劣後
「いい加減にして下さいよ!」
東雲九音は目の間の女性に伝わらないと思いつつも、言葉を発せずにはいられなかった。
周りは敵だらけ、囲まれた原因を作ったその女は、出会ったあの時も、そして今この時も一本ネジが外れた笑みを浮かべていた。
「九音ちゃんは、いいんだけどね〜ちょっと足りないのよね〜どうしたら八城みたいになるのかしらね?味付け?かしら?」
「馬鹿兄貴と比べるのやめて下さい!」
息を切らしながら東雲九音は東京中央の物資から拝借した量産刃を振るう。
「いやん!いやん!怒っちゃいやん!」
野火止一華も、その涼しい顔には、似合わない台詞を吐きながら、三シリーズ大太刀の「花」を振るい目の前の一体を一刀の元の斬り伏せていく
「気持ち悪いんでやめて下さい!」
九音が力任せに振るう量産刃が風を切り、首から上を斬りとばし、返す刃でベッタリと付いた紅色の飛沫を刀身から飛ばしながら、半円状に撒き散らす
「え〜ケチ〜!じゃあ少しは、八城が霞むぐらいには役に立って頂戴よ〜」
「……分かってます」
九音はぎこちなく止まる剣先を誤魔化す為につま先から砂塵の舞う一歩を踏み出す。
一華となれば見ずとも分かる、躊躇ったその行動に鼻で笑ってみせた。
「うるさいですから」
「うるさくにゃいよ〜それに貴方は鬼神薬もフレグラも使えにゃいのだから、しっかりしにゃいと〜すぐしんじゃうにゃよ〜」
猫の真似をしながらもその剣先は確実に敵を葬っていく。
「だから気持ち悪いですから!というか急になんですか!本当にうるさいです!」
「にゃんにゃんにゃん」
「マジうざ……というか、もう時間です!一華さん撤退しますよ!」
bbに食料物資を渡し、先に撤退させてから一五分。
二人は敵を引きつける役割を十全に果たしたと言えるだろう。
だが隣で刀を振るう一華は、目前の敵を全滅させてしまおうと更に前へ刀を振るう。
いや彼女なら或はそれも可能なのだろう。
「ちょっと!一華さん!戻りますから!それを早く仕舞って下さい!」
「え〜退屈なのよ〜いいじゃないの〜全滅させましょうよ〜」
「もういいですから!無意味なんで戻りますよ!雛も天音ちゃんもお腹を空かせて待ってるんですから!それに一華さんが好きな牛すじの缶詰め他の人に食べられても知らないですかね!」
「……分かった……帰る」
ピタッと止まった一華は花の刀を一回転させ鞘へ刀身を戻す。
しなやかに伸びる腕から覗く発達した筋肉の影は彼女が今までに通り過ぎて来た時間の過酷さを指し示す。
所々に墨を零した黒さを持つ刀身に這う光の軌跡を視線で追いかけても何が見える訳ではない事を東雲九音は知っている。
そしてこの人の隣に立っていた嫉妬と親愛の相手を嫌という程知っている。
「何処で何してんのお兄ちゃん……」
それは兄妹再会まで後僅かの時間の事だ。




