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UNITED  作者: maria
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 リュウジは社長とメンバーを店の前で見送り、その後店主と一緒に片付けを行った。

 「いい方じゃねえか。やっぱりお前の直観は正しかったな。」

 「うん。」皿を拭きながらリュウジは答える。

 「……でも、何だろうね。夫婦仲が良くないんだろか。」テーブルを拭きながら女将がぼそりと呟く。

 「あ、社長、ずっと前に離婚しているみたいなんだ。それからは独り身だって。言っとけばよかったな。」

 「ああ、そうだったのかい。」女将は目を丸くする。

 「でも今時分、離婚なんて珍しい話でもなかろうに。」店主はそう言って首を捻った。

 「まあ、どんな事情かはわからないからねえ。」

 「でも、そういう過去のこともちゃんと受け止めてる、素直なお人なんだよ。そういう所はもしかするとリュウジに似てるかもしんねえ。」

 「ええ?」

 「ああ、そう言われてみればそうかもねえ。」女将はくすりと微笑んだ。

 リュウジは意外な言葉に目を瞬かせた。


 その翌月のことであった。無数の墓標を薄布纏った女神が諸手で抱えこむような、やたらファンタジックで荘厳なジャケットの、Day of Salvationのデビューアルバムが全国CDショップに鎮座することとなったのは。

 リュウジたちは都内中のヘヴィメタルCDショップを挨拶に回り、それに伴ってインストアイベントやら雑誌のインタビューやらにも次々に応じていった。

 社長が尽力してくれたお蔭で、ネットから雑誌まで、随分色々な媒体に広告が載せて貰えることとなった。撮り直したアーティスト写真もアレンをメインに据えたことで、一見北欧のメタルバンドのような雰囲気となり、海外のメタルバンドしか聴かない層にも強いアピール力を持つこととなった。


 「アレンさんは日本人なんですか。」

 Day of Salvationなんぞ見たことも聴いたこともない、おまけに音楽にもメタルにも無知なインタビュアーによるそんな問いにも、アレンは笑顔で答えていく。なかなか営業に長けているのかもしれぬ、とリュウジは思った。

 「俺は父親が日本人。母親がフランス人で。父親が大学時代フランスに留学していたんですけれど、そこでたまたま会った母親に惚れこんで、大学卒業すると同時に連れて帰って来ちゃったんです。ま、そういう自分勝手な所が、親父によく似てるって言われるんですけどね、あっははははは。」

 たしかに、とリュウジは首肯する。自分をバンドに有無を言わさず引き入れたのは、ひとえにアレンのこの強引さによるものである。

 「バンドと同時にモデルもなされている、と。」

 どこぞの駅や店舗で無料頒布しているという雑誌インタビュアーは若い女性で、資料を見ながら訥々と質問を投げ掛けていく。

 「そうですねえ。当然メインはバンドですけれど。まあ、この通り容姿が良すぎるもんで、世間が放っといてくれねえんですよ。あっはははは。」

 何が一体そこまで嬉しいのか、アレンは哄笑する。リュウジは不思議そうにアレンの顔を見詰めた。

 「そうですか。……では、今後のビジョンがあれば、教えて下さい。」

 「今後のビジョン? 聞きたい? じゃあ、教えてあげる。まあ、何でもかんでも順調にはいかねえと思うよ。そりゃあ人生と一緒。何でもかんでも順調に行っちまったら逆に、つまんねえかんな。」

 アレンが突然殊勝なことを言い出したので、両隣に座っていた三人は一斉に顔を見合わせた。

 「ま、でもとりあえずは、まずこのCDが売れて重版かかって、レコ発ライブが大成功する。それからツアーやって、俺らの名を、曲を、全国に知らしめる。んでメタルイベントなんぞにも色々呼ばれるようになって、来年にはセカンドアルバム(リュウジは驚嘆した)。もちろんフルね、2、3曲程度のケチなやつじゃねえかんな。それでそれで、そうだなあ。海外でライブもやりてえなあ。おふくろの実家のあるフランスなんてやれたら、じいちゃんばあちゃん、あっちの親戚大勢来てくれるだろうなあ。否、やりてえじゃねえよ、やるんだよ。やるやる。んで五年後にはラウドパーク。観客としてはもう何年も通ってっけど、一度やっぱあのステージ立って、あんだけの観客熱狂させてえよなあ。でもそれで終わりじゃねえかんな。何と言っても、十年後にはヴァッケン・オープン・エア(ヨシもキョウヘイもあんぐりと口を開けている)。やっぱメタラーとして生まれたからには(生まれつきメタラーなんているのか、リュウジは不審げにアレンを見詰めた)ヴァッケン出なきゃ死んでも死にきれねえ。……まあ、ざっとこんな感じかな。」

 「す、素晴らしいですね。」インタビュアーは顔を引き攣らせたまま、どうにかそう紡いだ。「では、アレンさんの、個人としてのこれからの目標は。」

 インタビュアー個人の意向か、雑誌編集長の意向かは知らねど、どうやら容姿端麗のアレンを中心にインタビューを掲載するつもりであるらしい。それはそれでDay of Salvationの音楽をまず聴いてもらうためには、悪くないとアレンを含むメンバーは思った。

 「個人? ……そうだなあ。もっと表現力を付けて世界で通用するボーカリストになって、そんでこいつ、」アレンは突然リュウジを指さした。「の曲を全世界に広めていく。それで親父やおふくろ、兄貴や姉貴らにも認めて貰って、……まあ、それは後からくっ付いてくるものだな。それがメインなんじゃあねえ。」

 「はあ。」

 「それよりも、曲なんだよ、曲。あのさ、あんたは俺らの曲、多分一曲も聴いたことねえだろうし、そればかりかメタルのメの字も知らねえんだろうけど、でも、こいつの曲は最高だから。美しくて華があって、滅茶苦茶エモーショナルで。もし気が変わったら聞いてみて。」

 図星を突かれたか、インタビュアーはそのまま固まった。

 「じゃ、俺ら次S区のレコードショップに挨拶行ってくるんで。また機会があれば会いましょう。またね。」

 アレンは爽やかな笑みを湛えると三人を立たせ、そのまま先陣切って会議室を出た。

 ビルを一歩出ると、外は輝かんばかりの快晴であった。

 今、自分たちのCDをどこかで聴いてくれている人がいる、それを想像するだけで四人の胸は躍った。名の知れたメタル雑誌のライターなんぞもSNSでDay of Salvationの新譜を褒め称えてくれたし、実際、売れ行きも好調であった。メタル部門においては、同時期にかつてイベントで一緒になったことのあるベテランメタルバンドのリリースとも重なったものの、それでも第三位と健闘したのは四人にとっても大きな自信となった。

 アレンが宣言したようには順調にいかないかもしれないが、それでもバンド活動が実りあるものになるかもしれない、という希望が次々に沸き起こって来るのであった。

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