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準備はすべて整った。清々しい晴天に、海も穏やか。
一階の大広間では早朝にもかかわらず、昨日に引き続き大勢の貴族が出発を見守っている。昨夜の祝賀会ではご馳走が並び、これまでにない人出にくらくらしたものだ。たくさんの人にお祝いの言葉をかけられ、踊り何度も乾杯した。きっと、この中に飲み過ぎている者もいるはずだ。わたしは、さっさと退出したが父は何となく顔色が悪い。夜更かししたのだと思う。
壇上に並んだ家族たちと談笑していると、けたたましいファンファーレが鳴り響いた。
わたしは家族ひとりひとりの顔をみて抱擁し、キスを送りあった。
気持ちは伝わっている。
この領が海を有することを示す青絹のドレスに、白い街並みを示すシフォンが腰から幾重にも刺繍を伴って覆い、肩からレースのケープ、頭にはベール付の小さな帽子。
普段からは考えられないほどの豪華な装いだ。
壇上で、できる限り優雅にお辞儀をして胸を張った。ゆっくり階段を下りる。
下りた先には、騎士団が剣礼をして道をあけている。
左右、見知った顔には笑顔で会釈してゆっくりと歩きたっぷりと時間をかけて出入り口まで進んだ。
目の前には紋章を彫り込んだ白い馬車。その御者に、幼馴染の姿が二人。
ふふっと笑みがこぼれた。後ろを振り向いて、大声で言った。
「いってきます!!!」
広間を出ると優しい潮風がベールをなでた。