廃城12
慌ただしくも迅速に目の前の彼女が連れて来た数名の部隊員は肉甲冑の化け物の周辺を取り囲み、手負いの八城を隠すように数人が前に出る。
「我々の威信に賭けて!この化け物をここで討つ!全体発砲用意!」
八城へ向けた声音とは随分と様変わりした凛々しく響く柏木と名乗った女の声はよく通り、引き連れていた数名も柏木の声に応じ、相手に銃器を向けている。
「そうか学内から聞こえた銃声は、お前らの……」
「銃声?一華先輩が一人で戦っていたからね。まさか一華先輩以外にもキミみたいな勇敢な少年が戦っているとは思わなかったけれど」
何かを思い出したに笑いを堪える柏木に、八城は何を笑っているのかと首を傾げる。
「いや、失礼一華先輩のあの暇そうな顔を思い出してしまってね、階段から落ちて来る感染者にただトドメをさしてる先輩ときたら、……私の知る一華先輩からすれば絶対に考えられない光景だったよ」
ひとしきり笑い終えた柏木は、未だ笑いが堪えきれないと呼吸を整える。
「しかし、あの作戦を考えたのはキミかい?まったく、階段をローションで濡らすなんて、全くあんなに笑ったのは久しぶりさ」
少しでも一華への嫌がらせになったのならざまみろと言ってやりたいところだが、それ以上に聞き逃せない言葉が柏木の言葉には含まれている。
「一華先輩?アンタと一華はどういう関係なんだ?」
「一華先輩は、一華先輩だよ。一華先輩は僕たちの所属する部隊の先輩……とっ、もう終わったみたいだ」
柏木が見つめる先には、銃撃に晒され先までとは打って変わった肉の甲冑の姿があった。
両足は穴が無数に開き、再生が追いついていないのか立つ事すら間々ならない。
両腕は捥がれ、数分前までの苦戦が嘘の様な有様が広がっている。
これが現代兵器……というよりも、此処にいる彼らの実力なのだろう。
「さて、この個体は初めてみるからサンプルとして基地に持って帰りたいところだが……どうやら、違うお客さんが来たみたいだ」
柏木が見上げた先には甲冑とは対極の肥満型のシルエットだ。背部から各々が意識を持つかの様な数十本の触手をヒラヒラと操りながら、一軒家の屋根の上から様子を伺う様にジッと此方を見下ろしている。
「見た事がない個体だ!何をして来るか分からない!全体!警戒を怠るな!」
柏木が言葉を発し全体が銃口を二階屋根に居る触手の感染者に向けた瞬間、背部の触手が花弁のように開き一斉に降り注ぐ。
それぞれが回避する最中、伸ばした触手数本が甲冑の口元へ突き刺すと、母乳でも与えるかのように他の触手で肉の甲冑を抱き抱える。
「アイツを絶対に逃すな!全員化け物の触手を狙え!」
柏木の判断は早かったが化け物の変化は更に早い、撃たれる最中でも数本の触手が羽の形へと変化させると一つ羽を羽ばたかせると二階屋根を破壊する跳躍と共に空へと飛翔した。
青空と無人の街は静寂を取り戻し、数秒柏木は苦虫を噛み潰した渋面の後に抜身の刀を鞘に仕舞い込む。
「全体戦闘終了だ、彼を安全な場所まで運ぶぞ!」