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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第一章 幼少期
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第8話「街に出ました」

「母様、街に出てみようかと思うのですが」

 金色の髪を丁寧にすいている母親に向かってそう言った。

 街に出れば、マジカが使えないハンデを補える発見があるかもしれない。

 それに王になるからには、国民がどんな生活しているか知っておかないとね。

 そんな俺のセリフに、母親は硬直してた。

 え?何言っているの?という顔だ。

 そんなにおかしなことだろうか。

「街って、城外に出るということ?」

「そうです」

「いけません。城外には野蛮で汚らしい者がいるのです。貴方の身に何かあったら…

 それに王族が何のようもなく城外を出歩くなんて、品格を欠く行為です」

 俺は今5歳児だった。

 子どもの一人歩きは危険というのは治安大国ニッポンでもそうだから、まあその通りだ。

 いやでも、品格を欠く行為って…。

「王族として、民の生活を知ることは大切なことなのではないでしょうか」

「民の生活を知ってどうするというのです。

 民は自分の生活しか考えない自己中心的な人の集まりです。

 我々は管理の仕方を学べばよいのです。民の堕落した生活をして影響でもされたらどうするのです」

 お、おい…。

 一瞬、母親を嫌いになりかけたぞ。本気で言ってるのか。

 いや、これが育った環境、価値観の違いというものなんだろう。

 おそろしい…。

 誰のおかげで飯が食えていると思っているのだ。感謝の気持ちをもてよ。

「我々王族は、民があってこそ成り立つものです。

 民に感謝し、民の意見に耳を傾け、民の生活を優先し、民の心に寄り添う。

 これが王族のあり方ではないでしょうか」

 母親は、その透き通る青い瞳の目を見開いて俺を見つめた。

 そして、すぐ瞳を曇らせた。

「貴方はまだ分からないのね…。

 民は、自分の生活や一瞬の快楽しか見ず、国家の将来も公共の福祉も何も考えない。

 自分の不利益になることがあれば、簡単に文句を言い、あまつさえ暴動を起こす。

 民の意見とやらに煩わされれば衆愚政治になり、政治は停滞し国は滅ぶでしょう」

 …。

 母親は母親なりの考えがあったのか。

 簡単に否定したり嫌いになりかけて申し訳なかったが…。

 それでも俺は納得できない。

 王族には王族の、国民には国民の役割があり、互いに尊敬と感謝が必要だと思うのだが。

 とは言っても、ここで言い合いしてもらちがあかない。

 俺はこの国がどういうものか全然知らないし、政治がどうとかも全然分からない。

「先生の所に行ってきます」

 ということにしておいた。




「それはいいことですね。でかけましょう」

 先生の小屋に入って、前置きせずに母親に対して言ったセリフを言ってみたら即答だった。

 話早いな。

 先生は書きかけていた筆を戻し、安っぽい外套に身を包んだ。

 平民に扮しているのだろう。

「殿下の衣装もあります。これに着替えてください」

 なぜもう用意されているのか。

 そこには安っぽい、というよりぼろぼろな子ども用と思われる服があった。

 俺が街に出ると言い出すのを知っていたのかね。

「先生も、民の生活を見ることは王族の品格を損なうことだと思いますか?」

「王妃様からそう言われたのですか?」

「僕は民に感謝し民の意に沿うことは必要だと考えていたのですが、母様はそれは政治が停滞する原因だと」

「王妃様は生粋の貴族で、王族の苦難の歴史を知っていますからね。そう考えるのは自然なことでしょう」

 母親の発言は事実に基づいたものだったんだな。

 それなら、あそこまで言うのも仕方ないのか。

「先生はそう思わないのですか?」

「政治は、その時代とその文化で正解が変わってきますからね。

 王妃のおっしゃることも理解できますし、殿下が間違っているわけでもありません。

 私個人の意見としては、殿下のお考えを尊敬しておりますし、できるだけその意に沿いたいと思っておりますが」

 なるほど。




 先生のマジカで楽々と城壁を越えた。

 先生のマジカは植物を操る。

 木が生えて俺を昇降させたり、つたで橋を作ったり。

 そうやって、周辺にある森も越え、堀も越え、城下町のようなところに降り立った。

 振り返ると城が大きく見えた。

 あんな大きな城の中にいても、せまっこい人間関係の中にいた。

 それだけに大きく見えたのかもしれない。


「着きました」

 街の様子はバルコニーから眺めたことがあったが、間近で見ると雰囲気が違うな。

 割と背の高い土作りの家が建ち並び、石造りの整った町並みを感じさせたが、近くで見ると埃っぽく質素だ。

 人の往来はままあり、露店や量り売りなど商売が盛んに行われている。

 道ばたに座り込んでいる人が何人かいる。

 乞食か。どこの世界にもいるのだな。

「いかがですか、民の暮らしは」

「ここは市場ですか? 思ったより生き生きと生活しているようで何だか安心しました」

「そう見えるかもしれませんね」

 先生は言葉を濁す。

 そんな意味深な答え方をしたら気になるじゃないか。

「実際は違うのですか?」

「いえ、そうである部分とそうでない部分があるというだけです。

 自分の足で実際に歩いてみると分かるでしょう」


 というわけで、先生と別れて歩くことになった。

 そのほうがより街の実態を知ることができるだろうとのことだ。

 保護者なしで自分で歩いたほうが学びがあるよ、ということだろうか。

 先生は人目につかないところから見ているから、何かあれば助けに来てくれるのだそうな。


 しばらく歩いていると市場を抜け、農村地帯になった。

 くわをもって土を寄せ、雑草は手でむしり、収穫も手作業。

 もっとマジカを応用した農業が展開されていると思ったが、そうでもないらしい。

 先生みたいな能力者がいれば農業もいらなそうではあるが、ちゃんと農業している。

 先生の能力はレアなのか、マジカで解決できない理由でもあるのか、これはあとで先生に質問しよう。


「おい! こっちだこっち!」

 いきなり大声が聞こえて、俺が呼ばれたかと思って振り向いたら違った。

 クワを握ったやせ細った男が、魔術師風の男を呼んでいた。

「分かってますよ!」

 魔術師風の男が気だるそうに答えている。

「早くしねえと畑が死んじまうだろうが」

 畑が死ぬ前に、自分が死んでしまいそうだ。

 カロリー足りてない感じがすごい。

「そんな数分で変わるわけないでしょ…こっちは働きづめなんだ」

 そんなこと言いつつも、魔術師の方は少し小太りで肌つやもよく元気そうだ。

「数分どころじゃねぇ、こちとら何日も待ってんだ。これ以上数分だって待てるか!」

「そんなこと言われても困りますよ」

「余計なこと言ってねぇで、早くしろ」

「………」

 魔術師風の男は、あんたのせいだろと目で訴えかけたあと、手を空にかざした。

 すると、水蒸気が発生した。その水滴が畑に降り注いでいく。

 水の魔術師か。ノワさんと同じだ。

「終わりましたよ」

「こんなペースじゃ畑がもたないぜ。もうちょっと、頻度あげられねぇのか」

「無茶いわないでくださいよ。国内にどれだけの畑があると思ってるんですか」

「今まで一週間に1回くらいきてたじゃねえかよ」

「何度も同じことを言わせないでくださいよ。

 先の戦争で多くの人が亡くなったんです。人手不足ですよ」

「それはそっちの事情だろ。こっちはたくさんの年貢を納めてるんだ。なんとかしろ」

 足下をみると、乾いた土が風でさらさらと飛んでいった。

 ここは雨が降りにくい気候なのだろうか。

 日本と同じ真っ黒い土で、畑にしやすそうな感じだが。

 ここの治水技術はどうなっているのだろうか。

 さすがに治水大国ニッポンみたいな技術はないだろうが、少しは整備を考えた方がよいのではないか。

 毎回マジカで雨を降らしてたら大変そうだ。


「おい! そこの坊主!」

 今度は俺が呼ばれたらしい。

 しかも、なんだかめっちゃ怒っているように見える。

 なんかしたっけか…、見せもんじゃねぇってことなのか。

「お前にやる野菜はねぇぞ…、盗みやがったらただじゃおかねぇ!」

 どうやら乞食か野菜泥棒に見えたらしい。

「いや、ただ眺めていただけで、そんなつもりはありません」

「盗みやがったらぶっ殺すぞ。盗みは死刑、わかってんだろうな」

 わかってなかったっす。

 万引き犯も盗みもオレオレ詐欺も死んでくれた方がいいとは思ったことあるが、死刑はやり過ぎだ。


 予見眼で見たところ、襲ってくる気はなさそうだし、あの人に殴られたところで逆に向こうの骨が折れそうな気もする。

 だが、マジカは未知数だ。

 逃げよう。

「………」

 情けなさ過ぎる…。


「これくらいでいいだろう」

 走りをやめて、息を整えて歩く。

 枯れた畑が目につくようになってきた。

 その畑に点在する民家も、畑にまけず荒んでいる。

 畑にはちょこちょこっと草が生えているが、葉が黄色く変色し、実は望むべくもなさそうだ。

 土がサラサラと風に運ばれていく。

 さっきの人が言っていた、土が死んでいる状態なのか。


「………」

 民家の横を通り過ぎる。

 よく見ると、家の中に2人の男女が横たわっている。

 生きているのだろうか…、がりがりで骨と皮だけしかない。

 しかも虫がたかってもピクリともしない。

 これが農作に失敗した人の末路か…。

 さっきの人が怒鳴るのも分かる。

 明日は自分の番かもしれないのだから。


 

「おかしい…」

 農作物がたわわに実っているところが見当たらない。

 これで、どうして俺たちは食べ物にありつけているのだ。

 この人たちは苦しんでいるのに、俺たちは不自由していない。

 この不作の対策がされているようにも見えない。

 そして城から遠ざかるごとに、貧困はきわめていくようにも見える…。

 王はこの惨状を知っているのか。

 知っていてこの状況なのか。


 俺はまだ知らなかった。

 この国の惨状は、まだまだこんなものじゃないということを…。



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