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UNITED  作者: maria
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 クリスマスプレゼントは施設にリュウジが予想していた以上の歓喜を齎したようであった。早速翌晩電話がかかってきて、どうしていいのかわからないとでもいったようなアイナの声が電話口で暴発していた。

 「リュウジ! リュウジ! サンタのプレゼントありがとう! とっても素敵! だって赤い花と紫の花と、ピンクの花があるんだもん! お花がいーっぱいあるんだもん! ねえ、ありがとう。アイナにくれてありがとう! きっと、絶対大事にするから。あのね、もうベッドに付けたの! お部屋がお花でいっぱいなの! 溝渕さんもね、こんな素敵なお部屋、施設来てから一度も見たことないって、一度も!」

 こちらから何を言うまでもなく興奮し切った声が響いていた。続いてリュウイチの落ち着きながらも、やはり嬉しさを孕んだ声がしっとりと耳に入って来た。

 「リュウジ、ありがとう。というよりも、申し訳ないな。」

 「何だよ、少しじゃん。」と強がってみせたものの、やはり一万円の額はリュウジにとってもかなりの金額であったことには間違いない。

 「少しなわけ、あるか。俺も高校入って勉強に専念してて少しもバイトなんてしてこなかったけれど、冬休みぐらいはちょっとやって、問題集でも買おうと思ってたところだったんだ。」

 「そんなことより、お前は勉強してろよ。」

 「ああ。だから図書カードって、本当にありがたいよ。いつかちゃんと働けるようになったら、この恩は必ず返すから。絶対に忘れない。」

 「そっか。じゃあ、もし俺が病気にでもなったら診てくれよ。」

 「ああ、もちろんだよ。」そう言ってリュウイチは電話越しに小さく噴き出した。「参ったな、何が何でも医者にならねえと。」

 「当たり前だろ。」

 「……リュウジももうライブとかやってんだよな。凄いな。お客さん、来てくれたの。」

 「ああ。まあ、俺が入ったのはもう出来上がってたバンドで、ギターが俺になったってだけだから。それまでのファンの人も結構いるし。何せアレンって、……ボーカルの奴なんだけど、何とモデルなんだよ。雑誌とかでかっこつけて写真撮るやつ! でさ、フランス人とのハーフなんだよ。それでギリシャ彫刻みたいな顔してんの。」

 「凄いな。」

 「だろ? アレン目当ての女性ファンも結構いてさ。普通デスメタルのライブには女の人ってほとんど見ないんだって。でもうちのバンドはさ、アレンのお陰で女性も男性も、固定ファンが多いんだよ。」

 「そうなんだ。でも……そんな凄い人に誘われたっていうのがさ、リュウジの魅力だよ。リュウジは人から好かれる人間だから。お前は誰にでもすぐ懐いてさ、可愛がられて。俺は小さい頃からそれ見てて、凄いなって思ってたんだよ。」

 「凄くもなんともねえよ。」まさか勉強が出来、委員長でも生徒会長でも何でも任せられていたリュウイチがそんな風に自分を見てくれていたのかと思うと、リュウジは照れ臭かった。自分はいつもリュウイチの引き立て役のような存在だと思っていた節が、なくもなかったから。

 「俺も、……東京の大学目指そうかな。」

 「あ、そうだな! そしたら一緒に住むか。アイナも高校出たらこっちに呼んだらいい。どうせ山ん中で花屋なんてできないんだから。」

 リュウイチは甲高く笑った。「そうだな。東京の医学部はレベルが高いから相当難しいとは思うけど、また三人で暮らせたら楽しいだろうな。」

 「大丈夫だよ、リュウイチなら。お前は俺らとは違って頭いいんだから。ほら、学年主任の先生、言ってたじゃん。リュウイチの成績は数年に一人レベルだって。」

 「あんな小さな中学校じゃ……。ほら、大学受験っていうのは、全国大会みたいなものだから。」

 「そんなもんかな。」

 「そんなもんだよ。」

 それから二人は昔あった可笑しかったこと、嬉しかったことを、あたかも昨日のあったことかのように一通り喋ると、電話を切った。リュウジはギターのネックを抱き締め、そして思い浮かんだフレーズを爪弾いていった。懐かしいメロディが生まれていった。


 それからバンドのレコーディングが始まって行った。とりあえずCDショップで販売して貰えるような正式なものは事務所に入ってからということにし、とりあえずはライブに来てくれた観客への頒布用CDのレコーディングを、アレンの家のレコーディングルームで行うこととなった。


 アレンの家族は皆親切で、アレンの音楽活動に理解も深いのか、作業が夜中までかかっても文句一つ言ってくることはなく、母親と姉が夜食を作って持ってきてくれたことさえあった。リュウジが手土産として持ってくる店のテイクアウト用ヒレカツを、こういう庶民的な食べ物は珍しいのかアレンの家族は大層気に入り、アレンの親は夫婦してよし屋にやって来て、店主や女将と懇意になったりもした。レコーディングも順調であった。

 「これを俺らのライブも勿論だけど、他のメタルイベントとかに行って、そこのお客さんたちに配るんだよ。そして各地のライブハウスなんかにも送る。まあ、いわば俺らの名刺代わりだな。」アレンは笑顔で語った。

 「へえ。」無論レコーディングなんぞ初めての経験となるリュウジは肯いた。

 「そんでいつかはちゃんとCDショップに出して貰えるように、プレスして貰って……。」

 「へえ。それはどうすりゃいいの。」

 「そうだなあ。まあ、自分らでやんのもいいけど、事務所に入るのが一番手っ取り早いかな。」

 「事務所ね……。」

 「そう、ライブやってどっかから声かけて貰えれば一番なんだけどな。なかなかそうも巧くいかねえよな。」

 「へえ。」

 「まあ、全力でライブやって運がよけりゃ声かけて貰える。頑張ろうな。」

 「うん。」

 リュウジは今まで知らなかった世界が広がっていくような感覚を覚えた。こういう生き方をするために、自分は数ある反対を押し切って東京へやって来たのだ。やはりまだ帰れない。帰るに、値しない――。

 「まあ、お前はんな細かいこと考えなくっていいから。それよりもいい曲作ってくれてさ、それを武器にライブだのレコーディングだのじゃんじゃんやって、それでチャンスをつかんでいこうぜ。」ヨシがそう言ってリュウジの背を叩いた。

 リュウジはやはり自分の作曲にかかっているのかと思えば、肯くしかなかった。


 前回のライブも評判は良く、多くの観客からも次のライブ予定を聞かれたし、ライブハウスからも度々メタルイベントに呼ばれるようになっていった。それでDay of Salvationは月に一、二度はライブを行うこととし、それと並行して配布用、廉価販売用のCDを作って行った。

 作曲者としてのリュウジの評判は高く、他のバンドメンバーからも賛嘆され、冗談半分か作曲を請われたりもした。そうしてライブを繰り返していく内に、順調に客数も増えていった。

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