第18話「勝負服を手に入れました」
また二週間が経ってました_:(´ཀ`」 ∠):
いつもお待たせして申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):
「パトリックは裏切っているようでしたか?」
バランの襲撃から城に戻る道中、先生にそう尋ねた。
まだ肋骨あたりがじんじん痛い。
先生のツタに守られていたが、気絶するレべルで叩きつけられたからな。
そんな俺をよそに、先生は少し空を眺めたあと、こう言った。
「パトリックが本気で裏切っていたら、私達はここにいなかったでしょうね」
「………えぇ」
死んでたってことね。
怖いわ。
「これからは待ち伏せされないように、考えて動かないといけませんね」
俺がそう言うと、先生は考え込む仕草を見せた。
「心配ですか?」
俺の問いに、先生は首を振った。
「もちろん心配なのですが……、腑に落ちないことがあるのです」
「腑に落ちないこと?」
「狭い国とはいえ、今日、私達がこの村に訪問することが分かっていたのが……、村は多くありますし」
「僕たちの行き先を漏らした者がいると、そういうことですか?」
「そうですね」
「無警戒に端から回ってきたわけですし、相手もバカじゃないですし、予測がついたのではないですかね」
「普通に考えればそうなのですが、そういう可能性も検討しておいたほうがいいと思いまして、その場合は誰が情報を漏らせるだろうと考えていました」
「確かに、可能性はありますね。気をつけます」
俺たちがこの村に訪問することを知っている人が、俺たち以外にそもそもいないと思うのだが、慎重になるにこしたことはない。
向こうが殺しにかかってくる以上、これからは特にだ。
俺は無警戒で脇が甘いからな。気をつけよう。
「お帰りなさい!」
部屋に帰ると、母さんが出迎えてくれた。
今日は元気がいいな。
語尾に「!」がついている。
「なにかありましたか?」
「これを見て欲しいの!」
母さんにうながされるままに、母さんの部屋に入る。
そこにはベッドの上におかれた、とっても派手な服が置いてある。
てかてかに光るスカイブルーを基調をしたシルク製の布地に、金のラインが贅沢に織り込まれ、ポケットがなぜか赤、襟は白くムダに長い、銀製のボタンは大きくて留めるの大変そう。
これを着るのは罰ゲームだけど、見るぶんには楽しめる、かもしれない。
………。
あれ!? 俺の服なのか、これ!
「ようやくできたの!」
そう言って、母さんは服を持って俺に見せつけてくる。
ウッキウキだなあ……。やべえな、これ……。
下手に褒めたら、着なくちゃいけない流れじゃん。
この人、仕事せずにご飯も洗濯もやってもらっている正真正銘の貴族だからな。
まさに国家のヒモ。
その持て余した時間でこんなものを作っていたとは……。
よっぽどヒマだったんだな。
なんて言おう。
飾っておきましょう!とか言って着ない流れに持ち込んでいくか。
そんなことを考えていたら、母さんの笑顔が消えた。
「気に入らなかった、かしら。そうよね、そうよね。私ったら、バカみたい。私みたいなのが作ったって迷惑なだけ」
やべえ、顔に出てた!
そんでもって母さんのメンドくさい性格が出てきたぞ!
もう二十代後半なんだから、そろそろ性格落ち着こうよ!
「あまりに素晴らしい出来なので言葉を失ってました! いやあさすが母様! これ、僕のために作ってくださったんですか!? いやあ、嬉しいなあ! 一生の宝物にします!」
「本当!?」
精一杯ニッコリ笑って頷く。
母さんの顔がパッと華やいだ。
「そうでしょう。ジャンならきっと気に入ってくれると思ってたの! ねえ、着てみてちょうだい。ねえ」
服を押し付けるように渡そうとしてくる。
俺は表情筋を保ちながら、それを受け取った。
やっぱりこういう流れになるか……。
俺ならきっと気に入るって……、俺のセンスって、こんなんだっけ。
ということで、着てみました。
母さんは自分の銀製の手鏡を俺に向けてきて、かっこいい!かっこいい!とはしゃいでくる。
その鏡の中には、トンがった靴を履いて玉乗りするのがお似合いな俺の姿があった。
うん……。パーティ会場でこういう服を着てた貴族いたなあ。
バカにしてたけど、今度は俺が着る番なのか。
因果応報、諸行無常、うんたらかんたら。
「本当に立派になって」
母さんは俺を見つめて、そうポツリと漏らした。
こんな服を着て立派と言われてもなあ。
そう思ってたら、母さんはおそるおそるというような、遠慮がちに裾をつかんだ。
「いつの間にか私より背が高くなって、体もガッシリしてきて、……いつだって遠く
を見てる」
裾を掴む手が、少し震えてる。
この人は本当に距離感不器用な人だな。
息子なんだから、抱きしめたっていいだろうに。
「母さん、すみません。王に認められるという約束、果たせずにもう2年もすぎてしましました」
口からそんな言葉が出てきた。
なぜ、今になってこんなセリフが出てきたのか。
ずっと言えなかったことを、どうしてこういう水を差してしまうような場面で言うのか。
「僕は全然、立派ではありません」
よっぽど俺も不器用だな。
母さんは俺をしばらく見つめた後、首を振った。
「かつての私は、王の後継者を育てることが私の存在意義だと思ってた。それをジャンに押し付けてしまった。でも、違った。ジャンは私がそんなことしなくても、こんなに……」
母さんは言葉をつまらせて、首を垂れた。
「ごめんね。貴方の成長を見守ることがこんなに幸せなことだったんて、知らなかったから」
首を垂れたまま、母さんはそうつぶやくように言った。
「幸せ、ですか」
母さんは肯いた。
なんだか、胸の奥が温かくなるのを感じた。
真の貴族だった母さんが、これを作るのは相当大変だったに違いない。
教えてくれる人もいなかっただろう。
この布地を手に入れるのにも苦労したはずだ。
そう言えば、この世界に来てからいろんなものを与えられて来たけど、母親の手製をもらった記憶が、前世も今世も記憶にない。
「あの時、ジャンは私のために言ってくれたんでしょう? 私はそれで十分」
私を気にせず好きに生きてと、母さんはそう言った。言ってくれた。
でも、申し訳ないけど、それは違う。
「母さん、心外です。それで十分だなんて満足してもらっては困ります。どんなに時間がかかっても僕は約束を果たします。そのためにこれからも僕を見守ってください」
この服はとってもセンスは悪いけど、着心地は悪くない。