悪魔の取り込み、その先にある恐怖
眠ると、最近恐い夢を見るようになった。
精霊が僕を守り目が覚める。
だけど、黒い影が少しずつ僕に迫ってきた。
一日、また一日と過ぎると、その顔が確認出来るようになってきた。
その顔はあの悪魔だった。
「さて、初めまして勇者さんよ」
僕の魂を喰らうのではなく、楽しそうに笑いながら話しかけてくる。
その顔はこれから起こることが楽しくて、楽しくて仕方がないと言った表情でいる。
「あくま」
心をわし掴むような不快感から、言葉が辿々しくなる。
だが、悪魔はそれすらも楽しいようで恐怖を与えるのに、妖めかしい表情で笑いかけてくる。
「そう怯えるな、俺は今、嬉しいからな」
「・・・」
「ま、無理もないか。そんなに精霊に好かれているようだし、こういった気配に敏感なのかもな」
「・・・」
口が縫い付けられたように開かない。
でも、悪魔はやはり気にせず言葉を続ける。
「悪魔は精霊とは正反対。精霊は与える者だが、悪魔は奪う者。だが、俺の場合は違う、なんでだろうな?」
クックックと笑い、笑いを押し込めて我慢しているようだが、我慢しきれずに笑っている。
「スキル?」
身体が慣れてきたのか、それともこの悪魔が圧力を与えてきたのを弱めたのか、僕には分からない。
言葉を発せられたとしか説明が出来ない。
「そうだ!」
僕を指さして耳に届くかのような程、頬をつり上げる。
その姿は無邪気な子供を思わせる物があった。
「俺は<強欲>を冠する魔王の眷属、ま、今はお前のスキルと成ったけどな」
「僕に、何を要求する?」
「そんな物は無い。しいていうなら、お前の知識だな」
「知識・・・?」
「スキルとしてお前の中へ宿った俺は、知識までも確認出来る。だが、制限は掛かっているようだがな」
「もしかして・・・見たのか」
何でも無いような現実。いや、世界。それは元の世界では普通でも、この世界では異端。
悪魔がもし、この知識を手に入れたら、何が起こるんだろうか?
筒に火薬を詰め、強い衝撃を与える事で爆発し金属の塊が飛ぶ、銃なんて物が見られ、作られたら?人を殺すのが容易になる。
現代技術が魔法と融合させられたら?魔法の威力の向上が計れるかもしれない。
そんなことが起きれば、僕を起点に争いが起きるかもしれない。
「<最適者>」
悪魔は表情を変える。
止めろと口で言うのが目に見えて分かる。
だが、僕も口を止めない。言い終わると、悪魔は目の前から消え去る。
「悪魔との同一化を確認。<悪魔同一化>を獲得」
「悪魔との同一化が強固、そして上位悪魔のため、原初魔法を使用可能となりました」
「悪魔同一化、そして最適化により半悪魔となりました」
「完全な悪魔と成るためには上位の最適化が必要となります」
「使役した悪魔は大罪スキル<強欲>の支配下にありました。これを切断・・・交渉を要求されました」
交渉?
誰が?
「大罪者【マモン】による交渉の場が設けられます」
夢の世界は崩壊を告げるかのように、色が変わり、空気が変わる。
その変化は、スキルを以てしても抑えられず変わっていく。
「すんばらしぃー!」
呼吸をするだけで彼の周りには魔力が満ち、その魔力は意識していないだろうが僕に病のように蝕み始める。
「おやあ、どうしたんだいぃ?随分顔色が悪いじゃないかぁ!」
魂の崩壊、それが僕の身体に起きているのか黒い靄が身体からで始め、黒くなった部分から感覚が無くなっていく。
最適者があればどうかなる・・・のか?
「適応させろ<最適者>」
身体が魔力、いやこの場に溢れているのは魔素。その魔素を吸収し始める。
「<魔素耐性>を獲得しました」
そのスキルの獲得により、身体の崩壊は止まる。だが、それでも魔素の多さに圧力の様な物を感じてしまう。
「なんとぉ!」
身体がエルフへと変質していく。最適者が魔素に耐える身体に適したのを、エルフだと判断したからだと思う。
身体が変質するが、魔力が減ったというのに疲れた感じはなかった。
「<魔素吸収>を獲得しました」
僕の呼吸に合わせるように、魔素が取り込まれるのが分かる。
魔王は僕に驚いているようだけど、その驚きは未知の者を見たが為に、興奮しているようだ。
「こぉれはぁ!正に、進化!」
進化?それはどういう事だ。エルフに身体を変質しただけで・・・
身体を見渡すと肌の色、髪の色さえも変わっていた。
その姿はエルフではなく、ダークエルフ。
「わたぁしの、魔力で変質してしまぁったのかぁ?」
「僕のスキルの力だよ」
ダークエルフ、悪魔と交じることでエルフのみを変質させるか。つまり僕にもそれが起きているのか?
「<最適者>」
メニューを開くように、スキルを発動させる。その中に記載されているのは、エルフにもダークエルフにもなれるということだった。
「スキルかぁ、まだまだぁ未知なものがぁ存在するぅ」
興奮している。だが、その究明がこの場に来た意味ではないと言うかのように、我慢している。
「さて、交渉をしようか」
僕は言い出す。その言葉は魔王に殺されるかもしれないし、強欲という名を冠しているその力でスキルを奪われるかもしれない。
そんな恐怖を笑みに変えて誤魔化す。小さな強がりに、魔王は道化を演じるのを止めた。