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UNITED  作者: maria
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 とりあえず最寄り駅のデパートへと出かけてみると、八階もあり、数え切れない程たくさんの店がある。

 施設にいた時にも学校近くにデパートはあったが、さすが東京である。そことは段違いである。

 それでもどうにか見当をつけてあちこち回って、店主にはいつも頭に巻いている手拭い、女将にもいつも付けているような白いエプロンをとりあえず購入した。それから施設の職員たちには何がいいかと熟慮した挙句、たまたまデパートにどこぞの箸職人が来ていて、箸に名入れをしてくれるというので、一膳一膳大きさと色とを選び、一人一人の名前を告げて名入れの箸を作って貰った。それからリュウイチには何がいいかと再び頭を捻った挙句、リュウイチが行きそうな本屋に行ってみようと覗いてみると、つややかな革製のペンケースを発見した。少々値は張ったがいかにもリュウイチが好みそうな古風な中にもシンプルなデザインであったので、迷わず購入した。そしてアイナには花柄の何か、……と考え、女の子が好きそうな店を覗き、そこに売っていた花柄の手提げかばんを買った。


 職員たちとリュウイチ、アイナにはすぐ近くの郵便局からそのまま発送して貰うことにし、店主と女将の贈物だけを持ち帰って来た。早速店内で仕込みをしていた二人に手渡すと、大喜びしたのは言うまでもない。

 ――まさか、こんなことが起ころうとは考えてもいなかった。少ない給料でわざわざ私たちに買って来てくれるなんて、どこまで良い子なんだ。長年育ててきた親だって、ここまでして貰える人はそうそうない。

 聞いているリュウジが気恥ずかしくなるような言葉を次々に言うので、「もう、いいって」リュウジは慌てて言葉を制したが、目頭を押さえ始めた女将の感激を制止することまではさすがにできなかった。

 「いやあ、こんなイイモン買って来てくれて。どっか出かけたなと思えば、こんな、こんな……。」

 店主までも仕込みの手を止めて、何度も目を閉じたまま肯く。

 「親父さん、もういいからさ。ほら、今晩予約入ってんだから手ぇ止めてちゃダメだって。」

 「それどころじゃねえだろ。いいさ、いいさ。」

 「よくねえよ。ほら、ちっと待ってて。俺準備してくるから。」そう言って部屋に逃げ込み、和帽子を着け、前掛けを結ぶと、さすがのリュウジにもにっと堪え切れない笑みが浮かんだ。


 感動は施設でも同様、否、それ以上であった。翌晩、早速プレゼントを手にしたリュウイチから電話があった。無論リュウイチばかりではない。電話口にはどうやら職員らも全員集合しているらしく、次々に電話口から感謝の言葉が告げられた。

 「リュウジ、ありがとう。こんな……、何て言っていいのかわからない。」そう告げるリュウイチの声はたしかに震えていた。

 「大したことねえよ。」実際値段は一番高かったが、そんなことは当然口にはできない。

 「大したことあるだろう。こんな、革製のペンケース。高かったろう。まさか、リュウジからこんなプレゼント貰えるなんて……。」

 「いやあ、せっかく初、給料なんつうものを貰ったから、散々今まで世話んなってき人に、何か買って送ろうって思ってさ。」

 「ありがとう、リュウジ。あの、一生大切にする。嘘じゃない。絶対だ、約束だ。」

 「へえ、そんなんならもっといいモンにすりゃあ良かったなあ。」

 「何言ってんだよ。十分すぎる程十分だろうよ。」

 そう言って泣き出したのかもしれない。声が裏返ったように聞こえた。

 たしかに施設にいた時には、自分あてのプレゼントなんぞ手にしたことはなかったなとリュウジは思う。親や祖父母がいて、ちゃんと子供のことを思い続けている子供はプレゼントもあったらしいが、少なくとも親の影もない自分やリュウイチ、アイナにはそういった経験は一度たりとも、なかった。そんなことをリュウジは遠い記憶かの如く思い出していた。

 そして職員らも代わる代わる電話口に出て、口々に礼を言った。大したものじゃないから、そうリュウジは言ったが、たしかに心が温かくなるのを感じた。しかし肝心のアイナは、いつまで経っても出てこない。最後の溝渕がアイナは今、熱を出してしまってね、と幾分申し訳なさそうに弁明した。風邪でも引いたのかと問うと、アイナは自分への贈り物という一大事にひとしきり泣いて大騒ぎをした後、突然顔を真っ赤にして熱を出したというのだ。

 「だから、ベッドに寝せている所。よっぽど嬉しかったんでしょうよ、熱出すなんて、あの子、滅多にないんだから。でも今ベッドで手紙書いてるから、明日にも送るわね。」

 アイナはその頃、部屋でうんうん言いながら、布団にうつ伏せになりながら鉛筆を握っていた。でも、何と書いていいのかわからない。あいかわらず喉の奥がごつごつと痛んで、それから何度だって飛び上がりたくなり、それから泣きたくなるのだ。でも、どうにか書かなくてはならないと、どうにか頭を捻り、次のように記した。


 りゅうじへ

 ありがとう。花のかばん、ありがとう。きょうからずっといっしょにねる。ぎゅっとしてねる。あいなのたからものです。いちばん大切です。りゅうじがたからものくれて、ありがとう。うれしい。いっしょにねて、あしたにはおはようもいって、それから学校へはもってけないけど、大好きだからずっと考えます。りゅうじ、ありがとう。ありがとう。ありがとう。

あいな


 リュウジはあの見慣れた部屋で一人床に伏しているアイナのことを思い起こした。東京で暮らしている今も、あの山の中の施設では自分の何よりも見知った、馴染んだ、あの世界が存続しているということに懐かしさと安堵とが何度も胸中を去来した。電話を切っても、暫くは部屋で一人いつまでも笑みが絶えなかった。

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