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非情な現実

 海に一番近い街へとやって来てから、早くも4ヶ月が過ぎた。

 ティアとユキの的確で質の高い指導のおかげか、俺は自分でも実感できるくらいにその実力を上げていた。具体的に俺の実力がどれくらい向上したのかと言うと、この街に来て修行を始めてから、初めてカラードラゴンの1匹を1人で討伐する事に成功したのだ。

 以前はどんなに頑張っても討伐する事が叶わなかったカラードラゴン。それをギリギリとは言え討伐できた時は本当に嬉しかった。

 もちろんカラードラゴンを討伐できたのは、俺の実力だけでは無い。そこにはティアとユキのお膳立てや、運だったりタイミングだったりと、色々な要素が絡み合ってこの結果をもたらしたのは分かっている。だからいくら嬉しくても、調子に乗ってはいけない。

 俺が目指している理想のモンスタースレイヤーである2人は、こんなものではないのだから。

 しかしこのまま2人の修行を受け続ければ、着実に俺の目指す理想のモンスタースレイヤーになれるという実感だけは確かにあった。

 だが、そんな俺の思いは、思わぬ形で破綻を迎えた。


「ユキ……なんで……」


 俺達3人が泊まっている宿の一室。

 その部屋にある丸型の木製テーブルの上に置かれたユキの置手紙の内容を見た俺の心は、凄まじい悔しさに包まれていた。


「お兄ちゃん。どうする?」

「もちろん追いかけるさ!」

「でもユキは、『追いかけて来ないで』って書いてるよ?」

「そ、それはそうだけど……でも、こんなのってないじゃないか! 今までずっと一緒に居たのに、あれほど一緒に行こうって言ったのに……」

「……私にはユキの気持ちが少し分かる気がするよ」

「えっ?」

「ユキはね、きっとお兄ちゃんを危ない目に遭わせたくなかったんだよ。だから独りで行く事を決めたんだと思うよ?」


 そんなティアの言葉を聞き、俺は何も言えなくなってしまった。ユキならそんな事を考えてそうだなと思ったからだ。

 しかしだからと言って、ユキのとった行動に納得がいくかと言えばそうはならない。


「…………でも、俺はユキを追いかけるよ。だってユキは、俺の大切な2人目の師匠だから。それに俺さ、ユキに言ったんだ。ユキの義兄おにいさんを殺した、額に傷のあるダークカラーのドラゴンを一緒に捜すって。だからこんな所でユキとお別れなんてしない」

「……お兄ちゃんならそう言うと思ってたよ」

「ごめんな、ティア」

「どうして謝るの?」

「だって、ティアはユキを追いかけるのに反対だろ? ユキの手紙にもそう書いてあったわけだし」

「私は一言も反対するなんて言ってないよ?」

「えっ?」

「私はお兄ちゃんがどうしたいのかを聞きたかっただけだよ。そしてお兄ちゃんが望む様にしようと思ってただけ。でもまあ、強いて言うなら、ユキが私達をお荷物扱いしてる事は許せないかな。だからそこは、会ってしっかりと怒ってから反省させないとね! ねっ! お兄ちゃん♪」


 握り締めた右拳をスッと前へ突き出し、そんな事を言うティア。

 お兄ちゃんが望む様にしようと思ってただけ――と言っていたが、やはりティアもユキの事が心配なんだろう。よく2人で言い合いをしたりはするけど、お互いに認め合っているのは間違い無いだろうから。


「そうだね。ユキが俺達をお荷物扱いした事は、しっかりと反省してもらわないと」

「そうだよ。私達を置いて行くなんて許されないんだから」

「よーしっ! それじゃあ、急いでユキを追いかけよう!」

「おーう!」


 こうして俺達は独りで出て行ったユキを追いかける為にお世話になったシャルロッテさん達に別れを告げ、街のお店で旅の準備を済ませてから海に一番近い街をあとにした。


× × × ×


「お兄ちゃん! モンスターがそっちに行ったよっ!」

「大丈夫だ! ちゃんと見えてる!」


 海に一番近い街を出てから2日。

 俺達は襲いかかって来るカラーモンスターや魔獣達を撃退しつつ、ユキに追いつく為に歩を進めている。最初はユキに追いつくのはそう難しい事ではないと思っていたけど、予想に反してユキの進行速度が速い様で、俺達は未だにユキへ追いつけないでいた。

 そしてそんなユキが俺達を置いて出て行った理由。

 それは、ユキの義兄さんの仇である額に傷のあるダークカラードラゴンの情報が、モンスタースレイヤー協会に入ったからに他ならない。なんでも協会からの情報によると、そのドラゴンはユキの故郷である国に再び現れ、既に二つの街を壊滅に追い込んだと聞いている。

 もしもそのドラゴンが並のダークカラードラゴンと実力が変わらなければ、とっくの昔に他のモンスタースレイヤーに討伐されているだろう。けれどそのドラゴンは、討伐に向かった5人のモンスタースレイヤーを既に倒していると聞いた。

 この事から考えて、そのダークカラードラゴンの実力は相当なものだと推測できる。もちろんモンスタースレイヤーもその実力はピンからキリではあるが、その称号を持つ以上、独りでダークカラードラゴンと対等に戦える実力は持っている。

 それにもかかわらず、その称号を持つ5人が既にやられているとなると、いくらユキでも単独で戦うのは危険だ。だから何としても、早急にユキへ追いつかねばならないのだ。


「ふうっ……今回は手強かったな……」

「お兄ちゃん。大丈夫だった?」

「うん。大丈夫。それよりも、先を急ごう。このままじゃいつユキに追いつけるか分からないから」

「そうだね。でも、油断はしない様にね?」

「分かってるよ」


 俺達は退治したモンスターの群れには目もくれず、再びユキの故郷を目指して歩き始めた。

 ユキはモンスタースレイヤーの中でも、トップクラスの実力を持っているのは間違い無いと思う。

 だから例え単独でダークカラードラゴンと戦ったとしても、簡単にやられたりはしないだろう。だけど俺は、なぜか今回に限ってはとても嫌な予感に駆られていた。

 言い知れない嫌な予感を感じつつユキを追いかけて旅をし、途中で迷ったりもしながら、俺達はなんとか12日目の朝にユキの故郷がある国へと辿り着いた。

 そしてユキから聞いていた故郷である街へとお昼頃に辿り着いた俺達は、さっそくユキを捜して街中で情報収集を始めたのだが、ユキの情報はいともあっさりと入手する事ができ、俺達は入手した情報を元にユキが居ると教えられた場所へと向かった。


「――嘘……だろ?」


 ユキが居ると教えられた俺達が辿り着いた場所は、街の外れにある大きな墓地だった。

 そしてそこにある真新しい石の十字架の墓には、『勇敢なるモンスタースレイヤー。ユキ・ホワイトスノー。ここに眠る』と書いてあった。

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