2話 ここはどこ?凄いボヤける
誰もが畑仕事の後の一休みをしている昼過ぎ。ある一つの家ではその家の母が呻き、父が心配している家があった。決して病気などではなく、その家では今、新しい命をこの家に迎え入れようとしていた。
あったかい。
それにすごく安心する。
ずっとここに居たい、って、え、あ、頭が!
「・・・」
目がぼやけてどこに出たのか分からない。身体も怠く思うように動けない。なんだか身体全体に重しを付けられたように動きにくく、それでいて生命力が湧き上がるような感覚が身体を駆け巡っている。何か聞こえてくるけど、耳栓を付けたように音が鈍くよく聞こえない。
「おおおおだぁぁあああ!」
その発した声によって新たに気付かされることがあった。
口もおかしいぞ!
えっと海で溺れて死んだよな?いや、ギリギリ生きてた・・・のか?あ、でも生きてたけど脳に酸素が回らなかったから、その後遺症で体がおかしくなってるのか?
やっちまった、体も僅かにしか動かせない。
あれ、何だろう泣けてきた。涙なんていつぶりだろう?今まで溜まってたのか凄い出てくるよ。
あ~あ、こうなるんだったら、殴られても嫌われてもいいから後輩ちゃんのおっぱい揉むんだった。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
部屋には赤ん坊の泣き声が響く。その声は元気に泣いており、最初の唸り声のような声など無かったように泣く。
その声に反応してなのか、呆然としていた身体を動かし、その赤ん坊を冷やさないために布を巻いて上げると、少しだけ泣き声が小さくなった気がしたが、気のせいで済ませることにした。
口が変なまま泣いてると身体に布が巻かれる。
誰だか有り難う。こんな俺に布をかけて・・・って俺、今裸なのか?え、いつの間に?植物状態だったからか?いや、さすがに服は脱がさないだろう、脱がしたとしても体を拭く時だけだろうからこんな布で全身をくるむとかしないだろうしな。あ、でも未来だったら機械がやってくれているのかもしれない、それなら起きたってことを伝えないと。
いや、気付いてるか、俺の恥ずかしい変な泣き声で。これなら死にたかった。こんな恥ずかしいことなんて小さい頃のお漏らししたときだけだよ。
「直ぐに泣かんから心配したけども、こんだけでかけりゃ心配ないの!」
「ありがとうございます」
「んなぁに!いつものこっちゃ。ほれ、もっと布を掛けてやり!早く!あがんぼも早く側に置いてやり!」
視界と聴覚がハッキリしてない。誰が何て言ったとか分からないけど、俺のことを言ってるんだと思う。いきなり変な声で泣き出す変人とか言ってるのか?
誰かに俺の身体が持たれる。そして、さっきまでとは違う場所に置かれた。
置かれた!?手で運ばれた感じがする感覚がしたぞ!俺ってこんなに小さかったけ?いやいや、170はあった・・・165だよ。そんなことはいいや、どうやって運んでんだ?全部機械じゃ説明できないぞ。
そんな疑問が浮かんでくる。それを掻き消すかのように温かい手が俺を撫でてくる。一回、二回と撫でられる。その手に凄い安心感を覚え俺は寝てしまった。
部屋には先程まで泣いていた赤ん坊が居たなど信じられないほど静かになっていた。だが、その静けさも新しく入ってきた者によって再び熱気が戻る。
==(side クレア)==
私にもついに子供が出来た。産まれた最初、泣きはしなかったけれど、その泣かなかった分大きな声で泣いてくれた。本当に、本当に元気に生まれてきてくれた。中々子供が出来なくて悩んでいたのも、生まれた子供が元気に生まれてくるか心配だったのも、この子の泣き声で吹き飛ばしてくれた。私の顔は笑顔で染まってると思う。この子が私の指を掴んでくれているだけで、私の心の内は抑えきれなくなるほど喜びに満ちあふれていく。もう、夢なんじゃないかと思ってしまうほどに嬉しい。私にこの子を授けてくれたガネーシャ様に感謝しないといけないわ。
「ガネーシャ様、あなた様のおかげでこうして我が息子が無事生まれました。この子にももあなた様の加護があらん事を祈ります」
私が手を合わせそう祈るとこの子が僅かに光ったように見えた。
まさかね。私はそう流す。
もし、この子に加護があったらどんな人生を歩むのかしら。歴史に名を遺すかしら?もしそうならいい意味で遺せたらいいわね。
「ふふ」
少し声が漏れてしまったわ。だけど、私以外には誰も気付いてない、この子に加護が付いたことを。
この子にはこの子の道を誰にも邪魔されず進んで欲しい。加護の付いた人は必ずしも他の人に操られ、人生を満足せずに歩むと聞いた。
それだけは嫌だった私の子にはそれだけは嫌だ。この子にはこの子の覇道を進んで貰いたい。
「ふふ」
また笑うが、その姿からは我が子が生まれたことに喜ぶ母にしか見えない。まぁ、その感情が大半なのだが。その彼女の元に一人の男が部屋に入ってくる。
「クレア!大丈夫か!」
「こんの、バッカ!そんな大きな声で入ってたらあがんぼがごんぼほる!」
部屋に入ってくるなり大きな声で言うためにその男の祖母に怒鳴られる。
「叩くな!しかも、婆ちゃんの方が声でかい!」
「二人とも声が大きい」
私が静かにそう言うと二人とも静かになり謝る。まったく、この二人は親子仲がいいのに、いつもこんな感じなのよね。それにしても、この子は起きずに寝てるって・・・鈍いのか、肝が据わってるのか分からないわ。
「貴方、子供が生まれたからってはしゃぐのはいいけど、子供が起きたら怒るからね」
「お、おう」
「お婆ちゃん、そんなにしてるとポックリ逝っちゃいますよ」
「はぁい」
返事が返ってくると眠気が不意にくる。
疲れが一気に来たかな?瞼が何時にも増して重いわ。私はこの子と眠るわ、この子のいい未来を願いながら。
お休みなさい。
瞼をゆっくりと閉じて静かに規則的な呼吸をしながら、息子と一緒に眠りに付くのだった。
夫はその姿を見て冷やしてはいけないと気付き毛布を掛ける。祖母は使った道具類などを片付けるのだった。
二人とも静かに行った後、ただ見守るのだった。子供が元気に育つことを祈って。
東北の方の方言にしたけど、意味は伝わってるよね?