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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第一章 幼少期
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第6話「やられました」

 城内のなんにもない敷地を歩いていた。

 生い茂る草の緑と、そびえ立つ城のレンガ色、真っ青な空の青さのコントラストが実にいい。

 空には雲一つないし、さわやかな風が吹いている。

 今日はいい天気だ。

 こういう天気だと、嫌なことも忘れられる気がするね。


「おい穀潰ごくつぶし」

「………」

「おい、無視してんじゃねえよ穀潰し」

「………」

「お前だよ、お前! 厚顔無恥とはお前のことだな!」

 俺かよ。

 話しかけてきていたのは第2王子だった。兄貴だな。一応。

 とはいえ、小学校低学年のくらいのガキが、何いきがってんだコイツ。


「兄様、お久しゅうございます」

 ケンカを売られているようだが、小学生のケンカを買うほど俺も子どもではない。

「お前に兄様などと言われるとムシズが走る」

 ニヤニヤしながら見下してくる。

 やけにからんでくるな。

 ヒマなのかコイツ。


「それは失礼しました。じゃあ僕はこれで」

「おい逃げるなよ」

「用件があるなら手短におっしゃってください」

「なんだと! それが兄に対して言うセリフか!」

 最大限、敬語を使ったはずなんだがさて。

 というか自分で兄とか言ってるぞ。ムシズはどこ行ったんだ。


「お前がな、タダ飯くっている間に、俺は民のために働いてやったんだ。なんで働けもしないクズがのほほんと生きているんだ?」

 初めてのおつかいにでも行ってきたんか?

 俺も初めてバイトして給料もらったとき、親父に働いているアピールしたことがあったが、めったくそに殴られた理由が、今なら分かる気もするな。

 まああんな親父に同情の余地などないが。

「王も甘い。なぜこんな役立たずを生かしておくんだ」

 ふふん、と得意げに言ってくる。

 いつまで続くんだこの会話。ちょっと鬱憤うっぷんがたまってきたぞ☆

 そろそろ殴ろうかな。


「王がやらないなら、俺がやるしかないな。害虫駆除もまた、大切な仕事だ」

 そう言って、腰に下げた柄から剣を引き抜いた。

 え、真剣ですか? 2つの意味で。

「丸腰の相手に真剣は騎士道に反するのでは?」

 小学生だろうが赤ん坊だろうが、刃物はびびる。

「害虫相手に騎士道はいらないだろう」

 俺はマジカで防御力アップとかないから普通に死ぬんだけど、そこんとこわかってる?

 殺人罪だぞ。

 あ、もしかして俺が殺されても事件にならないパターン?


「神には祈ったか?」

 残念ながら祈る神は持ち合わせていない。

 第2王子は中段に剣を構えた。

 本気でやる気か。

 落ち着け、相手は子供だ。

 実戦経験を積むいい機会じゃないか。


 動きを見極め、刃物を避け殴る。

 そして倒れた兄貴に手を差し伸べる。

 兄貴、剣は弱きものをくじくためにあるんじゃない、守るためにあるんだ。

 よし、それでOKだ。


「行くぞ」

 第2王子が剣を振りかぶり、地面を蹴った。

 ビビった。

 小学生にあるまじきスピードだった。

 ママチャリ全力疾走並みのスピードで突っ込んできた。


「!」

 なんとか避けきれた。

 大ぶりだったからなんとかなったものの、剣道みたいに小手や胴とかにいかれてたら終わってた。

 そうだよ、マジカって身体能力もアップするんだったよ。


「生意気に逃げやがって!」

 剣をぶんぶん振り回してくる。

 避けるのが精一杯だ。

 これが一発でも入ったら死ぬ。

 ヤバい、呼吸がつらい。

 脇腹も痛くなってきた。

 足もガクガク言い始めてきた。

 5歳児の体、マジで体力なさすぎだろ。

 いつまで避けられる?

 相手が諦めるまで避けられるのか?

 マジカで身体能力があがっている相手に。


 いざとなったら逃げようと思っていたが、この体でママチャリから逃げられるわけない。

 予想以上にヤバい。

 もしかして死ぬんじゃないか。

 せっかく生まれ変わったのに。


 剣先が右手をかすった。

 熱いと思ったら血が流れていた。

 結構な量だ。

 嫌だ、と言葉にならない声で叫んでいた。

 死にたくない……

 やつがこちらに剣を振り下ろすのが見えた。

 2度目の死だと思った。


 その瞬間、何かに包まれた。

 植物の香りがした。

 と同時に、体にG(重力)がかかり、上に引き上げられる感覚があった。

 何が起きてるか分からないが、体をこわばらせるくらいしかできなかった。

 恐怖とか感じる以前に思考が追いついてなかった。

 第二王子の罵声が聞こえたが、どんどん遠ざかっていった。


 包まれたものがほどけた。

 目の前に先生の顔があったとき、わんわん泣いた。

 安心すると、こんなに涙が出るものなのか。

「助けに行くのが遅れて申し訳ありませんでした」

 先生は抱きしめ頭を撫でてくれた。

 この世界に来てから、泣いてばかりだな俺……。


 その時は助かったことに安心して状況がわかっていなかったが、先生のマジカで助けられたようだ。

 先生がはやしたツタで俺の体を巻いて包み込み、攻撃をガードして、そのままツタを引き寄せて俺を回収する。

 ツタが伸びたり縮んだり。

 なんて便利な能力なんだ。

 こうなるとツタじゃなくて触手だな。

 先生と触手の組み合わせか。

 ………。

 いいね!


………

……


「いいのですか?」

 魔眼を修得するために作られた部屋に、先生とベッドの上で2人で並んで座っている。

頷く。

 俺は、予見眼習得を決意した。


 魔眼が定着するまでは、叫ぶほどの苦痛が続くのだそうな。

 声が漏れないように窓はなく密閉され、ものはベッドと簡易トイレしかない。

 空気穴はあるんだろうな?


「もう一度言っておきますが、この話は遊びではありません。もしかしたら生涯苦痛や錯乱を伴う可能性もあります」

 前回に比べて、格段に言葉が暗くなってる。

 普通なら、ものの判断がつかない年頃だからな。

 何かあっても自己責任、という心持ちにはなれないだろう。


「覚悟は決めました。もし何かあっても先生は気にすることはありません。むしろ、ここまで協力してくださったことに感謝しております」

「殿下は私を信用しすぎではありませんか? もしかしたら私が殿下をだましているかもしれないと思わないのですか?」

「先生なら、こんな回りくどいことをしなくても僕をどうにでもできるはずです」


 昨日はずっと、予見眼の活用方法を考えた。

 いくつか思いついた。

 予見眼の性能が想像より低かったり、相手の防御力と動きが上回っていたら吹き飛んでしまうような方法だが。

 予見眼があると確実に選択肢は広がる。

 マジカがなくとも生きていけるとっかかりを得られるかもしれない。

 かもしれない、程度の話だ。

 そのわりにリスクがでかい気もするが、今はこれしかない。


「お願いします」

「わかりました」

 木のツルが生えてきて、俺の両手両足を縛った。

 え? 拘束するの? 

 そんな疑問を呈する間もなく、先生の手のひらが青白く光った。

 その光はなんだろうと眺めていると、その光が右目の眼球とまぶたの隙間に入り込んできた。


 自分の親指を見てほしい。

 その親指くらいの小人が、眼球の奥にある神経や肉を食い散らかす。

 例えるなら、そういう痛みだ。

 その痛みが、絶えず襲ってくる。

 痛みで失神する。痛みで目が覚める。また痛みで失神する。また痛みで起きる。

 これを繰り返す。

 右目をえぐりだしたいが、両手を縛られているのでできない。

 頭をたたきつけて頭蓋骨を割りたいが、両足を縛られているのでできない。


 長い時間が経ったように思えた。

 急に痛みがひいてきた。


 ジンジンと感じる痛みに、ああ生きている、と思った。

 この世界に俺は生きているのだと思った。

 予見眼とかマジカとか、その時ばかりは頭から完全にぬけていた。

 生きているのだから、死なない限り必死に生きてやろうとか、意味の分からない決意をした。


「良かった……」

 気づいたら、先生がのぞき込んでいた。

 先生は安堵の微笑みを浮かべていた。

 そして、目には涙の跡があった。

 ひどく目がはれていた。


 その先生から、黒いホログラフィーのようなものが出ていて俺の目を触っていた。

 ホログラフィーは先生の手から連続して続いている。

「治療します。しみるかもしれませんがガマンしてください」

 先生本体の手が動き出して、ホログラフィーを回収していくように重なっていく。


 ああ、これが予見眼か。


 数秒先の行動が、断続的に黒いホログラフィーのような像として現れているようだ。

 先生の動きがホログラフィーと合致していく。

 合致する直前のホログラフィーが色濃くブレが少ない。

 先生から離れるほどブレが大きくなるが、動きの可能性が反映されているのだろう。おそらく。   


 ちなみに、先生がぬった薬は先生の言葉通りめっちゃしみた。

   


 しばらくは右目を隠して、安静にして普段通りに過ごした。

 母親にはすごく心配されたが、適当ないいわけをしてごまかした。


 これからのことを考えた。


 今の俺には足りないものが多すぎる。

 ひとつひとつ回収していかないといけない。


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