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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第二章 少年期

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第15話「パトリック」

結局、一週間休んでしまって申し訳ありませんでした!( ;∀;)あああああ

「あなた。もう蓄えどころか明日の分すらもありません。育ち盛りの子ども達もいるのです。どうか、もう少しだけでも民から取り立てていただけませんか」

 物心着く前から、母が父に懇願し続けたのを見ていた。

 我々が苦しいなら、民はもっと苦しいのだ。

 父に言わせると、そうなるらしい。

 純粋に信じきって、母が、民より自分を優先する小さな女だと思っていた。

 笑える。


「適当なこと言っとけ。あのお人よし領主に、まともに税を納めるだけバカを見るってもんだ」

 齢を7つ数えたくらいの頃。

 当時の友人の家に遊びに行ったとき、彼の両親の会話が聞こえた。

 その領主の息子が、遊びに来ているとは思っていなかったのだろう。

 そのバカ親には今でも感謝している。

 よりバカな父の洗脳から、俺の眼を覚ましてくれたのだから。


「父上のもとで、これ以上過ごすのは無理だ」

 10になったとき、そう言い残して兄上は出ていった。

 俺と母親を残して。

 それでも父は、わからんやつだ、と一言で片づけた。


「お前の父親、戦争孤児を集めているそうだぞ。村が貧困にあえいでいるというのに、のんきなものだな」

 12の頃、友人はそう言って、絶交を言い渡してきた。

 あとで知ったことだが、彼は反抗勢力に属したらしく、権力者側にいる俺とは相容れられないらしい。

 笑える。

 不満があれば集まって反抗するしか能がないヤツらと一緒だったとは。

 俺の目も、存外あてにならないものだ。

 まあ、好きにやってくれ。

 父は父で、俺は俺だ。

 彼にはそうは見えなかったらしいが。

 まあ、民の理解なんてその程度ということだ。


「この村から出ていけ」

 成人を前にして、村の秩序はなくなった。

 日照りが続いて、麦が不足になったのが原因だ。

 麦がとれないのは村人の怠慢であるはずなのに、なぜか我々のせいにされる。

 父は言われるがまま、されるがままだった。

 父が民を甘やかすから、こうなったのだ。

 とんだふぬけだ。

 心底、父には呆れた。

 罵声は昼も夜もやまず、石は投げられ、家の外壁はボロボロになった。


 俺は母親を連れ、この村を出る決意をした。

 この手で食い扶持を稼ぐ。

 それは思っていた以上に大変だったが、父に正義を押し付けられるよりもマシだった。

 

「お前の力、埋もれさすには惜しい。言葉だけ立派に振りかざす父とは違う。私のためにその力、役立ててみないか」

 軍に使役し数年が経った頃、バラン侯爵閣下が持ち掛けてきた。

 自分に反抗していた男の息子であることを知っていてもなお、俺の力が認めたことに、震えた。


「社会が間違っているんだ。これがまかり通るようになれば国が亡ぶ。何があっても正義を貫かねばならない」

 父から手紙が届いた。俺はいつの間にか20を過ぎていた。

 “俺は直、死ぬかもしれない”と書かれていた。

 父が毒を飲んで死んだことは聞いていた。

 父のことだから、自殺ではなく、誰かに暗殺されたのだろうことは想像がついていた。

 最期に父は何を思ったのだろうかと少しは興味を覚えて読んではみたものの、そこに家族への想いは何もなかった。

 俺に託したいことが羅列されていたが、読む気が失せていたので丸めて捨てた。

 自分の元から去った息子にしか頼む相手がいなかったなんて、父の最期はなんとも哀れで滑稽なんだ。 


 父は、最後まで何も変わらなかった。

 父はくだらない正義のために、家族を苦しめ、民に嘲笑われ、誰かに命を狙われ、死んだ。


『月がきれいだったので』

 獣族にさらわれ、一躍時の人となった第三王子が、俺の目の前に現れた。

 王子に会うのは2回目だが、俺のことは覚えていないだろう。

 獣族に、なす術もなくさらわれていくのは、王族ながら情けなかった。

 内心、こんな王子を助けたところで何の価値があるというのだと思っていた。

 そんな出来損ないの息子を助けようと、王が議会に反目したらしい。

 なんともマヌケな話だ。

 親バカもここまでくると、いっそ清々(すがすが)しい。


 そんな王子が俺に会いに来た。

 この国を変えて、重税に苦しむ民を助けたいらしい。

 どうやら父に洗脳された一人のようだ。

 世間知らずの王子らしい。

 国の前に、自分自身をどうにかしたらどうだろうか。


『本当は、お父上のことを心の中では肯定しているのではないですか?』

 人の過去を勝手にほじくり返してくるとは。

 礼儀知らずにもほどがある。

 よりによって、父の話を持ち出してくるとは……。

 いや、違うな。

 もはや他人だ、あいつは。

 そいつのことを触れられたところで、どうということはない。

 力のないくせに、正義を振りかざそうとしてくる。

 王子に対しては、そこが気にくわないだけだ。

 誰かのように。

 力のない正義など、周りをさんざん振り回すだけの害悪だ。

 そう。

 あいつは、害悪だったんだ。


『貴方の父上がどれだけ誇り高かったか、証明して見せましょう』  

 誇り高さ……。

 あいつにそんなものがあるのなら、見せてもらいたいくらいだ。

 子どもの戯れ言だ。

 まともに受け取るだけ時間の無駄だ。


 力のない者の言葉など、聞く耳を持てない。

 そう受け流そうとしたら、俺を説得するだけの手札をそろえてくると言った。

 なぜかヤツには、言葉に真を感じさせる何かがある。


『獣族を仲間にしました』

 王子が再び現れる。

 隣には、獣族がいた。


「そんなことが、ありうるのか……」

 そう言葉を漏らしていた。

 獣族。

 初めて戦ったのは、この王子がさらわれた時だ。

 ヤツらのことは話には聞いていたが、大げさに言っているのだろうと高をくくっていた。

 それが、戦ってみてどうだ。


 たかだか2匹。


 あの日は、国家をあげての行事、武闘会があった日だ。

 警備は厳重に厳重をを重ね、選手も実力者が集まっている。

 その日、実力者はほぼ、あの場に集まっていたと言っても過言じゃない。

 それでもなお、会場に難なく侵入された挙句、一匹を獲り逃した。

 王子をさらわれるというオマケ付きでだ。

 大惨敗だと言っていい。

 あの奇妙な木魔術がなかったら、一匹も仕留められないどころか、多くの負傷者すら出ていた可能性すらある。

 歴代の実力者すら、獣族を忌避していた理由が分かった。


 その獣族を、従えさせている。

 そんなことは誰にも、少なくともこの国の者なら、想像すらもしないことだろう。

 “手札”とは、このことだったのか?

 あの時にはもう、獣族を仲間にする絵を描いていたというのか?


「獣よ、この者にどうして従っている?」

 そう獣族に質問を投げかけた。

「僕らの言葉は通じませんよ」

 王子は、通訳しましょうと言って、獣語を話してみせた。

 言葉を失った。

 言葉が通じるはずもない獣族に話しかけるほどに、俺が冷静さを欠いていたことに気づいたからじゃない。

 王子が獣の言葉を操り、それに獣族が応えていることだ。


 こいつはいったい……。

 何者なんだ……。


「“こいつが魔族と対抗しうる力を備えているからだ”だそうです」

 王子が何事もないように、そんなセリフを言った。

 そんな言葉が頭に入ってこないほど、俺は混乱していた。

 魔族と対抗しうる力。

 そんなのまったく出鱈目でたらめだと、いつもなら取り合わないような話も、こいつなら在りうると思ったくらいだ。


「お前を認めよう」

 こいつは、俺の知らない世界を知っている。

 こいつの考えていることを知ってみたい。

 俺は初めての感覚に支配された。



 そんな王子が俺に要求したことは

“議会に対して、不信任案を提議”することだった。

 何を言っているのか分からなかった。

 議会に対して、言葉だけで、『議会を解散し、議会を再構築するように請願する』だけでいいらしい。


 暗殺でも、武力による制圧でもなかった。

 曲がりなりにも、力だけで貴族にのし上がった俺に頼むんだ。

 まさか俺の役割が、ただしゃべるだけだとは誰も思うまい。


『目指すところは、無血革命です』

 それで、誰も血を流さないで革命が成功するらしい。

 なんとも、子どものような考えだ。

 物語にもなりはしない。


 しかし、この王子の言うことだ。

 あるいは……。


 いや、すべてを信じるには早い。

 それが失敗したとして、俺は反逆者だ。

 今まで積み上げてきたものが、すべて無くなる。


 それに、仮にそれが成功したとしてだ。

 こいつの考えは、父に毒されている。


『統治するものは、民衆です』

 俺はその言葉に、白昼夢から目が覚めたのを感じた。

 獣族を仲間につけたことは、たしかに驚くことだ。

 だがそれと王子の信念とは無関係だ。

 危うく、流されるところだった。


 民衆は愚かだ。

 簡単に流され、簡単に怠け、簡単に人のせいにする。

 それをコントロールするのが我々なのだ。

 それが自然の理だ。


「父が目指した統治は、結局、守ったはずの民衆からの手痛いしっぺ返しだ。飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことだ。やつがしてきたことは間違いだったんだよ!」

 語気が強くなっているのは、俺でも分かった。

 何をやっているんだ俺は。

 やつが間違っていたことなんて、昔からとうに諦めていたことじゃないか。


『それは、本気でそう言っているのですか?』

 王子は、心底驚いたという感じで聞いてきた。

『残念です。貴方のお父上は立派な方でしたが、どうも貴方には何も伝えてこられなかったようだ』

 貴方を説得する手札を、もう一枚お見せする必要があるようです。

 王子はそう言った。


 俺は、王子とその一行に連れられて、自分の故郷に舞い戻ることとなった。

 思わぬ帰郷だった。

 もう戻ることはないと思っていたが……。

 相変わらず、あたり一面の麦畑だ。

 もう収穫時期は終わっているから、五分刈り頭のような切跡しか残っていないので殺風景だな。

 今年の麦は良くれたのだろうか。


「ご領主さま!」

 あぜ道を歩いていると、そう声をかけられた。

 振り返ると、村人らしき老婆がいた。

「お会いしとうござりました」

 泣いて顔をぐしゃぐしゃにして手を握ってくる。

 領主でも、知り合いでもないのだが……。

 それに領主である兄が、このように慕われているのは想像がつかないのだが。

 年のせいでボケているのか?


「領主は私ではない。俺の兄だが」

「ああ、ああ……」

 老婆は手を離して、後ずさった。

「ご領主様の息子様でしたかぁ。とんだご無礼を……」

 老婆はそう言った。

 どうやら老婆の領主は、まだ父のままらしい。

「ご領主様には、大変お世話になりましたで。さんざ迷惑さかけて、少しも恩返しができなかったのが心残りでございます」

 そう言って、老婆は手を合わせて涙を流した。


 俺は何も言わず、その場を立ち去った。

 王子はそんな俺の目を見つめてきたが、言葉は何も発さなかった。


 老婆だけではなかった。

 歩くたび歩くたび、村人は俺を崇めてきた。

 混乱した。


「民衆どもは、俺の家に石を投げつけてきた。来る日も来る日も。麦がとれないからといって、俺たちのせいにしてきた」

「今の人たちが、そのような人たちに見えますか?」

「しかし……、事実だ」

「あなたが見ている事実と、僕たちが見ている事実は違うようです」


 父は力の弱い者を擁護してきた。

 そのしわ寄せは、当然、力のある者になる。

 力がある者たちにとっては、なぜ力もない、生産性もないやつらのために割を食わないといけないかと不満がたまる。

 

 結果、反抗勢力ができ、父を苦しめた。

 いや、父とその家族……俺たちをだ。

 それが俺が知っている民衆だった。

 そうか、それが俺が見ていた事実……。…。


「しかし、その不満は分かる。どうして生産性のない者に、分け与えないといけないのか」

 俺がそう疑問を口にすると、

「僕は生産性のない者の最たる例ですよ。貴方はそんな僕に分け与える必要はないと」

「……王子は、俺にはない力を持っている」

 自分のセリフに驚いた。

 いつの間にか、そこまで王子を評価していることに。


「それなら同じです」

 王子は言葉をつづけた。

「みな、力を持っている。自分に持っていない様々な力が、違った面からこの国を、社会を支えている。それを生産性や力のあるなしの、一方的な物差しで測ろうとするのは、傲慢ごうまんというものです」

 

 やがて、変な土づくりの家にたどり着いた。

 ここが見せたかった“手札”らしい。


 子どもが十余人、おのおの遊んでいる。

 これがかつての友人から聞いた、戦争孤児を集めた場所か。


「貴方に言わせれば、生産性のない施設になるのでしょうね」

 王子はそう言って、子どもの1人を呼び寄せた。


「この子は手を失いましたが、医者の助手になることが内定しています」

 子どもは幼く、まだ7,8歳くらいだろうか。

 言われた通り、手を失っていた。しかも利き手の右の手だ。

 口減らしに捨てられてもおかしくない。

 それが、医者の助手だと?

 普通に暮らしていくのすら難しいのに、医者の助手になんかなれるわけがない。


 王子は次に、体が小さな子を呼び寄せた。

「この子は、地図を書くのが好きなので、測量技術を学ばせています。地形の把握の重要性は、兵士であった貴方ならよく分かるのではないでしょうか」

 王子は、次々に子ども達を紹介した。

 絵がうまいとか、料理がうまいとか、そんな他愛もないものが大半であった。


「所詮は詭弁だ。誰だって何かしらの長所はある。一部は、それが社会に必要とされるだろう。しかし、現実にこいつらは何の益も出さずに、無駄飯を食っているだけじゃないか!」

 語気が強くなっている。

 子どもたちは俺の言葉に驚いている。

 俺は何を言っているんだ。

 まるで大人げない……。


「それじゃ、最後にこの子を紹介します」

 ブロンドの髪の短い10くらいの女子が紹介された。

「レナと言います」

 胸に手をあて礼をした。

 民衆、しかも孤児であるはずなのに、礼を知っている。


「この子はここを卒業していますが、来てもらいました」

「卒業?」

「ここでの学びを終え、社会で自立していることを言います」

 こんな華奢な女子が、社会で自立?

 貴族の奴隷だろうか。

 体力はなさそうで値は安くなるだろうが、この外見なら欲しい貴族は欲しがるのかもしれない。


「この子は、麦の病気を治すことが出来ます。その対価として、食料や衣類など生活に必要なものを分けてもらって生活しています」

「……!」

 こんな幼い子が、しかも女子が、経済的に自立しているだと?

 それに、麦の病気を治す、と。

 そんなのは聞いたことがない!


「麦の病気を治すといったが、こんな年端もいかない女子に、そんな魔法のようなことができるのか?」

 信じ切れずにそう言うと、

「ええ。麦の病気の原因は、菌でしたから。その麦を焼いて処分すれば、被害の拡大はおさえられます」

「病気を持っている麦を焼けば、いいだと?」

「そうですね」

「それなら、誰でもできる。別に、彼女である必要がない」

「そうです。その誰でもできることで、多くの人が救われたんです。別に特別な力があるものだけが活躍できる社会を僕らは目指していません。僕らが目指しているのは、自分の出来ることを、自分なりのやりかたで貢献できる、そんな社会です」


 王子はそう言って、首をふった。

 そしてこう続けた。

「いや、今回のことだけ言うなら、誰でもできるというのは違いますね。菌に侵されている麦を取り残さない観察力、地道にそれを駆除し続ける忍耐力と集中力、これらの作業の必要性を持ち主に説得できる対話力、それは彼女にしか持ち得ないものです」

 彼女に視線を送る。

 彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。

 事実、なのだろう。

 これもまた、俺が知らなかった事実……。


 力が抜けていくのを感じた。

 俺が信じていたものが、なんだか小さいもののように思える。


「これが、父が命をかけてやりたかったことなのか……」

 俺は本当に、父の何も見ていなかった。

 ただ、弱い者を守ろうとしていたわけじゃない。

 皆が共に生きられる社会を目指していたのだ。


「僕は、サックスさんの遺志を引き継ぎます。父上が目指した社会を、共に目指してみませんか?」

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