を掻き分けて先頭で黙々と進み続けるマリアに対して遂に時雨は痺れを切らす。

「あぁ!もう!だめだこりゃ!うんともすんとも言いやがらねえ!桜!どうやらコイツ耳がイカレちまったみてえだ!ぶん殴って治してやってもいいか?!」

「ちょっとなに言ってるんですか!駄目に決まってるでしょう!ちょっとって仲間ですよ!!時雨さん人の言葉を無視して殴り掛からないで下さいって!ちょっと落ち着いて下さいよ!」

本当に殴り掛かろうとする時雨を桜は菫と共に押さえつけるが、時雨は止まろうとする素振りも見せず、桜と菫でどうにか時雨を押さえ付ける。

「なぁ!おい!聞こえてんだろ!返事ぐらいしたらどうなんだよ!金髪の可愛い可愛いマリアちゃん!」

それでも振り向こうともしないマリアに穏やかに終わらせたいと思っていた桜も声を荒げた。

「あぁ!もう!マリアさんも好い加減にして下さい!こんなんじゃ東京中央に到着する前に私達全員全滅しちゃいますよ!」

桜と菫の二人とはいえ時雨を押さえ付けるのにも限界がある。

それに、仲間内で争い合っている場合でない事は誰もが知るところで、時雨の暴走をこれ以上野放しにしておけば、それこそ感染者が寄って来るのは時間の問題である。

状況が芳しくないと、マリアは観念した様に時雨へと振り返る。

「そんなに騒がなくても聞こえているわ。それにセーフルームでの話だけれど八城くんはアナタたちに話したがらないと思うわ、だから時雨も聞くべきじゃないんじゃないのかしら?」

羽交い締めにされている時雨へ赤子を諭すように喋りかけたマリアだが、時雨はその言葉を鼻で笑って見せた。

「ハハッ!なんだ?今更喋ったと思ったらそんなつまんねえことかよ!そんな事言って私がハイそうですかって納得するとでも思ってんのか?良い子ちゃん係は桜に任せてんだ。残念ながらお前のご期待には添えねえな!」

思春期男子の反抗期にも負けない時雨の態度の悪さはある意味でハッキリしており、だからこそ物事の本質以外に付け入る余地がない。

そんな時雨の態度にマリアは諦めた様に瞳を伏せると、絞り出す様に言葉を紡ぐ。

「……そうでしょうね、ならそれを知って時雨はどうするつもりなのかだけ聞かせてもらってもいいかしら?」

「はぁ?どうするのもこっちの勝手だろ?それとも金髪は私にどうにかして欲しいのか?」

僅かな時間の沈黙と同時に透き通る青い瞳は時雨の黒い瞳孔を捉え、青の澄んだ湖畔を僅かばかり時雨の濁った黒が浸食する。

決して整っていた訳ではないマリアの心情を感情のままに引きずり出さんとする時雨の言葉にマリアは喉元で塞き止めていた何かが切れた。

「そう、ならこの際だからハッキリ言わせてもらけれど、アナタでは力不足だといっているのよ!東京中央でこれから八城くんの身に起こるであろう事に関わるならアナタは間違いなくただじゃ済まない!今度はそのお腹に空いた穴なんかじゃ済まないぐらいよ?それでもいいのかしら?」

マリアの叫びにも近い言葉の羅列に時雨はただ笑う。

感情を土足で踏入り蹴散らし、引きずり出せた喜びに時雨は『力不足』と言われた言葉すら笑い飛ばす。

「力不足?土手っ腹に穴?おうおう!大変けっこうじゃねえか!そもそもだな、私は大将に対してどうもするつもりもありゃしねえ!大将が決めたんなら私は何を言うつもりもねえんだよ。だがな、私は大将を仲間として認めてんだ。そんな認めた野郎が何処とも知れねえ場所に飛ばされるかもしれねえ。こっちとしては同じ穴の狢として知っておかなけりゃビックリしちゃうだろうが」

巫山戯た言葉とは裏腹に、時雨の表情は真面目な眼差しはマリアを捉え続ける。

いつもであれば言葉でも技術でも圧倒する時雨を圧倒するマリアであった筈なのに、今の様子を見れば時雨の言葉はマリアとは相性が悪いとすら思えるのだから不思議だ。

時雨は黙ったまま固まったマリアへ言葉を続ける。

「それに、結局大将は秘密主義だからよう、自分の身の内話となっちゃ私達には特に話たがりゃしねえんだ。金髪、楽になっちまえ。お人好しのテメエの事だ、どうせ知らせちまったら私達まで巻き込んじまうと思ってんだろ?馬鹿にすんじゃねえ、テメエの事はテメエで決める。それともテメエだけが大将の仲間だとでも思ってんのか?」

流石に羽交い締めから解放された時雨は肩を回しながらマリアへとゆっくりと近づき、マリアはそんな時雨を真っ向から見つめ返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ