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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第二章 少年期
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第31話「決議しました」

気がついたら3ヶ月が経っていました……。

3ヶ月…

それでも待っていてくださる方、本当にありがとうございます。

頑張ります!

「執政官よ! 不信任案が多数を持って議決されたと、それで良いのだな!?」

 パトリックが、呆けている執政官に向けて、いらだちを含ませた声で念を押す。

 冷静に役割を演じているように見えたパトリックも、焦りを感じていたのか。

 ここまで計画通りに運んできたんだ。

 このまま、終局を迎えたいという思いは俺だけじゃなかったか。


「………」

 執政官は立ち上がり、辺りを見渡した。


 それに釣られて周囲に視線を移す。

 敵意を感じる視線はない。

 騎士たちはジッとこちらをうかがい見ている。

 肝心のじじいは視線を落としている。

 演技には見えない。


「………」

 執政官はこちらを見た。

 じじいが視線を合わせてくれない今、俺しか視線のやり場がなかったのだろうか。

 俺はその視線をつかむように、見つめ返した。

 なるべく、自信にあふれた顔で、少し微笑みをたたえて。

 うなずいてみせた。

 ここで必要なのは敵意でも恐怖でもない。

 贖罪しょくざいだ。

 許されたいんだ。自分だけは。

 こいつはもう心が屈服している。

 手を差し伸ばす。


 執政官は、差し出された手を握った。


「畏れなくていい」

 なるべく優しい声で諭す。

「パンミック執政官、貴方は歴史の生き証人です」

 さあ、採決を。

 はやる気持ちをおさえつつ、そうささやく。


「待てえ!」

 突然、怒鳴り声が響き渡る。

 声がするほうを見ると、失意の中にいると思っていた、じじいだった。

「……まだ終わっていない。ここまでどれだけの時間と金と労力を注ぎ込んだと思っている」


 しぶといな……。

 簡単にはいかないと思っていたが……。


 パトリックに目配せした。

 じじいは、死ぬしかない。

 ここに集まっている兵は、すべてじゃない。

 外にいる私兵が集まってきたら、もう対処はできない。

 じじいの財力も兵力も、いまだ健在だ。

 今のうちに、殺す!



 パトリックが動く前に、じじいの首は飛んでいた。

 何が起きたのか、一瞬分からなかった。


「遅いよ。ジャン。火種は、敵意を失っているときに踏み消しておかないと。火が大きくなってからじゃあ、遅いんだ」

 第一王子、兄さんだった。

 血がついた剣を握りしめながら、いつもの笑顔で語りかけてくる。

 俺の知っている兄さんとは違う気がして、ぞっとした。


「あ、ありがとうございます」

 ここはそういう世界だ。

 何もおかしいことはない。

 むしろ、おかしいのは俺だ。

 詰めの甘さのために、アマリリスの命と引き替えにしたチャンスをふいにするかもしれなかったんだ。


「詰めは、いてもいけないが、機会を失ってもいけない。周りは俺が見ていてやるから、早く決めてこいよ」


 俺はうなずいて、執政官の顔を見る。

 くちびるからは、すっかり血の気が引いていた。

 俺の視線に気づくと、あわてて口をもごらせた。


「ほ、本案は全員一致で決議された。政権はジャン=ジャック・ド・オーギュスト王子に移行する!」

 

 執政官の宣言が、議会中に広がった。


 決着した。

 汗が出る。

 やり遂げた……のか。


 深く息を吐きながら、視線を下に移す。

 すると、視界にアマリリスが入り込んだ。

 まだだ。

 アマリリスの未来を奪ってでも成し遂げたかったことを、まだ何も成していない。

 

 すべてはこれからだ。

 俺がこの国を救わなかったら、アマリリスの命が、今までのすべてが無駄になる。


「すばらしいね」

 静かになった議会に、兄さんの拍手が響いた。

「やっぱり、お前はすごいやつだったな」


「ありがとうございます」

 戸惑いながらも、そう返事をした。

 誰もが呆けている中、兄さんの拍手は異様に感じた。

 俺の気にしすぎだろうか?


「お前さ、先生から”空から”の景色を見せてもらったんだろ?」

 突然そう聞かれて、何を聞かれているか分からなかった。

 空から?

「ああ、先生の」

 兄さんの言葉を理解して、そう短く返した。

 先生が生やした大木から見た、あの地上の景色だ。

「やっぱりお前も見たんだな」

 そう言う兄さんの目は、心許す級友でも見つめるような目をしていた。

 やっぱり兄さんは兄さんだ。

 ちょっとホッとした。


「綺麗でしたね」

俺がそう言うと、

「そうだな、綺麗だった」

 愛おしそうな顔で、あのとき見た景色を反すうしているように見える。


 兄さんは、なぜ、このタイミングでこの話を持ち出してきたんだろう。

 そう思っていると、

「どう思った?」

 そう聞かれたが、何も答えられなかった。

 何も思わなかったわけではないし、兄さんの思い出に優しく触れるような答え方もいくつかは思いついた。

 でも、どれも正しい答えではないような気がした。

 答えあぐねていると、兄さんは少し寂しそうに笑った。


「俺はさ、なんて俺らが住んでる国は小さいんだろうって思ったんだよ。俺らが住んでいる城なんか砂粒みたいなもんだし、俺らが必死に守ろうとしてる国も、隣の大きな湖に何個も入ってしまう」


 隣の大きい湖って、海のことか?

 先生はどんだけ上空に連れて行ったんだろう。

 まあ、そうか。

 兄さんのことだから、もっと上をって、せがんだんだろうな。

 宇宙からの衛星写真すら普通に見られる前世で生きていた俺にとっては、なんてことのない、“ただの高所からの風景”だった。

 でも兄さんは違った。

 土魔術で建てた建物では、せいぜい10メートル程度。


 すべて打ち砕くものだったに違いない。

 人生をゆるがした大事件だったに違いない。

 兄さんの、他の人にはない達観した感じは、これだったのか。


「そんな狭っこいところで、土地の奪い合いして、あげくに命を奪い合いをしてさ、なんだかバカみたいだよな」


 そうか。

 俺は見放されていたから気楽に生きてきたけど、兄さんは違った。

 国という重い責任を負い、王や家臣からの期待も負い、それに相応しい人であろうと努力し続けた。

 狭い人間関係で、狭い思想の中で、狭いルールの中で必死にもがいていた。

 それがちっぽけなことだと感じてしまったのなら、それはどんな絶望だったのだろうか。


「だから、俺はもう自分を殺したり、大切な人が壊れていくのを見るのをつらいって思うのを我慢するのをやめることにした」


 お前なら俺の気持ちを分かってくれるだろう?

 そう言っているような気がした。

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