歪な神の願い
「この世界に勇者など要らない!この神さえ居ればいいのだ!拝むだけで何もしない神など要らない!さあ動け人工神!」
男は乞い願っていた夢を手に入れた。その神は歪にして完全。日本では建物などで完璧に作り上げてしまうと魔が宿る等言われるため敢えて完璧にしないが、彼の作ったそれにはそういった願いなど込めていないの。だが、それがこの神の存在を神であると証明出来るのであった。
「勇者など!魔王など!私の前では意味など無い!人々は私だけを崇めればいいのだ!」
彼の歪んだ思想は正に恐い物知らずだろう。しかし彼は知らなかった。神を作り上げたのが彼自身だけではないと。神が肉体を得るために作らせたことを知らなかった。
「あはははは」
この世に生を受けた肉体は歪な身体で、歪に笑う。彼の愚鈍さに少しあきれ、だからこそ嬉しいという気持ちを込めながら。
「さっそくこの国の王となるために働いて貰うぞ」
「嫌よ、身体を作ってくれただけでそこまでのことは出来ないわ。だけど、これから先に待っている地獄を見ないようにして上げる」
「な、なにを!くそ隷属の魔術はどうした、私の思うままに動け」
「はあ、神にそんな事は効かないわ。魔導とスキルを合わせるくらいはしなさいよ。まあ、これから死ぬ貴方には関係ないかしらね」
男は自身の作り上げた神に殺された。それは彼にとって幸運だったのだろう。人の身では過ごすことも、安らかに眠ることも、只では死ぬことが出来ない世界など、只の人間の彼では耐えきれなかったのだから。
「不完全な身体なこと。でも、この身体じゃないとこの世界にいられないし、存在も出来ない。まあ魔力さえあれば大抵の事が出来るのだからよしとしましょう」
歪な神は歩き出した。後世の歴史に語り継がれる災厄の神と称される者は力を手に入れるために、龍脈を目指し始めた。そのことがこの世界を終わらせることだと知りながら彼女は向かう。彼女の目的は決まっていた。それがなければ彼女がこんな事はしなかった。
「さて、二人はどんな働きをするかしら。いや、三人かしら?」
彼女の願いを叶える際に必要な条件に沿う者は十分すぎるが、まだまだ足りないように感じている。転生させるような力をこれ以上使うことも無理なため、彼女は思案する。
「戦いになるように仕向け終わった。この戦いは蠱毒。最後に生き残った者が次の神になる。その権能が破壊なのか再生なのか、はたまた他の力なのか・・・生き残った者にしか分からない」
彼女の警戒能力があることを告げる。それは彼女にとっては至って驚くことでは無かった。
「魔王が気付いたのね、それに二人の勇者も続いてと。これは思っていたよりも早く行動しておかなければならないかしら?」
歩みを止めないまま考え、この先の展開が何を意味するのか、何が起こるのかを世界の記録を元にして計算して導き出す。ただ、この記録には魂がこの世界に馴染んでいない彼女が含まれないことが欠点だが、それもまたこの世界の終わりと新しい神の誕生に必要なことだ。
「今の内から魔力を手に入れておかなければ神の誕生なんて無理そうね。殺した者にしか魔力を手に入れられないのに、足りなくて神になれませんでしたなんて、失態過ぎるわ。もしこの戦いで彼等が死んだとしても次に期待すればいいとうこと。代わりなんて幾らでもいるんだから」
世界の崩壊へのカウントダウンは止まることを知らない。その針を動かす者が神たる存在である彼女であり、動かすことを止めなければ止まらないのは誰でも分かることだ。
「あなた、私はこの世界を終わらせてしまうかもしれないけれども、この戦いはそうなって仕方がないの。貴方の代わりなんて星の命を犠牲にしなければ無理だなんて、貴方だって分かるわよね」
譫言の言い訳。だがその言葉を口にして自分を騙さなければ、彼女がここまでしてきた意味が無いと感じてしまう。そうなってしまえば彼女は、いや、この世界ともう一つの世界は終わってしまうだろう。彼女が意味のないと感じてしまえばそれだけで終わりなのだ。
「勇者と魔王、神になりなさい」
彼女は我が子のような存在に向けそう言う。彼女の博打のような賭場は出来上がった。後は彼等の運と、その想像力や、世界を救いたいという意思が勝利の鍵を握っている。
「神になった者が、いやなった者にしか私が邪神を偽る切っ掛けを知ることしかできない。スキルの外側の力に後少しで君たちは届く。届いたときには知ることが出来るかもしれないし、私を倒したことで知るかもしれない。どうか、私を殺して」
届かない言葉。届かない願い。
神殺しの英雄の物語。神が死ぬ物語。
孤独な神の手で蠱毒で生まれる神様。
こうして終わりの始まりが、始まりの終わりが起こる。
忙しいことが一段落しました。最終回まで更新がギリギリな感じになりそうですが、頑張ります。