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UNITED  作者: maria
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 「は、初めまして。」

 いつもに似合わず、そう身を固くしたまま言うのも仕方のないことかもしれない。何せリュウジの目前には、日本のメタルバンドのギタリストが総勢三十名近くも集っていたのである。しかも8割以上が長髪であり、それぞれ赤だの金だの茶だのといちいち髪色が喧しい。更に辛うじてリョウとはライブで挨拶をしたことがあったが、ライブ経験の浅いリュウジにとってそれ以外の面々は音源こそ聞いたことはあるものの、初顔合わせとなる人ばかりであった。

 「おお、リュウジ! リュウジだぞ。今日初めて来てくれたんだ。Day of Salvationの。」リョウが笑顔で腰を上げ、リュウジの席を作った。

 「おお、若いな。」隣にいた金髪が目を丸くする。

 「だって高校生だもんなあ。」

 「高校生?」頓狂な声が同時に上がった。

 「ええと、通信なもんで四年目ですけど。」リュウジはおそるおそる空いた席に座る。

 「18? 9?」その隣の茶髪が目を見開いたまま訊ねた。

 「今年、9です。」

 「だから今日は焼肉食い放題なのか。」

 「何で居酒屋じゃねえんだって思ってたよ!」

 「まさか未成年がいたとはな。」

 「でも、若手が出てくるとシーンも勢いつくからな。」

 「そうだそうだ。」

 ギタリストたちは頻りに感心し合った。

 「ビールは各自で頼めよ。俺も飲まん。」リョウは踏ん反り返りながらそう宣言する。

 「マジで?」

 「何で?」

 「リョウさんは未成年じゃねえじゃねえすか。十分年食ってんのにどうしたんすか。」

 「るせえな。家帰ってガキの世話すんのに、酒臭くてどうすんだ。」

 一瞬、場が静まり返る。

 「……リョウさん、い、い、い、育児とかやってんすか。」意を決して一人の金髪が訊ねる。

 「ま、そんな自慢する程はやってはねえけどさ。ばあさんも田舎からわざわざ来てくれてるし、ミリアも元気だし。……でも、ミリアが風呂入ったり飯食ってる時ぐれえ面倒見るぐれえするだろ、普通。」

 男たちは大抵そんな経験はないのだから、言われてみればそんなものかと思いつつ、しかしそれがリョウであるからこそ驚きを隠せず目くばせし合う。

 「あ、赤ちゃん、……幾つでしたっけ。」

 「まだ三か月だよ、三か月。小っちぇえもんだ。乳飲んでふぎゃふぎゃ泣いてるだけだ。」

 「性別は?」

 「男。」

 「将来はギタリストすか。」

 「んなのわかんねえよ。まだふぎゃふぎゃしてるだけなのによお。」

 「リョウさん似すか。」

 「らしいぞ。ミリア曰く。」

 再び男たちは目くばせし合った。

 「何だよ。」リョウは不機嫌そうに呟く。

 「……まあ、男だったらな。ミリアちゃん似じゃなくても、まあ。」こそこそと男たちは顔を寄せあった。

 「あの容姿が受け継がれてねえっつうのは、残念っちゃあ残念だけど……。」

 「でも、まあ、しょうがねえだろ。こればっかりは。どっちに似るかなんてわかんねえんだからよお。」

 「にしても、将来相当厳つくなるな。」

 「性格にも問題出てくるかもしらん。」

 「どういうことだよ!」

 ミリアがモデル業をしていることは周知なのである。

 「まあ、それはともかく、せっかくメタルギタリストが集結したんだ、楽しく食って飲もうじゃねえか!」

 一抹の寂しさを滲ませたやけっぱちなリョウの合図で食事会、もといランチ会は始まった。それぞれの自己紹介も早々に切り上げ、作曲の方法だのギターのメンテナンスの方法だの、それからピックの素材がどうの、DAWソフトの使い方がどうの、ギタリストならではの会話があちこちで花咲いていく。リュウジもあれこれと今まで苦心していたことやら悩んでいたことが、多くの他のギタリストたちもまた乗り越えてきたのだとわかり、無論その解決方法についても色々な教授があり、その喜びですぐさま緊張は解け、いつもの様子に戻った。

 「でもさあ、君ん所のアレン君、超イケメンだよね。」リュウジの隣には、そろそろ中堅に差し掛かった、都内で活躍するデスメタルバンドSadistic Soulのコウヘイがビール片手に寛いでいた。

 「あ、はい。」リュウジは焼肉を頬張りながら答える。よし屋の肉も旨いが、ここの肉もなかなか美味である。

 「で、女の子のファンも多いんでしょ。デスメタルなのに。」羨まし気に苦笑する。

 「そうすね。真ん中の最前は大抵気合入った女の子たちですね。俺の前は違うけど。」

 「凄ぇなあ……。」

 「アレン君って、元はビジュアル系出身なの?」

 「……いや、何か適当なメタルだかロックだか、みたいなのやってたみてえですよ。」

 「あっははは、適当にやってたんだ。」

 「はい。で、俺が加入して、俺が曲作るのに合わせてだんだんメロディックデスメタルになってってって感じで。」

 「へえ、そうなんだ。じゃ、音楽性が合って出会ったって訳じゃないんだ。」

 「全然。アレンが楽器屋でギター試奏してる所にたまたま出くわして、そんでバンド入れって言われて、そんで始めたんですよ。」

 ひょうひょうと答えるのが面白く、最早コウヘイはそれが真実か否かということさえどうでもよく思われてきた。

 「あっはは。じゃあ、何。楽器屋の常連同士でバンド始めたんだ。」

 「常連なんかじゃないすよ。俺上京してきて、たしか、あそこには初めて行った時だったから。アレンは常連だったみたいですけどね。その時も何百万もするビンテージのGibson弾いてて。何だこいつって思った。」

 「え、なんびゃくまん? も、もしかして、アレン君って金持ちなの。」

 「金持ちですよ。ちょっと尋常じゃないぐらいの。家なんか超豪邸ですから。」

 「イケメンで、金持ち、かあ。……凄ぇな。」

 「そうすよ。俺だってアレンに出会う前までは、そんな人間が存在するなんて思ってもなかったし。だからよく聞かれるんですけど、俺、アレンに嫉妬とか全然感じないんですよ。そんなリアリティさえないっていうか。アレンもアレンで、俺が親もなくって施設で育ったって言うことを、なんだか、多分、ファンタジーの世界みたいに思ってて。未だにちょっとしたことで、お互いにこんな人種がいたんだって気付いていく感じで。」

 「え、ちょっと待って待って。施設? 今、リュウジ、施設で育ったって言った?」

 「あ、はい。俺は親が育てられなくて山ん中の施設で中学まで育って。そんで上京してきたんですよ。バンドやりたくって。」

 いつの間にかリュウジの話に、その場にいたほとんどが耳を傾けていた。

 「それって、リョウさんと一緒じゃねえすか。」既に酷く酔っぱらっていた若手ギタリストが不意にそんなことを口走ってしまった。まずいだろう、と思ったのも数人いたが、

 「あ? ああ。だな。」リョウは何でもなさそうに肉を頬張りつつ、「旨いな、塩タン。やっぱ男は塩だな。」と呟く。

 「え、リョウさんも?」リュウジは思わずリョウの方へと身を乗り出す。

 リョウはどこか面倒くさそうに、でも照れたように肩を顰めると、「別に珍しいことでもねえだろがよ。」と誰へともなく言い訳めいた言葉を紡いだ。

 リュウジはバタバタと膝をいざってリョウの傍に近寄った。

 「……リョウさん、リョウさん。」

 「何だよ。俺は名誉顧問だぞ。」

 「ええ、わかってます。それで俺、これからリョウさんち行ってもいいすか?」

 「ええ?」といきなりの発言に驚愕したのは、リョウの周辺にいたギタリストたちである。

 「あ? ああ。」リョウは塩タンの咀嚼をしながら首を傾け、「まあ、いいけど。あ、でも、赤ん坊がいっからあんま世話焼けねえぞ。」と言った。

 「いやった! お構いなく!」

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