Phase3 高い骨の花
■竜骨山の道 昼
サラサちゃんがきょうだいに出会ったその翌日。
竜骨の街の西には比較的小さな山、「竜骨山」がある。サラサちゃんはその山に登っていた。
その山の中腹は丘陵地になっていて、その丘陵地には竜の背骨が突き刺さる形で、まっすぐ東の方角に伸びている。
街の上に横たわる竜の背骨は僅かに上に弧を描きつつ、遥か向こうまで伸びていた。
つまり、それほど大きな竜かそれに近い生物がかつて存在したということだろう。この大陸以外に住む人々であれば「そんなばかな」と一笑に付すところである。
しかし、サラサちゃんの内心は穏やかではなかった。
この大陸には竜が住んでいる。
見た目はトカゲのような爬虫類の様相だが、大きな両翼を持ち硬い鱗に覆われた生物。空を飛ぶためか、前足はやや退化しつつも、後ろ足はとても太く、蹴られたらひとたまりもない。
獰猛な竜もいれば、人に関心を示さない竜もおり、その個体差はさまざまである。
ただ、人前に積極的に姿を現すようなことは滅多にない。
サラサちゃんにとって、いや、この大陸の人々にとって、竜という生物は、その強さから、畏怖の対象であった。
サラサちゃんは、その竜の背骨を目指す。
女の子によると、どうやら、「花」は竜の骨の背骨の上に咲いているらしい。
竜の肋骨は町の至る所に突き刺さっている。それら肋骨は地面と平行に伸びる背骨に繋がっているため、理論上は肋骨を伝って背骨に到達することはできる。
しかし、肋骨は非常に急な弧を描いており、ロッククライミング一式の装備でも上るのは難しい。ゆえに、背骨の先端が到達している竜骨山に登って、そこから背骨の上を伝うのが「正規ルート」とされていた。
「しっかし、なんでこんなところに花なんか咲くのかなぁ」
サラサちゃんは竜骨山を登りつつ、そこから伸びる背骨を仰ぎ見、呟く。
木の陰からは、日の光を浴びて白くまっすぐにのびる背骨が見えた。
そしてサラサちゃんは昨日の商店街のきょうだいの話を思い出す。
■竜骨の街・商店街 昼下がり
話は昨日の商店街に戻る。日陰の路地裏で、サラサちゃんに顔を近づけるきょうだい。
二人しておねだりの表情だ。
「だから、ママにお花をあげたいの」
「あげたいの」
先日の、お店の喧騒で割れた花瓶。そこに活けられていた白い花は、竜の骨に咲く花だったらしい。
「サラサおねえちゃんじゃなきゃ、たぶん行けないの」
「そうなのかい?うーん、あの骨の上って歩けるん?」
「たぶん!!」
うーむ、と考え込むサラサちゃん。
「高いところは得意だけどねぇ…しょうがないなあ」
「やった!」
喜ぶきょうだい。サラサちゃんは苦笑い。
■竜骨山の道 昼
時間戻って。山道を歩くサラサちゃんである。
「得意だけど、怖くないわけじゃないんだヨ…」
カラフルポンチョをなびかせ、サラサちゃんはひとり呟く。
やがて頂上近くの丘陵にサラサちゃんはたどり着くと、その絶景に思わず目を丸くする。
「わあ」
真っ青な空から視線を落す。
眼下には、石壁の家が無数に並ぶ竜骨の街が広がっている。白く眩い家々のスキマを縫うように、路地がそこかしこに伸びている。区画はまるで迷路の如く入り組んでいる。
このような複雑な街の作りは、外敵からの侵入も拒んでいるのだ。
一方、今度は視線を地平線に向けると、白く、まっすぐに奥へ伸びる巨大な竜の背骨。
そこから両脇に、弧を描いて地面に伸びる肋骨は、所々ひびが入り、欠落したりしている。
その異様な光景は、竜骨の街の人々にとっては、当たり前の物だった。
ゴオオオオオオ… 強風は容赦なく、今にもサラサちゃんの身体を吹っ飛ばそうとするかのようだ。
サラサちゃんは意を決し、白い背骨ラインに向かって歩く。背骨の横幅は人が横に手を伸ばしてまだ余りあるほどであるが、ちょうど山の丘陵から背骨の突き刺さったあたりに差し掛かると、突風が吹き荒れ、サラサちゃんの長い黒髪とカラフルポンチョを荒々しく翻した。
「ぶわっ!」
思わずのけ反るサラサちゃん。
「凄い風!人が近づかないわけだ」
立ち入り禁止の看板を横目に、サラサちゃんは薄紫のゴムを取り出し、髪をポニーテールに束ねた。
これでよし、と頷き、背骨の上を歩く。
背骨を踏み込む。
足から伝わる感触は、意外にも柔らかい。
グッグッ。
一歩踏みしめるごとに、ブーツに少しだけ沈む感覚が伝わってくる。
少し硬めの土の上を歩いているような感じだった。
よくよく考えたら、この土地は雨も降る。骨は、欠落している個所はあるものの、腐食などをしている部位は見つからない。
本当にこの骨は「骨」なんだろうか。
もしかして何らかの人工の手が入っているのではないか?などとサラサちゃんは考えた。
眼下には竜骨の街が広がる。時間は昼過ぎに差し掛かっていた。雲一つない青空、相変わらずの強風。サラサちゃんの小柄な体を容赦なく煽る。
「ほんと、あたしじゃなきゃいけなかったのかなあ!?うわああ」
ビュウウウウ!
更に風は強くなる!風にあおられて思わず膝をつき、両手を背骨に付けて、四つん這いの格好になるサラサちゃんだ。
「!?」
骨に顔を近づけて気がついた。骨の表面をよく見ると、完全に真っ白というわけではなく、コケのようなものが生えている。
周辺を見回すと、背が低い緑色の植物のようなものが点々と生えていた。なるほど、これなら花が咲いていても不思議ではない。とサラサちゃんは思った。
山の丘陵から背骨を伝い200歩ほど歩いた地点で、サラサちゃんは小さな花を見つけた。
「これかな」
白い花弁が4枚、小さな白い花である。
他にも花らしきものを探したが、見つかったのはこの白い花だけであった。
「よし」
持ってきていた、やはりカラフルな市松模様の巾着袋にその白い花を仕舞う。
サラサちゃんは、身に着けるものは小物でもなんでも、たくさんの暖色をあしらったものが好きなのだ。
「んじゃ、帰るべ」
その時である。
「ゴオオオオオ!」
「あっ!」
突風だ!
思わず市松模様の巾着袋を抱えて顔を伏せるサラサちゃん。
まるで竜の咆哮だ。サラサちゃんは思ったが、比喩ではなかった。
「えっ…?」
「グオオオオオ…」
遠くから、何か動物の鳴き声?が聞こえてくる。
当たりを見回すサラサちゃん。
「この声…」
「グオオオオオ!!」
丁度、伸びる背骨から90度右に向いた方角。南の空から、深緑の身体の竜が大きな翼を羽ばたかせて迫ってくるではないか!
「緑色の……竜!!」
その大きな翼で、深緑の竜はグンと加速してくる!
サラサちゃん、ピンチ!
つづく!




