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オニオンフライ

作者: 西脇 徳利

金曜の夜、五限が終わり、バイトの塾講師も終わるといつも私は彼と一緒に塾側の定食屋に行く。


大学近くの塾から互いに帰るのに一時間かかり、空腹を抑えて帰るのは少し辛い。


今日は一人だったが、やはりその辛さには勝てなかった。


メニューを見ると二つのメニューがすぐ目にとまる。


一つは生姜焼き定食、私がいつも頼むもの。もう一つはミックスフライ定食、彼がいつも頼むもの。


彼はミックスフライ定食の中でオニオンフライが苦手らしく、なら頼まなければいいのにエビとホタテは食べたいからといつも頼みいつも私にそれを押し付ける。


オニオンフライを食べると口の中にほんのり甘さが広がる。心地よくて当たりの柔らかい甘さ。


齧る時には衣の食感が軽やかで、心も浮き足立つような感じがして会話も弾んでいた気がする。


「……すみませーん、ミックスフライ定お願いしまーす」


あいよーとおばちゃんの声が返ってくる。


なんだかいつもより長く待たされて、やっときたミックスフライ定食は少し色が悪く見えた。


オニオンフライはどうだろうと口にするとなんだかそこまで気分が盛り上がらない。


私が噛んだ跡から崩れて何か流れ出てしまってる様な気さえする。


全部食べ終わって、空っぽの皿をなんとなく数分見続けていた。もうなにもないけれど、まだ何かいつもはあった気がして。


やはり彼がいないからだろうか。


財布の中身を少し減らし、虚しい気持ちを感じつつ店の外に出る。


春の夜空にはもっと多くの星があるはずなのに、私の目にはほとんど見えない。


何気なく携帯を取り出して、彼にメッセージを送ろうと思った。


先輩がいないと寂しいです。


送信ボタンはとても押せない。


就活終わったらお祝いするので奢ってください。


悩んで送信したそれの返事は存外早かった。


なんで俺が奢らなきゃなんないんだよ。オニオンフライで我慢しとけ。


仕方ないですね、オニオンフライで我慢しますよ。


そう送信して携帯をポケットにしまった。春の夜も少しなら暖かくなってきた。

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