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UNITED  作者: maria
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 施設長は深々と溜め息を吐くと、ゆっくりと語り出した。

 「……リュウジがうちへやってきたのは、まだ生後十か月の頃でした。うちに来る子たちはそれぞれ哀しい身の上を背負ってやって来る子が多くいますが、リュウジに関してもそれは同様でした。……たった一人の親であるお母さんが、交通事故でリュウジを抱いたまま、天国へ旅立ったというのです。リュウジも腕や背に重篤な怪我を負いましたが、どうやら命だけはとりとめることができました。ここに来る前、一か月程大学病院で入院をしていたのです。警察の方は、無理心中かもしれないとも言っていましたが、遺書も無く、親類含め近しい方もいず、証拠となるような話も聞けなかったことから、とりあえず表面上は交通事故死と取り扱われることとなったとのことでした。

 そこで問題となったのは幼子の行方です。母親は離婚をしており、祖父母に当たる人もとうに亡くなっておられました。無論父親について調べてはみたものの、父親は(施設長は社長を暫く見つめ、重々しく口を開いた)……精神疾患を抱えており、無職でおられたため、育児は困難と判断し、うちへと連れてこられることとなったのです。

 しかし、リュウジはそんな不幸な状況とは無縁にすくすくと育っていきました。ちょうど同じ頃、同年齢の男の子が入所してくることとなり、二人は隣接の乳児院でミルクを飲みながら兄弟のように育ち、喧嘩一つせず仲良く大きくなりました。そんな時に、リュウジのお父様が現れました。お父様はどうしても親として、リュウジを引き取りたいのだと仰いました。しかし当時、やはり引き取るに足る健康状態と経済状態ではなかったことから、職員との話し合いの末お断りせざるを得ませんでした。面会も請われましたが、やはり同様の理由でお断りせざるを得ませんでした。リュウジに自分と暮らせない、病気の父親の存在を知らせることが果たして良いことなのかどうか、こちらについても議論の末否と結論付けられました。

 勝手に子供について決めすぎていると思われるでしょうが、うちの子どもたちは、親を含む周囲の大人たちから精神的に、肉体的に、虐待されてここにやって来たというケースが、本当に多いのです。そうでなかったとしても、大人から負の影響を受け取っているとは、どの子においても言えることです。ですから、我々は厳格に厳格に、引き取りや面会、外泊に応じるか否かを決定していきます。引き取られて行っても、家庭訪問を何年もすることも珍しくはありません。もう十分に傷付き過ぎている程傷ついている子どもたちを、これ以上、ほんの僅かも傷付けたくはないのです。命にかかわる問題となることだって、あるんです。

 ですからお引き取りに応じるまでの条件は色々とあるのですが、まず、片親であり、祖父母や親類の援助を得られない場合にはお断りしています。もし一人だけの親に病気やケガなどの状況が起きた時、育児を全うできないからです。それから健康状態についても調査します。疾患を抱えている場合には、これもお断りせざるを得ません。それから経済状況、収入も資産も含めてです。それから家の十分な間取り、子ども部屋の有無、それからその方との度重なる面談を経て、子どもを真から愛してくれるかどうかを確認できて初めて、引き渡しを決定致します。吉村さんのような、全てを兼ね備えた方で、なおかつ施設や子どもたちに理解を持って下さる方は、本当に、稀なのです。」

 「そんな……、ただの飯屋ですから。」店主がこめかみを掻いた。

 「……私に子どもができなかったのを、諦めきれなかっただけで。」女将も申し訳なさそうに言った。

 施設長は小さく肯いた。

 「それでも、……やはりうちの四人の子どもたちに加え、リュウジにも本当の家庭の愛情を教えてくれた。それは何にも代えられないものです。」

 「でも、今やこちらさんは会社を立ち上げた一方ならぬ社長さんですし、しかも、リュウジたちの音楽仲間を一生懸命面倒見てくれているのです。リュウジとの出会いも、決して実の子だなんてわかってではなく、リュウジの曲と演奏を見て、これはと見込んでくれたのであって、……。親子だと知らぬのにそういう風に繋がったんです。これはやはり親子の縁が、それだけ強かったってことじゃあねえですか。」

 「お父様は、現在……リュウジを引き取りたいとお思いですか。」施設長の問いに、社長は定まらぬ視線で黙した。

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