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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第二章 少年期

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第19話「第1王子が来てくれました」

遅くなりました_:(´ཀ`」 ∠):

いつも申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):

パーティ会場に来た。

バランが気になってあたりを見渡すと、普通にいた。

一瞬目が合ったが、何もなかったかのように視線を逸らす。

まあ、そういう態度だろうね。

今すぐ糾弾してやりたいが、今はどうにもならない。我慢だ。

いずれ吠え面かかせてやる。


今日の目的はバランじゃない。

第一王子だ。

あたりを見渡すと、目が合った。


いつものヨッって感じで手をあげ、俺のほうに来てくれた。

爽やかな笑顔に白い歯が映える。


「お、だいぶ気合の入った服を着てるなあ」

「母様がこしらえてくれたんです……」

パーティに参加するなら当然着るよね? 初お披露目だね!?

という母さんのキラキラした目に負けてしまった。

デビューはまだ先にしたかったのに……。


「かっこいいじゃないか。似合ってるぞ」

「本気で言ってるんですか?」

そう返すと第一王子が笑った。


衣装について、第一王子と話が盛り上がった。

シルクはなかなか手に入らないのに、よくもまあこんなに贅沢に使ってるもんだ、とか、刺繍ししゅうの入れ具合に執念もとい愛情を感じるとか、銀製のボタンとか国花がデザインされてるとか。

「すごいなあ、お前の母親。愛情を感じるよ。この服のデザインはさておいて」

 一番さておいてはいけないところなんですがそれは。


 そのあと他愛もない話をした。

 ある貴族が笑いすぎてアゴが外れて、それを見て笑ってた貴族もアゴが外れたとか、豚の丸焼きが実はまだ生きてて突進してきたとか。


「こうしてお前とのんびり話すのも、なんだか久しぶりな気もするな」

 あいさつ程度なら何度もあるが、そういえば、こんなふうに談笑するのは確かに久しぶりな気もする。

 父親ほどじゃないが、第一王子も監視されているからな。

 今でも黒装束の二人が後ろにいて、俺たちの話を聞いている。

 趣味が悪いな、まったく。

 たまには兄弟水入らずにしてくれたっていいのに。


 楽しいな。

 アリスや先生とも楽しいんだけど、やっぱり男同士だと違うよね。

 第一王子が聞き上手ってのもあるとは思うけど。


「うらやましいな」

 誰に言うでもないような感じで、第一王子がそう漏らした。

「うらやましい?」

「ん、いや、こんな衣装を繕ってくれる女性が母親なんて、うらやましいな、てな」

 第一王子が、少し寂しげな表情を見せた。

「あ、変な誤解しないでくれよ。別に俺の母親がどうということはないんだ。ただ、王の正妻なんて、正気じゃやってけないって話さ」

 寂しげな表情はすぐ消えて、おどけた感じで言った。

 でも台詞が表情と裏腹に、何かディープな感じなんですが……。

 そういや、第一王子の母親って見たことないんだよな。

 王妃なはずなのに。


「最近、いろいろと動き回っているそうだな」

 第一王子が声のトーンを変えずに、日常会話をするかのように聞いてきた。

 いろいろ、というのは、クーデターを起こすために動いていることか。

「ぼちぼちでんな」

 不自然な応答にならないように心がけたらこのざまです。


「ぼちぼち……? お前が思っている以上に敵は強大だぞ。そういう行動力があるところがお前のいいところだけど、命を大切にしろよな」

 監視の二人には聞こえているだろう。

 細かいところは伏せてあるが、それだけ心配してくれているんだな。


「ありがとうございます。いろいろと懲りたので、もうおとなしくしているつもりです」

命を狙われたばかりだし、肝に命じておこう。とは思う。

でもこれくらいの妨害で、本当におとなしくしているつもりはない。

それに先生とアリスがそばにいる限りは大丈夫だろう。

という人任せ。


「兄様、時間作れますか?」

今日はここにきたのは第1王子と話をするためだ。

 Xデーに向けて、第一王子の助けがあれば心強い。


 第一王子は俺の目をのぞき込むようにして見つめた。

 俺の意図を読み取ろうとしているのだろうか。

 なるべく真剣に見つめ返した。

しばらく見つめ合った後、第一王子はうなずいた。

そして、こう言った。

「いんや、それは無理そうだ。後ろのこわいお二人さんが許してくれないだろう」

無理なのか……。

さっきの見つめ合っていた時間はなんだったのか。

例の監視の二人を見ると、フードに隠れて表情が読み取れない。

第1王子でも、さすがに無理なんだろうな。

無理してもらって悪いし、第1王子の協力は諦めるか。

「分かりました。無理を言って申し訳ありません。僕は僕なりにやってみます」

「悪いな。積もる話でもしたかったんだけどな。それはまた今度にとっておくよ」


夜になった。

俺の部屋で月を眺める。

そういや、前世では月なんか眺めたことなかったのに、ここでは毎晩眺めてるな。

きょうは三日月だ。

もうすぐ新月だから、メロン食べ終わったあとの皮みたいになってる。

弓張り月って言うんだっけか。

でもメロンの皮にしか見えない。

時々、父親がメロンを家に持ち帰ってきたが、あれはパチンコか何かの景品だったのだろうか。

その時だけは父親が輝いて見えたもんだ。

メロン、甘かったよな……。

この世界に甘いものといったら、ふかし芋くらいだ。

すっぱいカシス系っぽい果物はあるが、甘みがあるのはない。

バナナやスイカ、メロン……。

「あの自然界に反するような糖度がある果物が食べたい……」


「よおジャン。あんだけパーティで食べてたのに、もう腹が減ったのか」

「え?」

第一王子の声が聞こえたのであたりを見渡してみる。

扉が開いた感じもしなかったし、外に人の気配はない。

聞き間違えだろうか。

疲れてるのかもしれない。

「ここだよ」

俺の布団が動めいている。

「待たせたな」

掛け布団がめくれあがり、中から第1王子が顔を出した。

いつものヨッって感じで手をあげ、爽やかな笑顔に白い歯が映える。


「な、な、な」

思わぬ出来事に言葉が出てこない。

「驚いたろ?」

第一王子が無邪気にそう言う。

「いつから俺の布団に……? そもそもなぜ布団?」

「人目につきたくないからな、外の階段使わずに下の階からあがってきたんだ。そしたらたまたま布団の中に出た」

「出た?」

第一王子がそんな説明をしながら、掛け布団の端を持ち、匂いを嗅ぎ始めた。

「お前の布団、いい匂いがするなあ」

ウットリとした表情で言う。


第一王子の言っていることが意味不明過ぎるが、よく整理をしてみよう。

この部屋に中の階段はなく、出入りは外にむき出しになってる通路兼階段しかない。

上にあがったら布団だった?


「じゃあ、床をすり抜けてあがってきたってことですか?」

「それが俺の能力だからな。知らなかったか?」

知らなかった……。そんな能力あったのか。

いや、そういえば先生から習ってたな。

7種類ある魔術のうちの一つ、陰魔術。

物体を通り抜けたり、逆に見えない壁(結界)を作ったりできる。


「その能力のおかげで、監視にバレずにここに来られたというわけですね」

ってことは、第一王子は自由に動けていたということか。

あれは演技だったのか。


「そんなんだったら話は楽なんだけどな。あの2人も陰魔術師だ」

「え、じゃあ今日は?」

「倒して来た。 今頃よく眠っているだろうな」

ぶっそうなことをサラリと言い放つ。

「そんなことして大丈夫なんですか?」

「なに、監視の人数を増やされて、ちょっと問いただされるだけだよ」

監視の人数を増やされたら、今度こそこうして自由に動けなくなるんじゃ?

「お前が頑張ってるのに、部屋でゴロゴロしているわけにはいかないだろ」

第一王子がそう続けた。

俺が時間が欲しいと言ったから、応えてくれたんだ。

この時間を無駄にしてはいけない。


「兄様、政権を取り戻す準備ができました」

「ほう。すごいなそれは」

口調はいつものようだが、表情は真剣に見えた。

そんなことできるわけないだろ、とか言わないのが第一王子のいいところだと思う。


「ところでジャン、なんでそんなに政権を取り戻したいんだ?」


一瞬、質問の意味がわからなかった。

てっきり、どうやって政権を取り戻すのか聞かれると思って、その質問の答えしか用意していなかったから。

「兄様は、政権を取り戻したいとは思わないのですか?」

「……ジャン、権力なんて虚しいだけだぞ。責任ばかり重くて、その恩恵は大したもんじゃない。しかもその責任は、家族を不幸にする。国のため民のためにと、時に大切な人を切り捨てる決断をする」

それは俺が獣族にさらわれたことを言っているのだろう。

いや、それ以外にもきっと、第一王子はいろんな場面を見てきたのだろう。

王のそばで。


「誤解です。僕は権力が欲しいわけじゃない。ただ、民が苦しむのを黙って見ていられないんです」

俺がそう言うと、第一王子はうなずいた。

「まあ、そうだよな。お前ならそうだよな。悪いな、周りにそういうやつが多くてな」

第一王子は寂しげに笑った。

その笑いは、その“周り”に煩わされただろうことを感じさせるには十分だった。

そして、すぐ笑いは消えた。

「そんなお前だからこそ、伝えたかった。もう、やめとけ」

「やめとけ? 危ないから、命の危険があるから、やめておけということですか? でも、どうにかなりそうなんです」

「それも知ってる。危ないからやめろって言われて、やめるやつじゃない。それに、お前なら本当にやり遂げられそうだ。ただ、やり遂げた後、どうするんだ?」

「やり遂げたあと?」

そう言われて考える。

今の現状が酷すぎるから政権を奪うことしか考えていない。

「そこからは王の仕事なのでは?」


俺がそう言うと、沈黙が流れた。

虫の鳴き声が聞こえた。

弓張り月の明かりは弱々しく、第一王子の表情が読み取れない。

いつもの顔に見えるけど、そうではないものを感じる。


「王に委ねるのか」

第一王子がそう言った。

「三国統一とか夢物語を掲げて戦争を繰り返して、あげく議会を無視して勝手に行動する、あの王に」


第一王子の言葉に驚いた。

第一王子からは、そんなふうに王が見えていたのか。


「兄様は……、王に任せるくらいなら今のままでいいと……」

第一王子は黙ったまま答えない。

そんな煮え切らない第一王子にカチンときた。

「兄様は、民がどれだけ苦しんでいるか知らないのです。それでいて、貴族たちはパーティざんまいですよ!」

「ジャン、貴族たちがどんなに贅沢をしようと、全体からみたらわずかなもんだ。民の生活がなんとかなっていたのは、戦争という名の略奪のおかげだ。重税は何も、貴族が贅沢をしたいだけの理由じゃない」

そう言われて、言葉がつまる。

そうなのだろうか。

そんなこと、先生は何も言ってなかった。


「それでも、それでも僕は、重税に苦しむ民を放っておけはおけません」

「それでいいよ。お前はお前なりに、農業王子とバカにされてもやってきたじゃないか。成果も出ている。民を懐柔して一揆を興そうなんて、誰も幸せになれないことはやめろって言いたいんだ」

一揆を起こそうとしているように、第一王子からは見えているのか。

違う。

でも、目的は一緒だ。


「兄様、それなら兄様が王になりませんか!? 今のままじゃ、国は滅びます!」

「今の政府がどう見えているのか知らないが、機能している。俺たち王族だけじゃ、国の運営はできない」

そうなのか?

それじゃ、俺がやってることって。

「俺はお前が好きだ。そして、この国に必要な存在だ。変な気を起こすな。これは忠告じゃない。俺の願いだ。頼む。今度ばかりは聞いてくれ」

第王子は俺を抱きしめた。

優しい香りがした。

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