第12話「交渉しにいきました」
遅くなりました(´`:)
何回も続いてしまっていますね…。
申し訳ありません(>_<。)
「行ってまいりました」
空き室になった隊長部屋で待機している俺に、先生はそう報告した。
「3日目ということもあり、獣族は相当警戒していますね」
先生の肩の服が裂け、傷が見える。
単身で獣族の村に乗り込み、損害を与えて帰ってくる。
そんな危険きわまりない任務に、先生は文句を言わずにこなしてきてくれる。
「すみません。ケガを……」
先生のケガを気にしてそう言いかけると、
「お恥ずかしい限りです。ナンバー1と2を葬ったとはいえ、それはもう5年前の話。今は新しいリーダーが群れをしっかりと統率しています。警戒すべきでした」
先生はケガよりも不覚を取ったことを気にしていた。
この人は、国が恐れる獣族の群れに突っ込んでいって、軽傷で帰ってくるんだよなあ…。
「メッセージは、受け取ってもらえているようでしたか?」
「はい。彼らは魔族の襲撃に備えています」
泣いた赤鬼作戦。
第一段階、“暴れる青鬼先生”は成功している。
先生には単身で獣族を荒らしまわってもらい、魔族がやった証拠を残してもらう。
そしてメッセージ。
『この土地をいただく。速やかにここから退去すること。従わない場合は死んでいただく』
一度魔族に土地を追われて、その土地を奪い返そうと俺を誘拐する彼らだ。
そう簡単に土地を明け渡したりしないだろう。抵抗するはずだ。
それでも、先生はメッセージを残し続ける。
その成果か、獣族は血気だっている。
なんとか先生を倒そうとしているだろうが、うまくいっていないからな。
そこで第二段階、“助けにきた赤鬼王子”だ。
俺らが魔族を捕らえられる作戦を提示し、取引をする。
もう頃合いだろう。
今が交渉時期だ。
「それではいよいよ明日の日中に、獣族に会いに行きます」
さて、俺の出番だ。
日中になり、予定通り出発した。
急な崖を下っていく。
メンバーは、第二王子が先導し、次にアマリリス、すぐ近くに俺、後ろにアリスという隊列になっている。
「ごめんなさい、お父様。先立つ不孝をお許しください」
アマリリスが、そんな縁起でもないセリフをぶつぶつ言いながら顔を青くしている。
「そんなに心配なら、来なくていいんだぞ」
普段はあんだけ偉そうなのに、気が小さいやつだな。
せっかく覚悟してきたのに、またビビっちゃうじゃないか。
「あんた、なんでそんなに落ち着いているのよ……。この中の誰よりも弱っちい癖に。あの獣族相手に交渉しようだなんて。うまくいきっこない」
落ち着いているように見えるか。
常に不安でいっぱいなんだが。
「でもさ、ここでうまくできればさ、国のみんなの生活が楽になるかもじゃん。で、なんにもしなかったら、確実にみんなは困る。餓死か難民か。ともかく明るい未来は見えないな。それだったら、俺ができることをやりたいんだよね」
「失敗したら、死ぬかもしれないんだよ。いや、絶対に死ぬ」
「そうならないようには考えているつもりだけど、保証はまったくないからね。だからお前を巻き込むつもりもない。護衛だからって俺のわがままに付き合う必要ないんだぞ」
俺がそう言うと、アマリリスは黙った。
引き返すのかと思ったら、早歩きで追い抜いていった。
「何がわがままよ。いつも自分よりも他の人のことばっかり考えて。弱っちい癖に。弱っちい癖に!」
アマリリスは俺のほうを向かずに前を向いたままそう言った。
崖をなんとか降り切った。
ここからは第二王子が先導する。
獣族が残した痕跡から、獣族の住処への道をたどっていく。
道はもはや獣道ですらなく草をかき分けている状態で、歩きづらいことこのうえない。
そんな道でも、周りのみんなはすいすい進んでいく。
一方俺は、進みは遅いうえに、すでに疲労困憊である。
マジカで身体を強化できない俺は完全にお荷物状態だな……。
前回獣族の村に行ったときは、行きは獣族におぶってもらい、帰りはほぼ先生におぶってもらってたからな。
そろそろ休憩入れてもらおう……。
日が暮れるまでには帰らないとだから、のんびりできないんだが。
「来たぞ!」
第二王子がそう叫んだと思ったら、強烈なGとともに、いきなり風景が遠ざかっていった。
目の前に獣族が地面に爪を突き立てているのが見えた。
獣族の襲撃!
そう気づいて、血の気が引いた。
俺はあのまま、爪に突き刺されて絶命していたかもしれない。
上を見ると、アリスの真剣な顔が獣族を追っている。
アリスにお姫様抱っこされている。
アリスに命を助けられた。
風景が横に流れる。
アリスは回避に徹しているようだ。
第二王子は他の獣族二匹と応戦している。
こういう事態になることは考えてはいた。
先生のことがあるから警戒もしているだろう。
侵入者はすべて殺すというのが新リーダーの方針というのも考えられる。
また風景が流れたら、金属音が聞こえた。
俺とアリスを狙っていた獣族の攻撃を、アマリリスが受け止めていた。
あんな怖がっていたのに、無茶しやがって。
でもおかげで、しゃべれる。
この戦いと止められるのは俺だ!
「ぼぼぼぼぼ! ぼぼぼぼぼぼぼ!」
俺がそう叫ぶと、獣族の動きが止まった。
第二王子もアマリリスも、向こうが攻撃をやめたらこちらもやめるように言ったので、止まる。
「ぼぼぼぼぼぼ」
もう一度、獣族語で伝える。
「ぼぼぼ」
返事があった。
なんなんだお前? か。
「ぼぼぼ。ぼぼぼぼぼぼぼ」
人間だということ、リーダーに会わせてほしい旨を言う。
獣族は、獣族同士で会話を交わした。
この時点で取り次いでもらえないなら、ここは引き上げ、日を改めるしかない。
会話の成り行きを見守る。
「ぼぼぼぼ。ぼぼぼぼぼぼ」
……。やっぱリスニングは難しいな。
獣によって、なまりも違う。
おそらく、要件を言え、という内容だろう。
「ぼぼぼぼ、ぼぼぼぼぼぼ、ぼぼぼ」
丸暗記した要件のセリフを、習ったまま伝えた。
合っているだろうか。
獣族は黙って俺のほうを見つめている。
片方がもう片方に話しかけ、こちらに手をくいっと自分に寄せた。
ついてこいと言うことだろうか。
獣族は背を向け、跳躍した。
木の枝に着地すると、こちらを見た。
「ついてこい」で、間違いなさそうだ。
「どうやら、お前の望む方向に行っているらしいな?」
第二王子がこちらに来て、耳打ちして言った。
「おそらくそのようです」
「アンタって、獣族だったの?」
アマリリスが目を見開いて、そう聞いてくる。
「違うわ」
俺のどこに獣族の要素があるのかと。
獣語をしゃべったら誰でも獣族なのかと。
まあ、いきなり獣語をしゃべったら驚きもするか。
獣語を覚えるのは大変だったな……。
5年前、獣族の誘拐から還ってきたあとの話。
先生と話をした。
獣族との戦いをなんとか回避しなければいけない。
でも、俺にできることなんて限られている。
ネズミ捕り式防衛ラインを構築すること、先生のアラウラネを使うこと。
それと、交渉。
先生に獣語を習うことを思いついた。
話せれば、戦わずに済む可能性も出てくる。
戦わないことが、最大の防衛だ。
「獣族の言葉はみな同じに聞こえるかもしれませんが、私達と同じように明確な言葉があります。子音は、『ぶ』と『ぶ』と『ぶ』の3種類、母音は『お』と『お』と『お』と『お』の4種類、あと抑揚が、『上がり』『下がり』『平坦』の3種類です。これらを組み合わせて発音、言葉を形成しています」
「子音と母音が全部同じようにしか聞こえませんが……」
先生にそんな感じのことを伝えたら、先生がのりのりで授業が始まった。
とはいえ、お聞きの通り。
獣語は英語以上に区別がつかない。
LとRってレベルじゃねーぞ!
「それは耳が慣れていないからでしょう。発音ができるようになればまた違ってきます。まずは1つ目の『ぶ』ですが、のどを狭めて鳴らすように、『ぶ』 リピートアフターミーさんはい」
無☆理
そんなやりとりから始まった獣会話教室だったが、まあ、必要に迫れればなんとやらというやつだ。
自分の命どころか、国がかかってるからね。
結局は、獣語を使う機会はなく、平穏な日々が訪れてはいる。
そして今になって、使う場面が出てきた。
準備していたものにチャンスは訪れるってやつだね。
なんて、えらそうなことを言ってみる。
けもの道を、目の前の獣族たちが移動していく。
それを俺たちは、黙って後を追う。
罠かもしれない。
おびき寄せて、そこにはいっぱい獣族がいて、一網打尽という不安もよぎる。
しかし、ここまでおびき寄せる理由も少ない。
それに、敵地に入らないと交渉は始まらない。
小屋がついている大木の前で、獣族は跳躍した。
小屋の前に着地し、少し鳴いたあと、中に入っていった。
しばらくしたあと、獣族は小屋から出てきてこちらを見下ろした。
「ぼぼぼ」
入れ、ということか。
中に入ると、あの時の光景が広がっていた。
草の臭いに、暗闇に光る二つの眼。
こいつが新しいリーダーか。
「ぼぼぼぼぼぼ」
どうやら新リーダーは人族語はしゃべれないようだ。
あの長老獣族は頭がよかったんだな。
俺はまた丸暗記したセリフを述べる。
「魔族に追われているのでしょう? 実は我々の土地も危ういのです。ここはひとつ、協力して魔族を倒しませんか。返事は、イエスかノーでお願いします」
すると、新リーダーはイエスと獣族語で答えた。
即答!?




