柏木
議長室と、平仮名で書いてある部屋で、その男は一人、黙々と仕事に向かっていた。
初老で、少し老けた顔立ちの男。
柏木議長と、今はそう呼ばれている男は、今回の遠征の報告を受けて頭を悩ませていた。
遠征から中央へ全部隊の帰還を確認して、もう三日は経っただろう。
あの遠征によって知る事が出来た情報は二つ。
一つは、番街区が三つ減ったという事。
そしてもう一つは、新たなクイーンが二体確認されたということだ。
中央から派遣された部隊数は全部で20部隊。
帰ってきた部隊数は15。他の帰ってきた部隊にも数名欠員が出ていると報告を受けている。
帰って来なかった部隊の隊員は、各街周区探査内において若干名感染者として確認されている。
柏木はこの報告を受けて一層頭が重くなっていくのを感じていた。
四年間で、減りに減った人間を纏めた。
地区と役割を決め、それぞれに責任を分配した。
若者は戦い。
老人は動けない。
身体も心も今の環境に順応する事が出来なかった。
大人だった者たちは、四年の間に随分数を減らした。
そして分配した責任が向かった先、それは子供たちだ。
その子供達がこうして、数を減らしている。
その事実が何より柏木の良心の呵責を責め立てている。
ため息を付きながら、ペンを白い紙に走らせる。
部隊の再編成。
それから、各街周区への新たなクイーンへの調査依頼。
物資の確認、研究の進捗。
挙げれば切りがない仕事の数。
そんな柏木の元にまた新しい仕事が舞い込んでくる。
勢い良く扉が開けば、慌てふためいた男が立っていた。
柏木は開けたその人物を睨みつける。
だが扉を開けた人物は柏木の不愉快な表情など全く目に入っていない様子だ。
ともすればその様子は尋常ではない様にも見える。
「報告します!クイーン呼称。ツインズが、二桁の番街区で確認された模様です!」
柏木は手を止め、その報告を聞き届ける。
柏木はまた頭が重くなるのを感じる。
「分かった」
それだけ言うと柏木は立ち上がり、その議長室を後にする。
今日も今日とて若人を死地へ赴かせる。
それが今の仕事だと分かっている。
柏木はそう思う度に頭が重くなるのを感じていた。
その重さは目を閉じずにはいられない程重く、柏木にのしかかるのだった。




