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プラナリア  作者: りんごちゃん
歌姫の荒城
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感染者3

「……随分減ったのね」

バリケードに駆け込んできた十七番隊を見て、麗の口から零れたのはそんな言葉だった。

「……私の実力不足は不甲斐ないばかりさ。だが私はあの子を信じて置いて来た。それで駄目なら悔いはない」

初芽の見て来たものの壮絶さを麗は想像する事しか出来ないが、隊員を失う事の辛さは知っている。

ただ知ってはいても、どんな言葉を掛けるべきなのは四年を過ごして来た今でも答えは出ない。

「……とりあえず、お疲れ様。十七番隊は撤退して。此処からは私達でやるわ」

身体と心の疲労は見るまでもなく、十七番隊の全員が疲弊しているのが分かる。

「そうか、すまないね。……そうだ、一つだけ紬から伝言だ」

紬、そう聞いた麗は親友とも悪縁とも思える少女を思う。

「紬がどうかしたの?」

「私も状況を理解していないから上手く伝えられるか自信がないのだけれどね、なんでも噛まれたとしても助かる見込みがあるという情報を紬から伝えれられている。つまり、感染させられたとしても、発症させなければ助けられる可能性が残るという事さ」

伸びた先の指先が微かに揺らぎ、麗はその先に座り込んでいる初芽を睨みつける。

「……確かなの?」

「紬が言ったのだけれどね。……ただ、私は紬がこの極限状態において、こんなにも悪趣味な妄言を吐くとは思えない。だから私達の知らない何かを紬は知っているんだろうさ」

確かに悪ふざけならこんなに悪趣味な嘘はないだろう。

だが仮にそれが本当であったなら……

「こんなに嬉しい知らせもないわね……了解したわ。隊員には本当に最悪の場合を除いて自決を禁止する様に言っておく」

その言葉の正否は分からない。

だが白百合紬は麗の知らない何かを知っているのだろう。

彼女がどんな人物か、風間麗は知っている。

月の無い真っ暗な夜になんの前触れもなく、勝手に布団に潜り込んで来て、静かに泣いていた彼女の姿を風間麗は知っている。

悲しみを知り、人の死を乗り越えられず、その度に白百合紬という人格は真っ直ぐに人の命を助けたがっていた。

だが、まやかしの助力では結局誰も助けられずに紬は二人の体温が混ざり合った布団で踞っていた彼女。

そんな日が数日続き、麗と紬は何時しか、少しずつ話をする様になった。

たわいのない話で笑うのは何時も麗の方で、愛想笑い一つ浮べない無愛想で無口な少女の感情は、実はとてもお喋り好きだったのだろう。

だから八番隊に仲間が増えて、思い出が増えて、自分の居場所が増えて……

守りきれなかった大切な一つを残して全てを失って、また泣いた白百合紬を、風間麗は知っている。

他人の命に真っ正面から向き合える彼女の事だ。

そんな白百合紬が伝えたのなら、その言葉には信憑性が生まれる。

「信じるしかないさ。私達は八城の言う通りずっと昔に選ぶ選択肢を間違えていた。その点で言えば紬は、苦しみにもがきながらもずっと正しかったのかもしれないね。だからこそ私達は事此処に至るまで、結局何も知らなかったのさ」

東雲八城という隊長の元で最も苦しい道を選び続けて来たからこそ、白百合紬は多くの事実の目撃者となり続けて来た。

だが、風間麗にも斑初芽も知らないという事は、紬の知りうるそれらの事実を知りうる為の努力不足だったということだろう。

「本当、耳に痛い言葉ね……」

「ああ、自分で言っておいて難だが、私もだ」

喋る事を終え、呼吸を整え終わった初芽は自身が率いる十七番隊へと向き直り撤退の指揮をとっていく。

「十七番、避難するなら此処から山の上にある帝都大学の方へ行った方がいいわ。あそこなら敵の侵入も阻めるし、高い建物もあるから籠城にも向いてる。場所も開けているから山を下って逃げる事もできるわ」

「恩に着るよ」

「恩を着たならちゃんと洗って返しなさいね。今の十七番、自分じゃ分からないかもしれないけど、もの凄く汗臭いから」

軽口は別れの合図だと、麗は初芽から背を向ける。

「……そこまで汚すつもりはないけれどね、まぁ、仕方ない。借りた恩はクリーニングに出して直ぐにでも返すさ」

次いで、初芽も麗から背を向け案内にある大学の方向を見定めた。

「なら、返って来るのを楽しみに待つとするわ」

「そうさ、少しだけ待っていてくれ」

斑初芽は、自身の率いる手負いの十七番隊を引き連れ、帝都大学へ。

風間麗は、自身の率いる96番隊と一〇〇番隊混成チームを引き連れ、十七番隊が連れて来た感染者のかく乱を引き受ける。

「全隊員、絶対に生き残って!あの馬鹿をとっちめてやるわよ!」

麗の宣言が隊内へ響き渡り、作戦は更なる激しさを増して行く。

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